第143話 作戦会議 #3
「そう考えるのが、自然な気がするんだ。黒燿の剣士を操る魔族は、地上を攻める気でいる。そんなふうに思える。なら、黒燿の剣士を手に入れた次にすることは、新しく手駒を増やすことだと思うんだ」
「道理っちゃあ、道理だな。賢者サマよ、魔族ってのは、今までそうやって俺たちにちょっかいかけてきたことってあるのかい?」
マイルズの問いに、アミディエルは首を振った。
「魔族が我々異人種族と対峙していたのは、紅髄竜による大災害よりも前の時代です。魔族は我々との勢力争いに敗れ、魔界に退いたとも言われていました。竜骸迷宮に巣食っていると分かったのも、ほんの数百年前なんです」
「つまり……これが初めてみたいなもの、ってことね」
カレンが呟くように言う。それから肩をすくめて、エルスウェンを見てくる。
「でも、とんでもないのがバックにいるってことはそもそも分かってたわけでしょう? それはいいとして、話を戻しましょうよ。エルスくん、どうやって黒燿の剣士を呼び出すチーズを用意するの?」
「はい。チーズは、僕たち自身です」
エルスウェンが答えると、カレンは首を傾げた。
「私たち?」
「はい。僕たちは全員で討伐に向かいます。これは敵にとっても、大チャンスなわけです。どうしても皆殺しにして、手駒にしてしまいたいはずですから」
「俺たち自身が、オトリ――罠になるってわけか。そりゃ面白いな」
ベルハルトが笑顔で言う。
それに、ロイドが腕組みで唸っている。
「でも……相手はすごく狡猾だろ? そんな簡単にいくのかな……?」
「そうよね。そもそも、黒燿の剣士を送ってこなかったら? 魔物の群れとかをけしかけてきたら、どうするの?」
カレンの質問はもっともだ。が、想定している。
「死体を損壊することができないのが、向こうに不利な点ですから。魔物の群れをけしかけたりはできないでしょう。瘴気が濃くなった迷宮で凶暴化しているでしょうから、なおさらね。希望的観測でものを言っていいなら、むしろ自由に動かせるのは黒燿の剣士くらいじゃないのかな、なんて思います。希望的観測を捨てても、そこまで分の悪い賭けではないと思いますよ」
つまるところ。こちらの死体を確保したいのなら、あちらは乱戦を設定することはできない。黒燿の剣士単騎で、こちらを殺さねばならない、ということに尽きる。
エルスウェンは、アミディエルを見た。
「このまま、僕の考えたプランまで言ってしまいますけど。まず、全員で迷宮へ入ります。そして、ここへ転移魔法を使って一気に移動します」
と、地図の一点を示す。それは、迷宮に入って道なりに進んだ、大きな広場と通路の繋ぎ目だ。
「それからは、ここを結界で封鎖して陣取ります。この通路が、地上への唯一の道です。ここでキャンプをして塞いでしまうことで、黒燿の剣士は僕たちを倒さねば地上へ出られなくなります。もし魔物をけしかけてきたとしても、魔物は結界を突破できませんから。さっきのカレンの心配も無用です」
魔物に待ち伏せをされていたら戦闘になるが。それを排除した後で、結界を張ってしまえばいい。ここで張る結界は、キャンプをする時と同じものでいいので、手間もかからない。
大きめに張れば、もう魔物は近寄れない。結界の効力は基本的に十二時間だが、張り直しができるので問題はない。
「持久戦は不利じゃないのか? 迷宮には、アミディエルさんの結界で蓋をしているから、瘴気がどんどんこもって……たとえキャンプの結界内だろうと俺たちは疲弊するだろうし、魔物は有利になると思うんだけど」
ファルクの言葉に、エルスウェンは頷いた。
「うん。だから、僕たちが突入してすぐに、迷宮入口の結界は外してもらう。そうすれば、瘴気の問題を考慮する必要はなくなるだろう? むしろ瘴気が和らいでいって、浅い層の魔物から順番に元に戻っていくことになるから、時間をかければ今より魔物は弱体化していくよ」
「ああ、そっか……。でも、結界を外すなら……いきなり入口に黒燿の剣士を転移させてきて、迷宮から出られちゃって、王都を攻められたら? どうするんだ?」
「それも一応警戒して、外に物見を置いてもらう。アミディエルさんか、手頃な魔法使いの人に転移で来て報せてもらえれば、僕たちは外に出て、この場合は外で戦うことになるね」
そこまで話して、ファルクに付け足す。
「でも、そうはならないと思う。魔族といえど、迷宮の中から外に魔法の力を及ばせるのは不可能だろうから。あくまでも迷宮内の僕たちにぶつけてくるだろうとは思ってるよ。迷宮外で戦うなら僕たちが有利すぎるんだから、絶対に外には出さないはずだ。迷宮内に自分で罠を仕掛けた立場なら、僕たちの庭である迷宮外にだって相応の罠があるって考えて、当然だろうしね」
魔族にとって、外で黒燿の剣士を戦わせるというのは、デメリットしかない。
まず、エルスウェンたちを首尾よく殺害しても、その死体を入手することがほぼ不可能になる。他にも、様々な要素を挙げられる。
だからこちらは、向こうが迷宮内でしか戦わないことを分かっている。
その上で、黒燿の剣士が地上へ出るためのルート上にエルスウェンたちがキャンプをして待ち受ける。
向こうは迷宮内で戦いたい。こちらは迷宮外では戦えない。
そのお互いの意図が噛み合うことによって、黒燿の剣士をおびき出せる、とエルスウェンは思っていた。
「なるほど……。すごいな、そこまで考えてたのか」
ファルクは微笑んで、首を振った。それにエルスウェンも笑みを返す。
次に、ラークが訊いてきた。
「えげつない罠があるとして、どんなものだと思う?」
「分からない。でも、自分が魔族だとして考えてみても、できることはあまりないなと思うんだ。ベルハルトたちを嵌めた罠も、あれは多分、必勝の態勢だったんだよ。あれだけのことができるって手の内を見せてしまったうえで取り逃すってことは、考えてなかったんじゃないかって」
「そう言われると、そうかもな。でも、楽観視はできないだろう? こっちは全員を投入するんだ。特に、エルス、キャリスのふたりを狙い撃ちされたら終わりだ。エルスなら、このふたりをどうやって殺そうとする?」
ラークの問いを訊いて、エルスウェンは口元に手を当てた。
自分ならどうするか? 確かに、先だって必勝の罠を破壊してみせた魔法使いが相手にいるのなら、それをまずは殺さないといけない。
敵には、どれほどのことが可能なのか。
考えて、エルスウェンは答えた。




