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黒魔導士  作者: 紺野 睡蓮
第1章
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6話-① 4つの魔法属性

 午後の森には、薄い霧が漂っていた。

 小鳥のさえずりを背景に、僕とスゥスは距離を保ちながら対峙していた。そこにはただならぬ緊張感が張り詰めている。

 きっかけは、ネユさんの何気ない提案だった。

「ベルアさん、せっかく4属性の魔力をストックできたので、思い通りに放出できるようにしてみたらどうですか? ほら、戦闘のときにも役立つでしょ?」

 あのときのネユさんの楽しそうな笑顔を思い出し、僕は深くため息をついた。何気ないその一言が、僕をどれほど苦しめることになるか、あのときは想像もしていなかった。

「ベルアさん、今度は左右の腕で属性の役割を変えてみるのはどうでしょう?」

 スゥスが目の前でナイフをくるくる回しながら、淡々と指示を出す。

 四方には、大小さまざまな的が設置されている。木製の四角い板で、中心には大きく二重丸が書かれている。的には焦げ跡やひびがいくつも付いており、僕がこれまで繰り返し失敗してきた証だ。

 何度やっても、思い通りの属性が放出できなかった。もう手は痺れて、クタクタだ。

 もう次で何度目か、思い出せない。

「わかりました。やってみます」

 僕は汗を拭い、モーションに入る。

 右腕に力を込めて、火魔法の紋様を思い浮かべる。すると手のひらから熱が生じ、赤々とした炎が発生する。

「……はっ!」

 炎を飛ばし、目の前の的に命中させる。木製の的が炎に包まれ、勢いよく燃え上がった。

 次に、左手を構える。頭の中で冷たい水の流れをイメージすると、手のひらに冷気が集まり、水滴が生じた。放出するタイミングを慎重に計り、勢いよく水を放つ。燃え上がっていた的の炎は蒸気とともに消えていく。

 よし、良い感じだ。

「次は風魔法です。水蒸気を一気に吹き飛ばしてください」

 スゥスが指示を出す。

 僕は風を操るイメージを思い描いた。再び右手を軽く振り上げると、周囲の空気が渦を巻き始める。

 手を振り下ろすと、突風が発生し、立ち込めていた蒸気が一気に消え去った。視界が開ける。

「良いですね。最後に雷魔法です。破壊力が強いので、的を正確に狙う練習をしましょう」

 僕は深呼吸をして集中する。頭の中で雷の稲光をイメージすると、体内の魔力がビリビリと響き渡る感覚を覚えた。左手を振り下ろすと、掌から放たれた雷光が一直線に的を撃ち抜く。

「……やった!」

 的は焦げ付き、細かな破片を散らしながら崩れ落ちた。

「悪くないですね。ただ、雷魔法は放出量が大きいので、使用後は必ず体調を確認してください」

 スゥスが淡々と評価を下す。

「この調子で、連続して切り替える練習をしましょう。テンポを速くして、左右で分けることなく、すべてを自然に繋げられるようにしてください」

 スゥスの指導のもと、僕は火、水、風、雷――それぞれの魔法を自在に使い分けられるよう、何度も挑戦を繰り返した。


 全力で走った後には、息が上って体温が高くなる。

 多分、今はそんな状態だった。

 4つの魔法を連続で使った僕の腕は、湯気が立つほど高熱になり、まるでエラーが起きたかのように痙攣していた。

「なるほど。オーバーヒートですね」

 ネユさんが駆け寄ってきて、興味深そうに僕の腕を触診する。

「魔導士も魔法を使い過ぎると、似たような現象は起きますよ。最悪の場合は焼き爛れます」

「えっ、大丈夫ですか? それ」

 ネユさんの落ち着いた口調とはかけ離れた内容に、思わず恐れ慄く。

「魔導士とは身体構造が違うせいで、消耗が激しいんでしょうね。ここまで連続で使うことを想定していませんでしたから」

 確かにこれまでは連続で使用したことすらなかった。バロセア港のときも何回か使っているが、インターバルがあった。

 しかしあの時から好転していることもある。魔法の出力が抑えられてはいたから、身体は怠くないし、魔力も充分残っている。

 僕は自分の腕をもう一度チェックをする。

 オーバーヒートについてはよくわらかないけど、少し休めば、また使えるようになるだろう。

 無茶な使い方というほどではなさそうだ。


「まだ粗だらけですが、コントロールはできそうですね」

 ナイフを収めたスゥスが一息つきながら、怠そうにする。

「どうだろう。考える間もなかったからなあ」

 いや、逆にそれが上手くいったとも言える。

 よく考えるよりも、本能に従って咄嗟の判断で切り抜ける方が得意ではある。

 本当ならスゥスのように考えた上で技術を駆使していく方がいいのだろうけれど。

 そして上手くいった要因は、多分もうひとつある。


「……ネユさん」

 僕はおもむろに呼びかける。

 バロセア港でスゥスに言われたことを思い出していた。

 魔法はその人の性格や心理状態を現す。

 僕がこれまで魔法を任意で上手くコントロールできなかったのは、たぶん迷っていたから。思考の整理が出来ずに流されるだけだったからだ。

「実は今夜、兄さんにテロの誘いを受けているんです」

「……え」

 さすがのネユさんも不意を突かれたのか、驚きの声をあげる。

「憲兵に誘ってもらったことで、自分の中で優柔不断で決め切れないところが、無くなったんだと思います」

 これが正しいかは分からないけれど、決心はついた。

「兄さんがやろうとしていることは間違ってる。だから僕はそれを止めます」

 思い入った決意を眉間に表して、僕はネユさんを見つめた。

「じゃあスゥスと2人で向かってもらいますか」

 ネユさんは手のひらを身体の前でパチンの合わせて、微笑む。

「いや、それは……」

「相変わらず空気が読めませんね」

 僕が言い淀んでいると、スゥスがピシャリと言い切ってくれた。

「話聞いてました? 私がベルアさんの兄を捕えたら、無粋もいいところですよ。ベルアさんだけで行ってもらいます」

「むぅ、そうですか」

 ネユさんは口を尖らせて、何だか納得していないような拗ねた顔をする。こういうところは、本当に子どもっぽい。

「じゃあ研究していた試作があるので、持っていってください」

 そう言うと、ネユさんは踵を返して研究室へと入っていった。 

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