7-1-13 神宮の精鋭1
神宮衛士隊の第一戦闘群「天照隊」の隊員たちは、自分たちこそが神宮の精鋭であると自負していた。
天照隊は、伊勢神宮の最終防衛線として編成された選抜部隊であり、退魔戦闘に特化した装備と訓練を積んでいる。その選抜基準は極めて厳しく、並外れた肉体的・精神的資質を備えていなければ、合格することすらできない。
加えて、天照隊に配属される者たちは、幼い頃から英才教育を受け、退魔の儀式や戦術理論を叩き込まれてきた。警察や自衛隊に在籍していた頃から「特別な存在」として扱われてきたこともあり、彼らは自分たちが敗北することなど、想像したこともなかった。
もっとも、実戦経験が豊富だったわけではない。
現代において、大規模な退魔戦闘が発生することはほとんどなく、天照隊が実戦に投入される場合も、小規模な妖怪や怨霊の制圧が大半だった。ほとんどの事案は、一般警備隊である「伊勢守」の対応だけで収まってしまう。
だから、その日も緊急アラートが鳴ったとき、彼らはそれほど強い危機感を抱かなかった。
「どうせ伊勢守で十分だろう」
そう高をくくっていた。
だが、その油断を打ち砕いたのは、情報部「八咫烏」からもたらされた緊急報告だった。
「第二戦闘群『神火隊』の守りが破られました。さらに、後方支援部隊『神饌部』にも被害が発生しています!」
その一報を聞いた瞬間、天照隊の部隊長の顔色が変わった。
「神火隊が破られた? どういうことだ……?」
神火隊は伊勢神宮の防衛の中核を担う部隊であり、結界や封印に長けた者たちが集められている。そこを突破され、さらに後方の神饌部まで攻撃を受けているということは、敵が単なる妖怪や怨霊の類ではない。
「敵の正体は?」
「不明です。ですが……敵の数は──二人です」
その瞬間、部隊長の思考が止まった。
二人。
たった二人で、神火隊と神饌部を壊滅寸前にまで追い込んでいる。
「……冗談だろう」
報告を聞く限り、敵は確かに二人しか確認されていない。
だが、偵察任務で先行していた第四分隊の隊員から、次々と応援要請が入ってくる。
「第一分隊、至急防御ラインを張れ! 第二分隊、援護射撃を開始! 第三分隊、突撃準備!」
部隊長は矢継ぎ早に命令を下した。常駐していた第一から第四分隊の隊員たちが、一斉に現場へ急行する。
その直後だった。
「第一分隊、盾が……! 退魔装甲が切り裂かれていく!」
「第二分隊の破魔の矢が……通じない!」
「第三分隊、敵に接近します! ……ぎゃああっ!」
通信機から聞こえてくる悲鳴に、部隊長の顔から血の気が引いていく。
「……敵は何を使っている!?」
「敵は……神代の遺物、『天狐の尾飾り』『蛇滅の勾玉』『鹿鳴の鈴』を所持している可能性があります!」
「何だと!?」
その報告を聞いた瞬間、部隊長は先日の情報を思い出した。
八咫烏からもたらされていた報告では、全国の霊的拠点から神代の遺物が幾つも消失しているという。もし敵がそれらを手にしているのなら、こちらの攻撃が通じないことにも説明がつく。
「……第五分隊を出せ!」
この状況を打破できる可能性があるとすれば、精鋭中の精鋭である第五分隊しかない。
第五分隊は即座に出動し、戦場へと急行した。
そこで彼らが目にしたのは、にわかには信じがたい光景だった。
第一分隊の厚い盾は、無数の断面をさらしている。第二分隊の矢と呪符は、水浸しになって地面に散らばっていた。第三分隊の隊員たちは、電撃を浴びて黒焦げになっている。
第五分隊の隊員たちは慎重に瓦礫を踏み越えながら、敵の気配を追った。暗闇に沈む神宮の回廊を抜けた先で、ふいに空気の温度が下がる。
「……そこだ」
先頭の隊員が呟いた。
その瞬間、黒い影がゆらりと立ち上がった。
仮面をつけた長身の男が、闇の中から姿を現す。表情は読めない。それでも、その佇まいだけで周囲を圧するような威圧感があった。
その隣には、黒いゴシック衣装の女が静かに立っている。ベールの奥から覗く瞳が、冷たい光を宿していた。
「……ようやくお出ましか」
仮面の男が静かに呟く。
空気が張り詰めた。
第五分隊の隊員たちは一斉に武器を構えたが、誰も口を開かなかった。鍛え抜かれた指先に、冷たい汗が滲んでいた。
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