十六話 適性のある武器
「うーん……」
ルルーは森の中で腕を組み、目の前に並べられた武器を眺めていた。
剣。槍。ムチ。弓。斧。棍棒。チャクラム。ナイフ。クロスボウ。
その他にも、様々な武器が地面に並んでいる。
どれも一度は手に取ったことのあるものだ。
しかし、ルルーには悩みがあった。
自分には、これといって武器を扱う才能がない。
筋力は弱い。
剣を振り続けるだけの力もない。
槍や斧を使ったところで、身体能力に優れた相手には敵わない。
弓も悪くはないが、遠距離から攻撃するだけなら、魔力によって自身の速度を高められるルルーの長所を十分に活かせない。
「あたしに合った武器は何かな……」
腕を組んだまま、ルルーは自分の能力について考える。
風の魔力。
それを身体に纏わせることで、自分自身の速度を大幅に高めることができる。
さらに、物質にも魔力を纏わせることができる。
物体そのものを速く動かす。
それが、ルルーの得意とする力だった。
「筋力は弱い。魔力は平均くらい……」
一つ一つ、自分の長所と短所を整理していく。
「でも、速く動かすことならできる」
ならば。
自分の弱点を補うのではなく、長所をさらに伸ばしたほうがいい。
そう考えたルルーの視線が、一つの武器に止まった。
「やっぱり……これかなぁ」
手に取ったのは、一枚のチャクラムだった。
円盤状の刃を持つ投擲武器。
ルルーがかつて使っていた武器でもある。
「この武器には、あんまりいい思い出はないんだけど……」
チャクラムを見つめながら、ルルーは少しだけ顔をしかめる。
それでも、すぐに表情を引き締めた。
「そうも言ってられないよね」
過去に何があったとしても。
今の自分に必要なら、もう一度向き合うしかない。
ルルーはチャクラムを握り直した。
そして――
「はっ!」
勢いよく投げ放つ。
チャクラムは空気を切り裂きながら、木々の間を飛んでいく。
「――戻れ!」
ルルーが魔力を込める。
風がチャクラムを包み込み、その軌道を変える。
ぐるりと弧を描いたチャクラムが、ルルーの手元へ戻ってきた。
「よし……!」
続いて、少し離れた場所に設置された訓練用の的を見る。
今度は、そこを狙う。
「いけっ!」
チャクラムを投げる。
しかし――
ヒュンッ!
「……あ」
狙った的から大きく外れ、チャクラムは明後日の方向へ飛んでいった。
「全然当たらない……」
ルルーは頭をかいた。
ただ投げるだけなら難しくない。
問題は、その先だった。
チャクラムを狙った場所へ正確に飛ばす。
そして、魔力によって軌道を自在に操る。
さらに速度を上げ、威力を高める。
「力を使わないと、ちゃんと飛ばせないな……」
落ちたチャクラムに魔力を纏わせ手元に引き寄せる。
「まずは精度を上げないと……」
「よし。もう一回!」
投げる。外れる。引き寄せる。
投げる。また外れる。
それでも、ルルーはやめなかった。
少しずつ狙いを修正する。
角度を変える。
力加減を変える。
何度も繰り返すうちに、少しずつチャクラムの軌道が安定していった。
「……!」
今度は、的の端をかすめた。
「惜しい!」
もう一度。
ヒュンッ!
今度は的の中央に当たった。
「当たった!」
ルルーの顔に笑みが浮かぶ。
だが、まだ終わりではない。
「次は……操る!」
チャクラムを投げる。
的へ向かって飛んでいくチャクラムに魔力を送り込む。
風が刃を包み込んだ。
「右!」
軌道が変わる。
「左!」
再び軌道が変わる。
「そのまま――!」
ザンッ!
チャクラムが訓練用の標的を切り裂いた。
「やった……!」
ルルーは拳を握る。
この武器なら、自分の速度を活かせる。
投げる。
操る。
切り裂く。
そして――
「戻ってこい!」
魔力を引き寄せる。
チャクラムが弧を描き、再びルルーの手元へ戻ってきた。
「これなら……」
自分にも戦える。
そんな確かな感覚が、少しずつ生まれていた。
しかし。
「……まだまだ!」
ルルーは再びチャクラムを構える。
投げる。切り裂く。引き戻す。
投げる。切り裂く。引き戻す。
何度も。
何度も。
魔力が減っていく感覚を無視して、ひたすら繰り返した。
やがて――
カラン、カランッ。
チャクラムが地面に落ちた。
「……あれ?」
伸ばした手に、魔力が集まらない。指先が震える。
何度試しても、チャクラムを引き戻すことができなかった。
「魔力切れか……」
ルルーはその場に座り込む。
身体から力が抜けていく。
そして、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
「はぁ……」
見上げた空は、木々の隙間から赤い夕陽の光が見えていた。
魔力が完全に空になるまで力を使い続けたのは、いつ以来だろう。
「疲れたなー……」
汗で濡れた身体に、森を吹き抜ける風が触れる。
火照った肌を冷ましていく風が心地よかった。
ルルーは目を閉じる。
すると、不意にいつかの講義を思い出した。
――魔力を伸ばすこと。
――魔力量は、一朝一夕では増えない。
――成長の過程で自然に増える量には限界があり、そこには才能による差がある。
しかし。
生まれ持った才能だけが、全てではない。
「……後天的な部分でも、伸ばすことができる……」
以前、教師がそう説明していた。
その方法とは。
限界まで魔力を使い切ること。
筋肉と同じように、魔力も使い込むことで身体が変化する。
限界まで使えば、身体は次に備えて、より多くの魔力を蓄えようとする。
一度では小さな変化。
だが、それを毎日繰り返せば。
昨日より今日。今日より明日。
少しずつでも、確実に魔力量を増やしていくことができる。
そのとき、一人の生徒が質問した。
『先生。じゃあ、誰でも魔力量をものすごく増やすことができるんですか?』
教師は少し間を置いて答えた。
『理論上は可能だ』
そして――
『だが、実際にやるのは簡単じゃない』
魔力を限界まで使い切る。
それを毎日続ける。
それは想像以上に苦しい。
「実際は……大人でも三日ももたないくらい辛いから、難しい……か」
ルルーは小さく呟いた。
今日一日だけなら、できる。
しかし、それを毎日続けるとなれば話は違う。
それでも。
「……やるしかないよね」
ルルーは空を見上げた。
今日の訓練で、劇的に強くなったわけではない。
チャクラムの精度だって、まだまだ低い。
魔力量だって、ほんの少ししか増えないだろう。
それでも。
今日という一日は、確かに昨日とは違う。
「……今日は、ここまででいいや」
ルルーは苦笑した。
立ち上がる力すら残っていない。
だから今日は、ここまで。
明日になれば、また続ければいい。
小さな一歩。
それは、長い目で見れば取るに足らないものかもしれない。
けれど。
一歩を積み重ねれば、やがて道になる。
今日の努力が、明日の力になる。
そして、その積み重ねが――
いつか、自分を大きく変える。
「……約束、したもんね」
ルルーの脳裏に、あの森での出来事が蘇る。
あの日、交わした約束。
それを思い出しながら、ルルーは静かに目を閉じた。
今は少しだけ休もう。
次に目を覚ましたら、また一歩進めばいい。
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ロストも。
ガルドも。
クリスも。
そしてルルーも。
奇しくも同じ日に、それぞれの場所で強くなるための一歩を踏み出していた。
生まれも違う。育った環境も違う。性格も違う。持っている能力も違う。
歩んできた道も、目指す場所も違う。
それでも。
四人はまだ知らない。
遠くない未来。
自分たちが肩を並べ、同じ戦場に立つことを。
それぞれが積み重ねた小さな努力が、やがて一つの大きな力になることを。
そして――
いつの日かこの四人が人類の希望に変わることを。
一人の予言者が確信していた。




