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7-2-13 神の悪戯2

原子炉建屋の内部には崩落した瓦礫が堆積し、事故後の状況も、いまだ完全には解明されていなかった。


それでも、小夜の魔導AIが驚くほど精密な地形データを提出したことで、作業効率は大幅に向上していた。複雑に入り組んだ瓦礫の配置や通路の状態が次々と明らかになり、目標地点へ向かう進路は順調に確保されつつあった。


原発事故の影響で、施設内部の電子機器の多くは損傷し、制御システムもほぼ完全に機能を停止していた。特に原子炉の近傍では放射線量が高く、電磁波の干渉も激しいため、通常の通信機器はまともに作動しない。


しかし、今回の作業には、無人作業用に開発された耐放射線性の特殊無線技術が導入されていた。通信できる範囲や条件には制約があるものの、ドローンや遠隔操作式の重機を動かすことは可能だった。


月奈たちは、原子炉建屋から数百メートル離れたシェルターの中で待機していた。ノクターナルが事前に用意した防護施設で、壁面は鉛を多く含む遮蔽材で覆われている。放射線量は比較的低く抑えられており、内部には作業状況を監視するためのモニターが複数並んでいた。


画面には、建屋内を飛行するドローンから送られてきた映像がリアルタイムで映し出されている。月奈はその光景を食い入るように見つめていたが、やがて眉をひそめた。


「……防護服を着た人間がずいぶん多いね。無人作業じゃなかったの?」


モニターには、耐放射線性を備えた無人重機が瓦礫を取り除いている様子が映っていた。しかし、その周囲では黄色い防護服に身を包んだ作業員たちが、重機の動きを確認しながら忙しなく行き来していた。


「今回は原子炉の近傍で作業をする関係で、有線通信が必要になっています」


恵麻は画面から目を離さず、淡々と説明した。


「ドローンやクレーンを動かすにしても、細かい作業では通信が途切れると困りますから。必要な箇所には、人の手でケーブルを敷設しなければなりません。彼らは、そのために動いているのです」


「……使い捨ての駒ってこと?」


小夜が低く呟いた。


恵麻はわずかに表情を曇らせたように見えたが、肯定も否定もしなかった。その沈黙が、かえって答えを物語っているようだった。


美玲は、モニターの中で働き続ける作業員たちを見つめていた。危険な場所へ送り込まれ、ノクターナルの計画に利用される彼らの姿は、これから自分が置かれる境遇とも重なって見えた。計画が終われば、彼らも自分も、用済みとして切り捨てられるのかもしれない。


それでも、彼らは与えられた仕事をこなし、計画を前へ進めようとしている。美玲は唇を噛み、画面から目を逸らさなかった。


「……無駄にはできないよね」


その呟きは、誰に聞かせるともないものだった。


シェルターの片隅では、葉山が現場の責任者を問い詰めていた。


「報告より作業が遅れているようだが?」


責任者は肩をすくめ、弁明するように答えた。


「ゲートの機械ロックがうまく動作せず、作業員が中に入るのに手間取ったんですよ。人間が入るのは久しぶりだったもので、解除コードを間違えたらしいんです。担当員の記憶違いだったようで……」


「……この先には、もっと危険な作業が控えているんだぞ。そんな危機感のないスタッフがいると困るんだが?」


葉山が厳しい口調で言うと、責任者は不満げに口元を歪めたものの、「善処します」とだけ答え、その場を離れていった。


「ここで働いている連中は、環境に慣れてしまっているんだろう。危機意識が薄れている」


葉山は腕を組み、月奈たちに向かってぼやいた。


「まさか、バケツで危険物を扱うような真似はしないと思いたいね」


皮肉交じりの言葉に、月奈たちは曖昧な反応を返すしかなかった。


—-


天上の神々でさえ、肉体を伴って顕現すれば、放射線の影響を免れない。そのため、アマテラスとオモイカネは精神体のまま原子炉建屋内に入り込み、作業員たちの様子を見守っていた。


アマテラスは、解除コードの入力パネルを指差し、満足げに笑った。


「なかなかうまくいったのう」


「……姫、まさかとは思いますが?」


オモイカネは、嫌な予感を覚えたようにアマテラスを見た。


「ちょっと、文字が読みづらくなるように擦っておいたのじゃ」


「まるで子供の悪戯ですな……」


オモイカネは額に手を当てた。最高神ともあろうお方が、わざわざそんな細工をするとは。呆れを通り越して、もはや感心するしかない。


「よいではないか。おかげで、時間稼ぎにはなっただろう?」


「確かに……」


オモイカネは苦笑しながら頷いた。


「この調子で、さりげなく邪魔していきましょう」


その後も、建屋内では些細なトラブルが立て続けに発生した。


瓦礫の撤去に使われていた無人クレーンが、操作ミスでもしたかのように、持ち上げた瓦礫を別の通路へ落としてしまった。撤去作業は一時中断され、オペレーターが機体の動作を確認し、操作手順を見直す羽目になった。


作業員たちの間でも、指示の聞き違いが相次いでいた。指定された座標へ移動するよう指示された作業員が、なぜか反対方向へ向かってしまう。支給された特殊無線機には、原因不明のノイズが混じり、指示を正確に伝えることが難しくなっていた。


葉山も、さすがに異変を感じ始めた。


「どうも、さっきからミスが多すぎる……」


そこへ、現場の責任者が慌ただしく戻ってきた。


「放射線測定器の数値が急に不安定になっています。このまま作業を続けるのは危険です。念のため、一部の作業員だけでも退避させた方がいいかと」


恵麻は表情を変えずに報告を聞き、すぐさまロキアンへ連絡を取った。現場の状況を伝え、作業を続行すべきか判断を仰ぐ。


やがて、彼女は通話を終え、集まってきた一同に告げた。


「……決行は明日に持ち越しとなりました」


シェルター内では、スタッフたちが慌ただしく予定の組み直しを始めた。現場の混乱は収まらず、作業の再開に向けて確認すべき事項も増える一方だった。


その様子を天上から眺めながら、アマテラスとオモイカネはそっと視線を交わした。


「やったな!」


「ええ、なかなかうまくいきました」


二柱の神は、声を上げないようにしながら、顔を見合わせて笑った。

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