7-2-5 インタビュー・ウィズ・智絵里(再)
智絵里は迷った末、時間を巻き戻す前と同じようにインタビューを受けた。だが、前回と同じように「知らない」と答えれば、片瀬はそこでビデオ通話を終え、そのまま危険へ向かってしまう。
最後に写真を見せられた瞬間、智絵里は決断した。
「……知っています。でも、直接会ってお話しさせてください」
片瀬は訝しげに眉を寄せたものの、しばらく考えた末、「いいですよ」と答えた。話を聞く価値はあると判断したらしい。
智絵里はほっと息を吐いた。これで片瀬はすぐには動かないはずだ。少なくとも、先にロキアンや恵麻に接触するような真似はしないだろう。
翌日、智絵里は片瀬が指定したカフェへ向かった。ゼノン・サイエンス本社から少し離れた場所にある落ち着いた店で、カウンター席とテーブル席が並ぶ店内は静まり返っている。平日の午前中ということもあり、客の姿はまばらだった。
カウンター席に座る片瀬を見つけた。彼はコーヒーカップを手にしながら新聞に目を通している。智絵里が近づくと、片瀬はゆっくりと顔を上げ、余裕のある笑みを浮かべた。
「驚いたな。本当に来るとは思わなかったよ」
「約束しましたから」
智絵里は静かに答え、片瀬の向かいの席に腰を下ろした。
片瀬はビデオ通話のときとは打って変わって、砕けた態度で話していた。まるで以前から知り合いだったかのような軽い口調で言葉を交わすが、その馴れ馴れしさの奥には、相手との距離を自分の側から縮めて主導権を握ろうとする意図も感じられた。
戦場ジャーナリストという肩書を持つ彼にとって、智絵里は単なる「世間知らずの若い女の子」に過ぎないのだろう。多少駆け引きを仕掛けたところで、すぐに本音を引き出せると考えているのかもしれない。
だが、それは大きな誤算だった。
「さて、どんな話をしてくれるのかな?」
片瀬が興味深げに身を乗り出す。智絵里はその目を真っ直ぐに見返した。
「その前に、言っておきたいことがあります」
「何かな?」
「あなたが追いかけているネタは危険です。やめた方がいい」
片瀬は一瞬だけ眉を上げたが、すぐに苦笑した。
「君のような若い女の子に、そんなことを言われるとはな。だが、それで簡単に引き下がるようなら、戦場ジャーナリストなんて務まらない」
コーヒーを一口飲み、彼は穏やかな表情のまま続けた。
「……危険なことくらい、分かっているさ。それでも真実を追うのが俺の仕事なんだ」
その言葉の後、片瀬の表情から笑みが消えた。鋭い目が智絵里を捉える。
「君は、何を知っているんだ?」
低い声だった。人の嘘や隠し事を追ってきた者だけが持つ、静かな圧力がそこにはあった。
しかし、智絵里は怯まなかった。普段からメディアの取材を受け、大人たちと駆け引きをしてきた彼女にとって、相手の視線に呑まれてしまうほどの圧力ではない。
「私が知っていることはともかく、あなたの方こそ、何を掴んでいるんです?」
「……なんだと?」
「私には、知りたいことなんてありません。あなたが話を聞きたいなら、まずあなたの情報を出すのが筋でしょう?」
片瀬は一瞬、意外そうな顔をした。それから、小さく笑う。
「へえ……ファッションにしか興味のない小娘かと思っていたが、どうやら見くびっていたらしい」
そう言って、彼はテーブルの上に置かれた写真を指で軽く弾いた。
「この男女──海外の、とある遺跡から盗掘された遺物を密輸している疑いがある」
あくまで手の内の一部だけを明かしたつもりだろうが、智絵里にはそれで十分だった。
『遺物』。
その言葉が指しているものを、智絵里は知っている。
──魔法遺物だ。
危険なものを追っていると分かっていても、片瀬は引くつもりがない。智絵里は、どうすれば彼を思いとどまらせられるのか考えを巡らせた。
そのとき、片瀬がふと窓の外へ目を向けた。
「……!」
その表情が変わる。
智絵里もつられて振り向いた。
カフェのガラス越しに、彼女はその姿を見つけた。
恵麻だった。
ロキアンの従者となった彼女が、冷たい視線をこちらへ向けて立っている。
智絵里の心臓が跳ねた。
前回とは違う未来を選んだはずなのに、結果として片瀬を別の危険へ導いてしまったのではないか。
恵麻はガラス越しに二人を見つめたまま、ゆっくりと店内へ足を踏み入れた。
智絵里はとっさに周囲を見回す。出口は一つしかない。カフェの奥へ逃げ込んでも、その先に逃げ道はない。
まるで最初から仕組まれていた罠の中に閉じ込められたような感覚が、全身を駆け抜ける。心臓が早鐘のように打ち、喉が詰まりそうになる。それでも、表情を崩すわけにはいかなかった。
すべては自分の誤算だった。
しくじったのは、間違いなく自分だった。
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