7-2-12 神の悪戯1
アマテラスが高天原に戻ってからというもの、八百万の神々は忙しなく動き回っていた。
ロキアンとその一味が仕掛けた大地震のカラクリ。それを阻止するため、各地で神々の会議が開かれていたのだ。
今日も朝から晩まで、会議、会議、会議。
「……もう飽きたわ」
アマテラスは玉座にもたれかかり、深々とため息をついた。どれだけ議論を重ねても、事態が好転するわけではない。神々の意見は割れ、結論は二転三転するばかりだった。
地震を鎮める力を持つタケミカヅチなら、と意見を求めてみれば、「では、まず地震を起こすナマズを自分の前に連れてきてくだされ」などとのたまう始末である。これには、さすがの最高神もぶち切れそうになった。
そのとき、アマテラスの神殿に設置されたレトロな黒い通信装置が、ジリリ、とけたたましく鳴った。
「おや?」
応対したのは、参謀のオモイカネだった。長年アマテラスに仕えてきた知恵の神であり、高天原の戦略を担う要でもある。
アマテラスが問うような顔で見つめると、オモイカネは送話口を手で覆い、振り返った。
「八咫烏──神宮衛士隊の情報部からですな」
受話器の向こうから、落ち着いた声が告げる。
「例の原発に動きがありました。急な増員が行われ、予定にはない作業を始めているようです」
アマテラスの表情が、一瞬にして険しくなった。
「やはり、見張らせておいて正解でしたな」
オモイカネは受話器を戻しながら静かに言った。しかし、アマテラスの顔には苦々しさが残っている。
(秘密は守り切ったと思っていたのに……)
先日の誘拐。ロキアンの尋問に耐え抜き、鏡のありかは決して口にしなかった。
(……なのに、何故じゃ?)
「はぁ……」
オモイカネは腕を組み、わざとらしくため息をついた。
「姫が思いつきで、あのような場所に鏡を隠すよう命じたせいで、今の状況があることをお忘れなきよう」
「爺はネチネチとうるさい!」
アマテラスは眉を吊り上げた。
「過去の失敗を責めて何になる! 今は、これからどうすべきかを考える時じゃ!」
「お言葉ですが、姫……」
「だまれ!」
オモイカネは、やれやれと肩をすくめた。
「……しかし、今から伊勢の衛士隊を向かわせる時間はありませぬぞ」
アマテラスは唸った。
「いずれにせよ、半壊した衛士隊には頼れぬ……」
先日の伊勢神宮襲撃の一件で、神宮衛士隊は甚大な被害を受けており、現在は再編を急いでいる最中だった。新たな人員を揃え、失われた戦力を立て直すには、どうしても時間がかかる。
彼女の脳裏には、先日協力してくれた人間たちの顔が浮かぶ。
小桜、智絵里、麗蘭——そして紫音。
だが、こんな夜更けに人間たちを動かすのは難しい。
「……ならば、わらわが直接行くしかあるまい」
「やはり、そう仰ると思いました」
オモイカネはため息をつきながらも、しっかりと頷いた。
「お供いたしましょう、姫」
—-
アマテラスとオモイカネが降臨したのは、かつて原子力発電所だった、今は廃墟と化した場所だった。
そこから少し離れた場所に、本来ならあるはずのないものが建設されていた。
「やけに大きいな」
アマテラスは腕を組んだ。
「これは……シェルターですかな」
オモイカネが目を細め、建造物の全容を確かめるように見渡した。
「ロキアンめ、こんな短期間で……まさか、本当に鏡を回収しようとしているのでは?」
アマテラスはしばらく考え、やがて、ふっと口元を歪めた。
「……良いことを思いついたのじゃ!」
「はぁ……また始まりましたな」
オモイカネは心底うんざりしたような顔を浮かべる。
「奴らがどうやって鏡を引き上げるのか、盗み見れば良いではないか!」
アマテラスが嬉々として言った。
「もし成功したなら、奪えば良い!」
「……姫」
オモイカネは眉間を押さえた。
「鏡は核燃料と半ば融合した状態です。引き上げるのは簡単なことではない……つまり、ロキアンたちは、それ相応の秘策を用意しているはず」
アマテラスは考え込んだ。
「だったら、それを見てから奪えば良いではないか」
「……いえ、それが問題なのです」
オモイカネは静かに首を振った。
「万全の対策をとっている相手から獲物を奪うとなると、一筋縄ではいきませぬ。それに、もし鏡を奪えば、ロキアンは怒りに任せて大地震を引き起こすやもしれません」
アマテラスの表情が固まった。
確かに、それはまずい。
「……ふむ。一理あるな」
アマテラスが渋々認めると、オモイカネは安堵したように小さく息を吐いた。
「では、どうする?」
アマテラスが尋ねると、オモイカネは老獪な笑みを浮かべた。
「バレないように、邪魔をすれば良いのです」
「邪魔……?」
アマテラスは目を瞬かせる。
オモイカネはシェルターをじっと見つめ、静かに言った。
「ロキアンが何らかの方法で鏡を引き上げるのであれば、その計画が成就しないよう、密かに手を加えればよいのです」
アマテラスは口元に手を当て、考え込んだ。
「……具体的には?」
オモイカネは、ほんの少しだけ笑みを深めた。
「姫、神々には人知を超えた力がございます」
アマテラスはその言葉を聞くと、ニヤリと笑った。
ブクマで小桜たちの応援をお願いします!




