7-2-6 インタビュー・ウィズ・恵麻(再)
恵麻が店内に入ってくると、片瀬の目が鋭く光った。まるで待っていたとでもいうように、彼はすかさず声をかける。
「おっと、これは奇遇だな。よければご一緒にどうです?」
片瀬は手を挙げてウェイターに合図を送ると、恵麻を自分たちのテーブルへ誘った。そして当然のように智絵里と向かい合わせに座らせ、自分は智絵里の隣へ移動する。
その動きを見て、智絵里は彼の意図をすぐに察した。これは明らかに、取材慣れした人間の立ち回りだ。自分を味方につけたように見せながら、恵麻から情報を引き出そうとしている。
「実は、彼女が君のことを探していると聞いて、手伝っていたんだ」
片瀬はそれらしい嘘を並べ、笑顔を浮かべている。しかし、恵麻はまるで氷の彫刻のように冷え切った目をしており、その態度は以前の彼女とはまるで別人だった。
智絵里は、かつてゼノン・サイエンスのインターンとして働いていた頃の恵麻を思い出した。あの頃の恵麻は仕事熱心で、少し抜けているところはあったものの、どこか人懐っこい雰囲気を持っていた。それが今では、その頃の面影を一切残していない。ただ冷たく、無機質な目で智絵里を見つめている。
「久しぶりですね、恵麻さん」
智絵里がそう声をかけると、恵麻は一瞬だけまばたきをした。それから、まるで完全に知らない相手へ向けるような声で答えた。
「……どちら様ですか?」
智絵里は、一瞬言葉を失った。
彼女は、私のことを忘れている……?
胸の奥に違和感が広がる。恵麻は智絵里の存在を認識した上で、ここへ接触してきたのではなかったのか。それとも、単に名前を忘れているだけなのか。片瀬の前で不用意に情報を漏らすわけにはいかないが、ここで曖昧な態度を取るのも不自然だった。
「小桜の友達の、智絵里です」
そう名乗ると、恵麻は少し納得したように頷いた。そして、まるで忠実なメイドのように機械的なおじぎをして言った。
「あなた方のことは主人から聞いております。その節はお世話になりました」
その言葉を聞いて、智絵里は確信した。
恵麻は、小桜のことすら覚えていない。
洗脳されているのか、それとも記憶を消されているのか。あるいは、その両方なのかもしれない。
いずれにせよ、穏便に済ませるのは難しい。恵麻の良心に訴えかけることはできない。ならば、まずは片瀬をこの場から引き離さなければならない。
「外で話しましょうか?」
智絵里が恵麻にそう持ちかけると、彼女は片瀬へ視線を向けた。
「その人は、何者ですか?」
片瀬はむしろ好都合とばかりに身を乗り出し、得意げに名乗った。
「片瀬俊吾、フリージャーナリストだ。今は、パルミラ遺跡について調べていてね」
その瞬間だった。
恵麻の目に、鋭い光が宿った。
「……パルミラ遺跡?」
まるでスイッチが入ったかのような反応だった。恵麻は片瀬の目をじっと見据え、冷ややかな声で尋ねる。
「盗み出された秘宝について……とか?」
片瀬は驚いたように眉を上げた。それでも、目の前に現れた新たな取材の糸口を逃す気はなかった。
「おっと、君も何か知っているのか? ぜひ──」
次の瞬間、恵麻が魔導AIを起動した。
「アエクティウム」
淡い光が彼女の手元に宿る。そこから細く、ほとんど見えないほどの鎖が伸び、片瀬の胸へ一瞬で突き込まれた。
「っ……?」
片瀬は自分の胸を見下ろした。何も見えない。
だが、身体の内側へ何かが入り込んでくるような異様な感覚だけは、はっきりと伝わっていた。
次の瞬間、片瀬の身体が大きく痙攣した。
「な、なに、を……っ!!」
胸を押さえ、呼吸を乱しながら、片瀬が椅子から崩れ落ちる。まるで心臓そのものを締め上げられているかのような苦しみに、顔からみるみる血の気が引いていく。
「やめて!」
智絵里は即座に魔導AIを起動し、大鎌を顕現させた。
黒い刃が虚空を裂き、恵麻の鎖を断ち切る。しかし、すでに片瀬の身体の中へ入り込んだ部分までは切断できなかった。
「片瀬さん!」
片瀬は喉をかきむしり、苦悶の表情を浮かべている。智絵里は彼の胸へ手を伸ばし、何とか鎖を引き抜こうとしたが、それは体内に絡みついたまま、容易には動かなかった。
「っ……やめろ……まだ……俺は……!」
最後の言葉は、声にならなかった。
やがて、片瀬の身体から力が抜ける。
智絵里は震える手で、その肩を掴んだ。しかし、もう反応はない。
その背後から、恵麻の冷たい声が響いた。
「……これで、雑音は消えました」
智絵里は、ゆっくりと顔を上げた。
そこには、感情の一切を排した、人形のような瞳を持つ恵麻が立っていた。
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