7-1-18 神の千里眼1
オオクニヌシは、小桜の横顔をじっと見つめていた。
この少女、やはりただ者ではない。
草薙の断片を再生させるという偉業を成し遂げた実行力。そして、神の存在を証明するために、その力を利用しようとする大胆さ。神々が選ぶにふさわしい存在かもしれないと、オオクニヌシは心のどこかで感じていた。
「……それで、これからどうするつもりだ?」
「まずは、アマテラスオオミカミ様が連れ去られた状況を、もっと詳しく知りたいです」
小桜が真剣な眼差しで答える。
「伊勢神宮で何があったのか。誰が関与していて、アマテラスオオミカミ様がどこに連れて行かれたのか。それがわかれば……手がかりになるかもしれない」
「なるほど。確かに、それは重要なことだな」
オオクニヌシは腕を組み、もっともらしく頷いた。
(だが……困ったな)
実のところ、神々の会議でその件が話し合われていたとき、オオクニヌシはほとんど話を聞いていなかった。会議があまりにも退屈で、途中から居眠りしてしまったのだ。
(今さら「覚えていない」とは言えんし……どうしたものか)
しばらく考えた末、ふと一つの方法を思いついた。
「ふむ……まあ、直接行かずとも、現地の状況を見せてやることは可能だ」
「え?」
小桜が驚いた顔をする。
「僕が千里眼を使えば、遠く離れた場所の様子を映し出すことができる」
「千里眼……!」
麗蘭が目を輝かせる。対照的に、紫音は疑わしそうに眉を寄せた。
「そんな便利な能力があるなら、最初から言ってくれればよかったのに」
「いや、そう簡単に使えるものではないのだ」
オオクニヌシは軽く咳払いをして、さりげなく誤魔化した。
「とにかく、やってみるとしよう。君ら、僕と手を繋いで座れ」
「えっ……このおじさんと?」
麗蘭が、オオクニヌシの顔を見ながら少し嫌そうな顔をする。
「精神の波長を合わせねばならんからな」
小桜が率先してオオクニヌシの手を取り、智絵里、紫音、麗蘭も渋々と手を繋いだ。
「いいか。目を閉じて、心を落ち着けろ。雑念を捨てよ」
「……神様なのに、ずいぶんとスピリチュアルな感じね」
麗蘭がぼやく。
「静かにせぬか」
オオクニヌシは額に指を当て、静かに息を整えた。やがてその瞳に、淡い金色の光が宿る。
「では、見せてやろう。千里眼、解放」
その瞬間、少女たちの意識に、見知らぬ光景が流れ込んできた。
目を閉じているはずなのに、目の前には確かな景色が広がっている。光と影が視界そのものに染み込んでくるような感覚で、それは夢に似ていながら、夢とは比べものにならないほど鮮明だった。
「……これ……何……?」
智絵里が震える声を漏らした。
「脳に直接、映像を……?」
麗蘭が息を呑む。
「すごい……」
小桜は思わず声を漏らした。
そこに映っているのは、目の前の空間に投影された映像ではない。視線を動かしても景色そのものが追従し、まるで自分自身がその場に立っているかのように、すべてが意識へ直接送り込まれてくる。
「この魔法……VRに応用できるかもしれない」
小桜が小さく呟いた。
「は?」
紫音が思わず聞き返す。
「視覚情報を魔法で直接、脳にフィードバックしてる……。トレーニング用のVRシステムに組み込めれば、完全没入型の体験が……」
「いや、そんな簡単に真似できるようなことか……?」
紫音が呆れたように言った。
「でも、実現したらすごいことになるよ」
智絵里が興奮した様子で言う。
「それ分かる! 紫音も小桜の作ったVR魔法訓練を体験したら?」
麗蘭も楽しそうに同意した。
「おしゃべりはそこまでだ。伊勢神宮まで跳躍するぞ」
オオクニヌシが微かに笑った。
視界の奥に、揺らめく水面のような光が広がっていく。
水面は次第に波打つように細かく震え始めた。その瞬間、身体そのものが後ろへ引っ張られるような感覚に襲われる。
次いで、目の前を覆っていた光の膜が静かにほどけた。
その向こうに現れたのは、ゆっくりと形を成していく荒廃した境内だった。
砂ぼこりが舞い、焦げついた木々が音もなく崩れ落ちていく。そこには、つい先ほどまで人の営みがあったとは思えないほどの静けさが広がっていた。
現実ではない。けれど、そこに映し出された光景は、幻とは思えないほど明確に存在していた。
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