表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔導士  作者: 紺野 睡蓮
第1章
26/32

5話-⑥ 王族

「いやぁ、面白かったですねえ」

 ネユさんは腹を抱えながら、目尻に溜まった涙を指先で拭き取った。謁見の間を後にして、帰るために馬車に乗ったというのに、彼女はずっとこの調子だ。

「いつまで笑ってるんですか……」

 僕はため息混じりに呆れ呟く。ひとえに原因は僕にあるわけだけど。

「だって神聖な謁見の間で、火球を放つなんて聞いたこともないので」

「言わないで下さいよ。この上なく凹んでいるんですから」

 僕が放った飾られていた絵画に直撃した。メラメラと燃えながら爛れ落ちた。

 謁見の間は瞬時に凍りつき、重臣たちは血の気を失い、攻撃を仕掛けた女性憲兵ですら唖然としていた。

 王様とネユさんが大笑いしてくれたおかげで事なきを得たが、普通だったら僕の首は胴体と繋がっていないだろう。

 きっと王政始まって以来、前例のない大事件だ。

 常人には理解できないツボも、2人の気が合う理由なのだろうか。

「というか、あれはスゥスが挑発したことが原因だからね」

「え、私ですか?」

 スゥスは意外そうに、眉を上げた。

「むしろ攻撃を防いだので、感謝して欲しいんですけど」

「……え、そうなの?」

 全く気が付かなかった。そういえば避けた後に、女性の剣らしきものが目に入らなかった。どうやらスゥスが視界の外で止めてくれていたらしい。

 よく考えれば、スゥスがいるのだから不意打ちにあれほど警戒する必要もなかったのかもしれない。しかし考える前に体が動いてしまったから、どうしようもない。

「風魔法みたいだったし、スゥスと同じ攻撃だったから。あの特訓を思い出して、つい……」

「はぁ、あんなのと一緒にされるのは心外ですね」

 珍しくスゥスが嫌悪感むき出しの表情を見せる。

 ただ不機嫌というだけでなく、何かもっと深い憎悪を滲ませていた。あの憲兵と因縁でもあるのだろうか。

 使う魔法も似ていたし、思い返してみたら容姿も。

「も、もしかしてあの人って……」

「ええ。私の母ですよ」

「……っ!」

 僕が言い終わる前に、スゥスが吐き捨てる。

 スゥスの親といえば、ゲヌスという理由で実子を殺した人だ。お互いに敵対心があるだろうし、相容れるはずもない。

 なるほど。あの女性憲兵がやけに突っかかってきた理由が分かった。

 僕がゲヌスであることはバレていないだろうけれど、気に食わない様子で見ていたのは、スゥスがいたのもあるのかもしれない。排他的な思想が強いのだろう。

 というか王様が不必要に憲兵を煽ったせいな気もするけど。


「それにしても王様が子どもだったとは思いませんでした……」

 僕は思い出したように呟く。

「あれ? 言いませんでしたっけ?」

「何も聞いてませんよ」

 それならそうと言ってくれたらいいのに。何も聞かなかった僕も悪いけれど。

「どうしてあんな子どもが?」

「王政というシステムは、実に厄介でして……」

 ネユさんはそう言うと、姿勢を正しながら説明を始めた。

「先々代は病死、先代は戦死、兄は居ますが精神病です。すると純然たる継承権は彼になるわけです。他にも後継がいるようですが、年齢より血統が優先されるようですね」

「なるほど、王族というのも大変なんですね」

 僕よりもずっと年下なのに、それを感じさせない振る舞いと品格。表向きは明るく見せているが、その実、背負うものは計り知れないのだろう。

 僕には想像もできない世界だ。

「まだ政務に関わってはいませんが、こういう式典には顔を出す必要がありますからね。仲良くしてるんですよ」

 ネユさんがゆるりと微笑する。

 なんだかその笑顔は先ほどまでのものとは違う感じがする。強かというか、裏があるような冷笑の様にも見えた。

 いや、気のせいか。

 僕は緊張し過ぎて老け込んだ体を、ソファに深く沈み込ませると、窓から見える現実感のない王城を眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ