第142話 作戦会議 #2
盲点、というほどではないが、ここまで誰も言わなかった事柄ではあった。
が、言い出さなかったことにも理由がある。
アミディエルが答えた。
「それもひとつの手ではあります。が、黒燿の剣士が……どのような目的で動かされているのか分かりません。できれば地上に出したくはないのです」
アミディエルの言いたいことは分かる。彼は賢者集会の長で、さらにメリディス王国の宰相だ。
地上で戦い、万が一、この討伐隊の全員が殺されれば、もはや黒燿の剣士を止める手立てはない。黒燿の剣士が、そのまま王宮を攻めるかもしれない。
一般人に犠牲が出る可能性も、考慮しなければならない。それだけは、絶対に避ける必要がある。
しかし迷宮内であれば、エルスウェンたちが全滅をしたとしても、入口に結界を張れる。永久に封鎖をすることはできないとしても、ある程度の時間稼ぎを継続することができる。
それがたとえ、滅びへのほんの小さな悪あがきでしかないにしろ。宰相としては無辜の民を守りつつ、さらにわずかでも延命の余地のある方向へ賭けねばならないのは、仕方ないことだろう。
フラウムがため息をつきながら言う。
「じゃあ、しょうがないかー。でも、どちらにしろ戦力は全投入するわけだし、戦える場所は決まっちゃってるじゃん。第一階層の、ベルハルトたちが襲われたところ」
と、フラウムは地図を指さした。
それにはエルスウェンも同意だった。こちらはすべてのパーティを同時に使っての決戦のつもりだった。広い場所でなければ、戦うことはできない。
それに、カレンが言った。
「……前みたいに、小鬼の群れを送られるんじゃない? 広いとこで戦ったら」
「送られるかも、っていうなら、狭いとこだって一緒だろー? それに狭かったら、カレンの爆発魔法だって使えないじゃん」
「それもそうね……。でも、どうやってこの場所に黒燿の剣士を呼び出すわけ?」
フラウムとのやり取りを経て、カレンが全員に訊く。
それに、マイルズが言う。
「そうだな。そいつが、一番の問題ってことだろう。迷宮を捜しまわっても無駄。その上でこっちがへばったところに送り込まれてやられるってんじゃ、お手上げだな。チーズでも置いておけば出てくるような手合いならいいんだけどよ」
マイルズの軽口には、エルスウェンが答えた。
「たぶん、その考えでいいと思う」
「ああ?」
「だから、チーズを置いておく、ってことだよ」
面食らったようにぽかんとしたのは、言った本人だったが。
エルスウェンは、全員を見回して言った。
「そもそも、ベルハルトたちは違う意味で狙われていたんだと、僕は思っているんだ。ラークから報告を聞いてから、ずっと考えていたんだけど」
双調魔法を探し当てるまでも、探し当てた後も、訓練をしている最中も、ずっと頭の片隅に置いておいたことでもあった。
なぜ、そこまで周到な罠を張って、ベルハルトたちを待ち受けていたのか?
意味のない、単なる戯れの可能性は、もちろんあるだろう。なにせ魔族の考えていることなど、理解できないのだから。
ただ、ここまでの情報――王女シャルロッテの体調、そして十年前の流行り病、さらに黒燿の剣士が王都を攻めたこと――を、同一の魔族が企んだことだと乱暴に仮定してしまうと、狙いが見えてくる気がするのだ。
この魔族は……王都を陥れようとしているのではないか。
ただ人の王国を滅ぼしたいのか。あるいは侵略し自分のものとしたいのかは分からないが、なんらかの意図をもって、王国へ干渉しようとしているのではないか。
そう仮定すると、ベルハルトたちを待ち受けていた罠の意味も、違ってくる。
「黒燿の剣士は、相手をむやみに損壊しない。斬り刻みはするけど、斬殺死体は、比較的元に戻しやすい。魔法を使えればね」
全員が黙って、エルスウェンの言葉を聞いていた。
そのみんなに意味が浸透するように、ゆっくりと、丁寧にエルスウェンは言葉を紡いでいった。
「次に、転移させられてきた小鬼の群れの武器です。全員が、弓矢で武装していました。小鬼はもちろん弓矢も使いますけど、剣や、特に棍棒なんかを好んで使います。そういった武器を、一匹として持っていなかったっていうのは、不自然ですよね」
「……そうか。そういうことですか」
得心したように頷いたのは、アミディエルだった。
「良く気がつきましたね、エルスウェン君。そんな、恐ろしい目的が……」
「いえ、僕も気がつけたのは、キャリスから外法の説明を受けたからなんです」
「なるほど。そういうことですか……!」
そこまで話すと、キャリスも気がついたようだった。信じられない、という顔で、眼鏡の位置を直している。
「一体、どういうことだ?」
ジェイが訊いてくる。それには、ラティアが答えた。
「小鬼が弓矢で武装していたのは、死体の損壊を最小限にするため、ということだろう。そもそも、ラークの話では、小鬼たちは積極的に矢を射掛けてはこず、むしろ遠巻きにしていたそうじゃないか。送り込んできた魔族の狙いが、押し包んで一気に殺すことなら、それは変だな?」
ラティアも分かったようだ。それに頷いて、答えを言う。
「うん。小鬼たちが近寄れなかったのは、黒燿の剣士に攻撃されたくないから、っていうのももちろん考えられるけど。たぶん、違う役割があったからなんだ」
「……探索者の死体の回収ですね」
キャリスが結んでくれた。それに頷き返す。
その言葉で、意味が全員に浸透していったようだった。
シャーロットが、吐きそうな顔で言う。
「まっ、まさか……。その。ベルハルトさんたちのご遺体を……黒燿の剣士と同じように……するために、ということですか……?」
「嘗めてやがるな。魔物版『慈悲の手』ってか」
マイルズが吐き捨てるように言う。エルスウェンは、それに頷いた。




