3話-③ 集会
「『ヴェデリア』について1つ気づいたんですよ」
僕とスゥスがドラゴン討伐から帰宅して間もなく、ネユさんが口を開いた。
まだドラゴンとの激闘や収獲について話す前だというのに、ネユさんはもう興味がないらしかった。
僕も快活な子どものようにネユさんの話を遮ってまで、自分の話題を持ち出そうとは思わなかった。
そもそも、そんなことをしてもネユさんの気を引くことは難しいだろう。
何より彼女のマイペースさにすっかり慣れてしまっている自分がいた。
「私のような学者ならともかく、一般人、ましてやゲヌスが魔導士の血液を入手するなんて、そう簡単じゃないはずです」
ネユさんの言葉に、僕はハッとする。
たしかにゲヌスが魔導士の血液を手に入れるなんて無理難題だ。
僕が魔力を分け与えてもらうのと同じことで、普通に頼んで貰えるものではない。加担する者が必須だろう。
「協力者がいるってことですか?」
僕と同じ結論にたどり着いたスゥスが、ネユさんに問いかける。
「はい、おそらくそうでしょう」
ネユさんは頷き、推理を続ける。
「そして協力者も表立ってゲヌスと接触はできないはずです。どこかで秘密裏に魔導士の血液の取引が行われるはずです」
つまりその場所を特定すれば、彼らの取引を阻止できるわけだ。これ以上のテロは防げるはずだ。
でも、それって……。
「そうは言っても、その場所も何の手がかりもなければ、何もできないんじゃないですか?」
「いえ、案外そうでもないかもしれません」
ネユさんは口元に手を当てて、何かを考える素振りを見せた。
「最初にテロがあったバロセア港で、二回ほど不穏な動きがあったことはご存知ですか?」
「あぁ、スゥスから聞きました」
セウル地区が憲兵の手によって規制されていたのは、そのことがあったからだとか。
テロの後に複数人が集まっているのを目撃されて、証拠隠滅を疑われたらしいけれど。
それと今回の件に一体何の関係があるのだろうか?
「その集会が血液の取引である可能性が高いです」
「え? どうしてそう思うんですか?」
僕が尋ねると、ネユさんがすぐ近くにあったカレンダーを取り出した。
そこにはテロが発生した日付に印が付けられている。
「バロセア港での集会が報告された2度は、いずれもテロが発生した日の3日前だからです。そこで協力者と会っていたと考えられます。もちろん何の裏付けもありませんけれど」
「なるほど、一理ありますね」
スゥスが小さく頷いて同意する。
「集会はテロの証拠の隠滅なんかではないということですか?」
「ええ、血液を投入する方法が実際に使われているのならば、隠滅を徹底するほどの証拠ではありません。荒野で注射針を採取して検証する、なんてところまで考慮していないでしょうからね」
納得がいく推測だった。確かに、計画に必要な取引の方が筋が通る。
「それなら、今夜からバロセア港の警備を行いましょう」
スゥスが提案し、僕の方に目を向ける。
「ベルアさんも一緒に来てください」
「え? 僕も?」
「ええ。広いバロセア港を私一人で見張るのは無理ですし、魔法を上達させるには実践が一番ですから」
「すごい荒治療だね……」
僕は顔を引き攣らせる。
たしかに魔法は制御できていない。でもいきなり実践だなんて。
「憲兵に出動要請を出しちゃだめなの?」
あまり頼りたくはないが、一応この国の秩序維持を担っている存在だ。通報した方が、『ヴェデリア』を捕まえる確率が上がるかもしれない。
「それは止めた方がいいかもしれません」
ネユさんが自分の考えを確認するかのように、ゆっくりと呟く。
「テロに加担している者が判らない以上、協力は仰げません。それに大勢で押し掛ければ、相手側にも発見されるリスクが高まります」
「分かった。じゃあ2人だけで行こう」
僕は意を決して、そう告げる。
「それではその服を何とかしなきゃいけませんね」
ネユさんは僕を一瞥して言う。
そういえば僕は動きやすいからという理由で、スゥスに渡された軍服を着たままだった。
このままバロセア港に向かうわけにはいかない。目立ちすぎる。
「できれば闇に紛れるような服がいいのですが……」
スゥスは腕を組んで、思案する。
そうは言っても、ここには僕の服は一着もない。
他に僕が着られるものといえば、目覚めた時に着ていた水色のスウェットくらいだ。あれでは目立つことこの上ない。
するとネユさんが唐突に身を乗り出してくる。
「あぁ、黒い服でよければ、私のこれを貸しましょうか」
弾んだ声でそう言うと、研究室の脇に追いやられたガラクタの山を漁り出す。
「ネユさんの服だとサイズが合わないんじゃ……」
僕が言い終わる前に、ネユさんの喜々とした声が聞こえてくる。
「これです、これ」
見るとネユさんの手には、昨日の爆発で真っ黒になった研究着が握られていた。




