閑話休題 特別なクリームパン
昼休み。
購買部の前には、珍しく長い列ができていた。
「特別なクリームパン!」
そんな張り紙が出ている。
クリスは、その列の最後尾に並んでいた。
「……あと少し」
目的は一つ。
クリームパンだった。
普段なら、わざわざ並んでまで買うことはない。
しかし、今日は違う。
朝、購買部のおばちゃんから聞いたのだ。
「新商品のクリームパン、すっごく美味しいよ」
その一言が、妙に気になっていた。
そして――。
「次の方どうぞー!」
ついにクリスの番が来る。
「クリームパン、一つください」
「ごめんねぇ。ちょうど今ので最後なの」
「……え?」
クリスの表情が固まった。
「最後……?」
「うん」
目の前で、最後の一個が別の生徒の袋へと入れられる。
クリスはしばらく、それを見つめていた。
「……そうですか」
「また明日ね」
「……はい」
クリスは静かに列を離れた。
その姿を、少し離れた場所から見ていたロストが呼び止める。
「クリス」
「……ロスト」
「どうした?」
「クリームパン……」
「売り切れたのか?」
「……うん」
「そうか」
ロストは少し考える。
「じゃあ、明日は俺が買いに行こう」
「え?」
「いいよ。そこまでしなくても」
「いや」
ロストは真剣な顔をする。
「俺もクリームパンが気になる」
「え? 普通のクリームパンでしょ?」
「……? 知らないのか、クリス。あのクリームパン。食べると願いが叶うらしいぞ」
「購買のパン一つでも、大層な話だね」
どうやらクリスは信じていないらしい。
「本当なんだ! 食べたやつらがそう言っていたんだ!」
ある人物は、ずっと欲しかった小物を、たまたまフリーマーケットで見つけたらしい。
またある人物は、テストの成績が上がったらしい。
そして、ある人物は好きな人に告白して、成功したらしい。
「こんなの聞いたら気になるだろ?」
「それが本当ならね」
「だから、確かめたくてな。明日、必ず手に入れるぞ!」
変なところでやる気になったロストを、クリスは呆れたように見つめるのだった。
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次の日。
昼休みのチャイムと同時に、教室を飛び出すロストとクリス。
購買に着いた二人は、目を疑った。
「バカな……!」
あれだけ早く飛び出したにもかかわらず、購買を埋め尽くすほどの人混みだった。
「情報が漏れたというのか……!」
ロストが歯を食いしばる。
「ねぇ、ロスト。諦めようよ。学食行こ?」
「いや、ダメだ……。俺はなんとしても、あのクリームパンを手に入れなきゃいけないんだ……!」
覚悟を決めろ。
ロストは意を決して、人混みの中へ飛び込む。
そして――。
弾き返される。
「くそ……! 俺は無力だ……」
その場に崩れ落ちるロスト。
その一連の流れを、クリスは冷めた目で見ていた。
そんな時だった。
ふわふわっと、こちらへ近づいてくるルルー。
「あいつ、なんで崩れ落ちてるの? なんかあった?」
クリスは、ルルーに事情を説明する。
「ふーん。そんなに欲しいなら、あげるわ」
そう言うと、ルルーは持っていたクリームパンをクリスに手渡した。
そして、そのまま何事もなかったかのように去っていってしまう。
「ありがとう、ルルー」
クリスは去っていくルルーに礼を言うと、崩れ落ちているロストへ近づいた。
「ロスト、クリームパンよ。食べたかったんでしょ?」
「クリス……! あの中に入ったのか……? よく無事で……!」
どうしてこの人は、こんなにもクリームパンに必死なんだろう。
クリスは、ルルーがくれたものだと伝え、そのままクリームパンをロストへ渡した。
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二人は近くのベンチに腰掛け、お昼を食べることにした。
ロストは、手の中のクリームパンをじっと見つめている。
「それで、ロストは何をお願いするの?」
クリスが、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「まぁ、俺も本気で信じてるわけではないんだがな」
そう言いながら、ロストはクリームパンを半分に割る。
そして、その片方をクリスへ差し出した。
「? 私にもくれるの?」
「ああ。俺の願いは、クリスと一緒だからな」
「一緒に強くなろう」
ロストは、少しだけ笑う。
「こんなものは願掛けでしかないが、この思い出がいつか、力になるかもしれないだろ?」
そう言って、ロストはクリームパンを口にする。
その言葉に、クリスの胸がほんの少しだけ温かくなった。
「……確かに、特別なクリームパンね」
クリスも微笑みながら、クリームパンを一口食べる。
そして、小さく呟いた。
「……美味しい」
二人の昼休みは、そんな何気ない時間として過ぎていった。




