十八話 初めての後輩
「フィン・アグネといいます! よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げてきた小柄な少年。
彼が、明日の合同訓練でロストと組むことになった後輩だった。
「ロスト・クライシスだ。明日はよろしく頼む」
ロストはそう言って手を差し出した。
「はい!」
フィンもすぐに手を差し出し、二人は固く握手を交わす。
「早速だが、お互いの戦い方や能力について共有しておこう」
ロストはそう切り出してから、少し苦笑した。
「と言っても、俺には魔力がない。剣で戦うくらいしか説明することはないが」
「なるほど……」
フィンは納得したように頷いた。
その様子を見て、ロストは少し首を傾げる。
――俺が無能力者だということまで、後輩に知られているのか?
そんな疑問が頭をよぎった。
しかし、どうやらそういうことではないらしい。
「どうりで、先輩から魔力を感じないと思いました!」
「……魔力を感じない?」
ロストが聞き返すと、フィンは自分の胸元を指差した。
「僕、魔力の流れを感知できるんです!」
「感知……」
「はい! ある程度の距離なら、知っている人の魔力を探し出すこともできます。それに、魔力が強い人を見つけることもできます!」
フィンは得意げに胸を張った。
なるほど。
ロストはようやく理解した。
――感知系の能力か。
戦闘そのものではなく、敵や味方の位置を把握することに特化した能力。
使い方次第では、かなり便利な能力だ。
「それがフィンの能力なんだな」
「はい!」
「それで、どんなふうに戦うんだ?」
ロストが尋ねると、フィンはきょとんとした顔をした。
「……?」
そして、何でもないことのように答える。
「戦いませんよ!」
「……戦わない?」
「はい!」
フィンは満面の笑みを浮かべた。
「相手を感知して、気づかれる前に逃げます!」
「…………」
あまりにも堂々と言い切ったため、ロストは言葉を失った。
「……逃げるのか?」
「逃げます!」
迷いのない返答だった。
「戦う訓練だとか、これまでにもいろいろあっただろう?」
「はい!」
「それを、戦わずにどうやって乗り切ったんだ?」
ロストが尋ねると、フィンは指を一本立てた。
「自分で戦う訓練のときは、魔力量が一番低い人を探して、わざと負けました!」
「わざと……」
「チームを組むときは、魔力量の多い人のチームに入れてもらいました!」
フィンはさらに一本、指を立てる。
「人数がいれば、僕が直接戦う役じゃなくても役に立てますから!」
「……なるほどな」
ロストは思わず感心した。
ただ逃げているだけではない。
自分の能力を理解し、自分の弱点を把握したうえで、どうすれば自分が生き残れるのかを考えている。
そして、そのためなら戦わないという選択すら迷わず取る。
――こいつ、なかなかしたたかだな。
ロストはフィンを見ながら、そう思った。
だが、それと同時に一つだけ気になることがあった。
「ただな」
「はい?」
「自分の意思で相手を選べない状況も、そのうち必ず来る」
ロストの言葉に、フィンの表情が少しだけ曇った。
「……はい」
「逃げることが悪いとは思わない。むしろ、自分の能力を理解して生き残ることは立派な戦い方だ」
フィンが顔を上げる。
「だが、どうしても逃げられないときに、自分の身を守れるだけの力はあったほうがいい」
「……」
「だから、力をつけるに越したことはないぞ」
フィンはしばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「分かってはいるんですが……なかなか……」
その声には、少しだけ自信のなさが滲んでいた。
ロストはそんなフィンの様子を見て、ふっと表情を緩めた。
「なら、明日はそれでいい」
「え?」
「今回の訓練では、俺がフィンの剣になろう」
フィンが目を見開く。
「俺が前で剣を振るう。フィンも自分の能力でできることを探してくれ」
「……!」
「俺たち二人の能力を合わせれば、きっと上手くやれる」
「協力して、今回も乗り切ろう」
「はい!」
満面の笑みを浮かべ、フィンがお辞儀した。
「よろしくお願いします、ロスト先輩!」
「ああ。こちらこそよろしくな、フィン」
こうして二人の顔合わせは終わった。
戦う力を持たない少年と、魔力を持たない少年。
一見すれば、どちらも戦闘には向いていない。
しかし、だからこそ。
二人の力を組み合わせたとき、どんな戦い方ができるのか。
ロストは、初めての後輩と明日の訓練が少し楽しみになっていた。




