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一話 世界でただ一人の無能力者


「ロスト・クライシス。お前まだ努力してるのか?」


教室に笑い声が響いた。


「これで何回目だよ。いい加減才能がないって認めたらどうだ?」


「いや、才能以前の問題だろ。魔力が一ミリもないんだからな」


「この前の魔力測定もゼロだったんだろ?」


「そんな奴見たこともねぇよ!」


教室の中央。


周囲の視線を浴びながら、一人の少年が立っていた。


ロスト・クライシス。


年齢は十七歳。


黒髪に少しばかり鋭い目つき。

身長は平均よりも高く、筋肉は同年代の戦闘科の生徒たちと比べればいくぶんかついているほうか。


容姿だけならどこにでもいる少年だった。

しかし、彼には一つだけどうしても普通ではない特徴があった。


「魔力測定、測定不能。異能力、未発現。適性、なし」


教壇に立つ教師が感情のこもらない声で告げた。

教室が再び笑いに包まれる。


「未発現じゃなくて、そもそもないんだろ!」


「十七歳で未発現なんて聞いたことないぞ!」


「いや、世界には例外もあるんじゃないか?」


「例外っていうか、欠陥だろ!」


ロストは何も言い返さなかった。

ただ、机の上に置かれた測定結果を受け取ると静かに席へ戻った。

紙に記された数字は何度見ても変わらない。


魔力量――ゼロ。


異能力――なし。


属性適性――なし。


総合判定――戦闘職適性、極めて低い。

学院入学後何度も見てきた結果だった。


「……またか」


小さく呟きロストは紙を折り畳んだ。

悔しくないわけではない。

むしろ、悔しいに決まっている。

同じ年齢の少年少女たちが自分の力を磨き昨日より強くなっていく。


炎を操る者は、より強い炎を生み出せるようになる。

水を操る者は、より深い傷を癒やせるようになる。

風を操る者は、誰よりも速く走れるようになる。

地を操る者は、鋼鉄のような肉体を手に入れる。


それぞれの能力は生まれた瞬間から完全に決まっているわけではない。

鍛えれば伸びる。

知識を得れば応用できる。

経験を積めば戦い方も変わる。

だからこそ、人々は努力する。

自分に与えられた才能を最大限に引き出すために。

しかし、ロストにはその努力を注ぎ込むための力そのものがなかった。


魔力がなければ異能力は使えない。

異能力がなければ、魔物との戦闘は難しい。

戦闘ができなければ危険な任務をこなすことも、国の防衛に携わることもできない。

この世界において魔力とは呼吸と同じくらい当たり前のものだった。

誰もが持っている。

持っていることを疑いもしない。

だからこそ、持っていない者の存在を人々は理解できなかった。


「先生、もう一度測定してもらうことはできますか?」


ロストが尋ねる。

教師は眉をひそめた。


「結果は変わらん。測定器も正常だ」


「そうですか」


「ロスト。お前ももう十七歳だ。そろそろ現実を受け入れろ。卒業後の進路を考えるなら戦闘職は諦めて事務職か商業職を目指した方がいい」


「……」


返事はできなかった。

教師はそれ以上何も言わず次の生徒を呼んだ。

ロストは窓の外へ目を向けた。


青い空。

遠くにそびえる王都の城壁。

その向こうには数え切れないほどの人々が暮らしている。

そして、城壁のさらに外側には人間を襲う魔物たちが存在していた。


この世界では魔物の脅威から人々を守るため、各国が騎士団や冒険者ギルドを組織している。

彼らは人々を救い、街を守り、危険な土地を切り開く。

力ある者だけが立てる場所。

ロストが幼い頃から憧れ続けてきた場所だった。


「……諦める、か」


彼は窓に映る自分の顔を見つめた。

そして、誰にも聞こえないほど小さな声で言った。


「できるわけないよな」


それが、彼の本音だった。

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