俺達は違うよ
「申し訳ありません。」
皮質で客と話していたゼウスは部屋の外の喧噪が耳に入った。大体の内容が把握できた。自分が出て行くほかはあるまいと、気は乗らなかったが客にそう言うと腰を上げかけた。ほぼ同時にドアがノックされ、直ぐにドアが開きもアフロディーテが血相を変えて、入ってきた。
「リーダー。大変です。セラの追放に抗議にきたパーティーの対応をヘラさんがしていたら、アテナさんとアステミスが横から入ってきて、収拾がつかなくなっちゃたんです。」
いつもは優雅な治療、治癒から防御結界を担当し、どんなことでも微笑んで、しかも動じない彼女が困惑して、困り切って、涙を流さんばかりなのを見て、状況が目に見えるように感じたゼウスは、
「追放ではないだろう、解雇だろうが。」
と心の中で舌打ちしたが、それだけ彼女が混乱しているのだろうと思い直して、
「わかった。私が行く。」
と彼女に言うと、今度は振り返って、
「少しトラブルがあったようです。申し訳ありませんが、しばらくの間、お待ちください。」
と頭を下げ、アステミスには、
「お客様にお茶のお代わりを頼む。」
と指示して部屋を出た。
すぐに、他のパーティーの面々が、その何人かは見知っていた、もう完全に埒外に置かれてどうしようもないというヘラ、依頼された仕事ではリーダー役にたつ、魔導士でもある落ち着いた、年長ではあるがまたまだ若々しい美人である、が困った顔で左右を見ている、剣士のアステミスと弓士のアルテミス、どちらも金髪で長身の美人だった、が激しくやり合っているのが目に入ってきた。
「あいつのおかげで大きくなれたって言うのに、追放だなんてどういう料簡だ。」
「もともと追放したのはあんたら屑パーティーだろうが。」
「その蜂をまわさないでよね。」
「値達は確かにあの時は屑だったよ。そんなら、あんたらも屑、屑パ―ティーじゃないの?」
「こ、この女、言わせておけば。」
「私達を侮辱するなんて1億ねんはやいよ。」
「100,000,000年早く言ってやる。あんたらも屑だ。」
言い合いは、完全に単なる売り言葉買い言葉になっていた。アテナとアルテミスは、セルの追放・・・ではない・・・解雇については急先鋒で要求していたグループのそのまた急先鋒だった。
「まあまあ。待ってくれ。」
と言ってゼウスは間に割って入った。
彼の顔を見て、大柄でいかにも酸いも辛いも知っているベテラン冒険者とわかる、しばし、誰もが一瞬口をつぐんだ。だが、それもつかの間、
「あんた、あの時、大丈夫だと言ったじゃないの?」
「そうだそうだ。あんた、自分もパーティも彼を十分引き受けられるだけの器がある、俺達は違うと言いながら、この体たらくはなんだってんだ?」
彼に向って怒鳴った。怒鳴り返して、力で黙らせられる人間だと思っていたが、そうではなさそうに感じられた。
「ああ確かに、2年弱前に彼らの前で大見えを切ったものだな。」
と心の中で苦笑した。
「まあまあ、落ち着いてくれたまえ。」
と言って宥めようとすると、
「これが落ち着いていられるか?」
「そうだ。どうしてあんないい奴を追放したんだ。」
「彼のお蔭で、この2年間、大躍進できたんでしょうが。」
「2年前の大言壮語忘れたのか?」
「この屑どもがいい加減にしなよ。」
「もう帰れ。」
と争いは収まらなかった。どうしたものか、とゼウスは思った。とにかく言い争いを終わらせるしかなかった。自分だけで対峙するのは嫌ではあったが、心もとなかったが、恥ずかしいが心細かったが、
「アテナ、アステミス。ここは私に任せて行っていい。仕事があるだろう。」
と2人の方を見て、穏やかながらも、断固とした口調で指示した。
「あ、ああ、リーダーが言うなら・・・。」
「頑張ってね。」
と言って2人の美人冒険者は躊躇品からも立ち去った。
「ああ、これからだな。」
とゼウスは、覚悟を決めた。
2年近く前のことだった。パーティーの古参メンバーであるディオニソスが、パーティーを追放されたセラ・フィムを、
「前々から目をつけていた、最高の付与術士のセラ・フィム君だよ。屑パーティーが彼のすばらしさを理解できずに追放したので、即連れて来たんだよ。」
と冒険者パーティー、ハルマゲドンの拠点に連れて来たのだ。
平均的な背丈で、平均的な地味な顔、そしてオドオドした態度から、ゼウスですら、人を見る目には自他ともに自信があった、
「?」
と思う冒険者だった。
それでも、ディオニソス、アラサー男だが年齢はずっと若く見える、が言うのだからと取りあえず、ゼウスも加わったA級ダンジョン攻略に同行させてみた。
すごい付与術士というから、魔力・身体能力を倍くらいには高めるかもしれない、装備品、聖具などの能力が万全になるように調整してくれるだろうと期待していた。半分は、
「どうだか。」
と思っていた。
が、軽く10倍は身体能力・魔力を彼は高めてくれたし、単に高めるだけでなく、高まった能力が暴走したり、使えず振り回されることを防いで調整さえして施してくれた。それに関する注意を、詳しい説明の上で、おどおどした口調がそういうときには流暢なものに変わった。装備の調整を軽くその場でしてくれたが、見て、触れただけでその装備の詳細を理解して、
「この場では十分なことはできなくて申し訳ありません。」
と泣かんばかりに謝るのだが、どの装備品も今までにない能力を示し、以前から上手く使えない者にはどう使えばうまくいくかを分かりやすく、これまた流暢に説明したのである。
そのおかげで、深層部で、前回その上でかなり苦労したのとは全然異なり、え?これでお終いでいいの?という位に攻略してしまったのである。
その後も、凄い荷物を軽々と運び、手製の回復薬だと気軽に超高級回復薬はいくつも手渡す、食事の準備も手際よくやる、しかも旨いということで、万能な最高の支援能力者だということが判明した。
しかも性格は誠実、真面目、丁寧、謙虚、謙虚という点はあまりにも謙虚過ぎるというところだったが、勉強家、努力家だった。
その後、戦闘力も攻撃魔法はからっきしだが、防御系の魔法や剣等の武術は、武術についてはあらゆる分野で、C級、このまま努力すればB級も夢ではないというものだった。この段階でも、十分戦える付与術士・万能支援職だった。
その後は、仕事に加わる時はもとより、装備の調整、調整の域をはるかに超えている、回復薬などの製造、得た魔石、金属などの精製、事前の調査などにも大活躍。冒険者パーティー、ハルマゲドンは更なる躍進を遂げた、彼のお蔭で。
だが、ゼウスには一つの疑問が浮かんだ。
セラ・フィムは、過去何度も冒険者パーティーから解雇・追放されている。いくら何でも、今まで彼の能力が誰もわからなかった、とはどうしても思えなかったのだ。




