三位一体+α
焔に包まれたカオスは燃える腕をグレイに伸ばす。
グレイ「く…!しぶとい奴め!今度こそトドメだ!」
グレイは拳を堅く握り、空を殴る
グレイ「グレネード!爆裂徹甲打ァ!」
声高々に叫ぶが、右腕のガントレットから放たれた技は空気砲を撃った時のようなポンという音と、ふわふわと宙に渦輪が浮かぶだけであった。
グレイ「な!?」
どうやら先程の焔の盾にマナを使い過ぎたことで、大技を繰り出すほどの力を蓄積出来ていなかったようだ。そんな状況に戸惑うグレイの頭上にカオスの手が迫る
トウキ「ウォル・ヒョウガ!」
グレイの背後から水のマナが氷に変質しつつ、周囲を隔てる壁となる。
グレイ「?!トウキ!…なのか?」
トウキ「ったくカッコよく決めたと思ったらコレだもんな…。油断するんじゃねぇぞ!」
氷の面をつけたことで口調が荒くなってはいるものの、彼は斬鮫と分離し、元の姿へ戻っていた。
シン「ま、間に合った…!」
退魔の舞を行えたシンは再び膝をつく。
トウキ自身もカオスの乗っ取りや武器との融合という変異を経て、体に相当の負担がかかっているのか険しい表情を浮かべる
グレイ「まさかここまで苦戦するとは…。」
シン「コイツ、本当に屍異奴なのか…?周囲のマナを変化させる能力、乗っ取る人間の変更なんて今まで聞いたことないぞ…?」
トウキ「…魔獣。」
氷の面が砕け落ち、ふと脳裏によぎった言葉を呟くトウキ。それを聞いた2人は驚愕する。
グレイ「な…魔獣だと!?」
魔獣…この世界におけるそれは星のない夜に活性化する存在。負のエネルギーを糧に、周辺を跋扈、蹂躙する魑魅魍魎のことである。
その存在は星のない夜以外で確認されたことは無く、朝日と共に何処かへ消え去る謎多き存在でもある。そんな突然やってくる夜に何処からか現れる魔獣を自然災害と同等に考え恐れている者も多い。
シン「星のない夜に蠢く魔の存在…。仮にその活動の源を龍脈で代用しているとしたら合点がいく。無尽蔵に溢れる力が得られるこの場所で戦う限り、勝ち目はないぞ!?」
グレイ「なるほどな…。だからさっきトウキが与えた傷もすぐに治ったワケか…。」
カオスはその身を膨張させ、自身を焼く焔を内側へと抑え込み鎮火を試みる。醜悪な肉塊はさらに生々しい姿へと変貌していく。
グレイ「どうするよ…奴さん、まだまだやる気満々みたいだけどよ。逃げる準備でもするか?」
シン「何を今さら。」
トウキ「ここの人達を見捨てるわけにはいかない…。それに龍脈も本当の持ち主に返さなきゃ!」
グレイ「だよな!…よし、ありったけをぶっ放つ!下がってろ!」
トウキはシンと共にグレイの背後へ下がる。
グレイ「今度こそくらえ!グレネード…爆裂徹甲打ァァァ!」
しかし次に放たれた一撃は気迫とは裏腹に、いつもの威力が半減したようなものであった
グレイ「…やっぱり今は…逃げた方がいいかも…!!」
トウキの作り出した氷の壁を崩し、勢いよく振り下ろされるカオスの拳。3人はそれを避けつつ、遠方で様子を伺っていたシルバの元へと駆けていく。そして彼女が作った土の壁に隠れて体勢の立て直しを図る。
シルバ「グレイ、一体どうしたっていうの?!」
グレイ「詳しくは知らん!でも、強いて言うなら…マナをほぼ使い切っちまった…。」
シルバ「いっぱい出しちゃったもんね…仕方ないわ。」
シン「おい、変な言い方はよしてくれないか…。」
シルバ「あらそう聞こえた?アナタ、意外とおませさんね。」
トウキ「戯れ合うのは後にしてくれねぇか!?」
再び氷の面をつけたトウキは暴れ狂うカオスを眺めつつ諫める。
トウキ「ヤツが龍脈と繋がっていることは確かだろう…。コレをどう切り離すか、活路を見い出すにはそれしかない。」
グレイ「そういえばシルバ、最下層の様子はどうだったんだ?」
シルバ「文字通り地獄絵図だったわよ。あんな汚い所、もう二度と行くたくないっ。でも、仕掛けはしてきてあるわよ。」
グレイ「仕掛け…?」
シルバ「念の為のね。地下の壁にはマナを吸い上げる細い管がそれはもうツタみたいにびっしりあってね。それを破壊して、念の為に起爆弾もいくつかセットしてきたのよ。」
シン「本当に器用だな…巨人拘束弾だけじゃなく、そんなものまで…」
シルバ「ウチの組織にはそういう派手な爆発が好きな子がいるのよ。その子からちょっと拝借しただけ。」
シン「だ、大丈夫なのか…?あんたの組織…」
グレイ「く、詳しくは知らんが、だいたい見当がつく…。」
遠く離れたとある場所。新たな仕込みをしていたカラーバレッツの1人、エカルラートはくしゃみをする。
シルバ「…まぁ、それはさておくとして、威力は保証できるわ。それを使って一瞬だけ動きを止めることは出来るんじゃないかしら?(ホントはグレイから“報酬”を貰った後、ひと騒ぎ立てる為に用意していた物だけれど…。想像以上に厄介な敵と遭遇してしまったわ。まったく…最悪だわ。)」
トウキ「…俺から1つ作戦がある。シン、グレイ、俺も含めた3人のマナが足りねぇからこそ試せるんだが…、聞いてくれるか?」
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カオス「グオオオオオ…何処ダ…ドコニイル!!カトンボ共ォォォ!」
怒り狂いカオスは自身の依代になっている祭壇の周囲を破壊しながら暴れ回る。そんな最中、背中にトウキの氷のマナでの攻撃が刺さる。
トウキ「水刃斬!」
斬撃を放つトウキ。そして両足の延長線上に凍った床が形成され、その上をシンとグレイが進んでいく。
足にはシルバの土のマナで生成したスケートシューズのブレードのような物が付いており、滑るように移動する。
カオス「ハハハハ!弱ッチョロイ斬撃ハ囮!馬鹿メ!オ見通シヨ!ソンナコトォ!」
カオスは肉塊より新たな腕を生み出し散開したグレイとシンを叩き潰す。その拳はこれまでの鬱憤を晴らすように何度も執拗に打ち付け続ける。
カオス「死ネ!死ネ!跡形モ無ク潰シテ、我ノ一部二シテヤル!!…ン?!」
拳を打ちつけたカオスは拳に感じる感触に違和感を覚える。まるで粘土を叩き潰しているような感覚、吸収できない異物感は巨体の動きを止めた。
トウキ「…今だ!!!」
トウキの掛け声と共にシルバは指を鳴らす。それが仕掛けを作動させる合図であった。
遺跡の地下にある龍脈と繋がる空間は一瞬にして爆発し、土煙が舞う。そしてその上に立つ遺跡は揺らぎ、崩れ始める。
カオス「ナ、何ダ!?ワ、我ガ神トノ繋ガリガ絶タレテ…!イヤ、マダダ!今一度繋ギ直シテ…」
グレイ「そんな隙、与えるかよ!」
シン「今からお前を…」
トウキ「吹っ飛ばす!!」
カオス「ナ!?何故オ前達ガ…!?タ、確カニコノ手デ潰シタハズ!!」
シルバ「私の作った分身を潰してる姿、粘土で遊ぶ子どもみたいで結構可愛かったわよ。」
先程前に出た2人もまた囮だったのだ。それに気をとられている間、3人は斬鮫に手を触れ残り少ないマナを注ぎ込む。
シン「…ど、どうだ?もうこれ以上…時間も余裕も無いぞ…?」
斬鮫「充分だ!お前達の力と俺の中で溜め込んだ力を一気にぶっ放つ!」
剣に触れている事でグレイとシンにも斬鮫の声が聞こえる。2人は左右から剣を支え、照準を合わせるように鋒をカオスに向ける
『電光石火!水瀑波!』
シンの雷、グレイの火、そしてトウキと斬鮫の持つ水
3属性のマナに加え、セイリュウの持つ龍脈の力の一部を掛け合わせた攻撃はまるで勢いよく流れて落ちる滝のようなを一撃を放った。爆破で脆くなっていた部位を引き千切り、カオスの巨体を地へと叩き落とされた。
龍脈から離れ、力の供給先を失ったカオスは崩れていく。そして核となっていたシャマノの体も止まっていた時が急に流れ出したように腐敗し始める。
シン「…お、終わったのか?」
グレイ「ああ…。そう…みたい…だな。」
緊張の糸が解けたのかグレイは腹部の傷を押さえ、倒れてしまう。
トウキ「グレイ!!」
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グレイが目を覚ますと村人Aの家にいた。しばらく天井を見つめ、自分が生きていることを自覚し、起きあがろうとするが体に力が入らない。
シン「マナが不足して体力も免疫も落ちてるんだ。今は動かない方がいい。」
隣で同じく横になっているシンの声が聞こえてくる。
グレイ「…そうみたいだな。そういえば、トウキはどうした?」
シン「トウキなら泉に。用事があるんだと。」
グレイ「本当に丈夫なんだな。アイツは。…なぁ、奴のことなんだが…」
シン「あんな戦いをしてもうピンピンとしてるなんて普通じゃないって言いたいんだろ?…たぶんそう。でもアイツ自身もそれが何故だか分かっていないみたいだし、深く追求はしないでおこうと思う。…今はね。」
グレイ「…そうか。そ、そういえば龍脈は…村はどうなった?」
シン「ああ、それなら…」
シャマノ「お目覚めですか。良かった。思っていたよりも元気そうで。」
花に魂を移していたはずのシャマノの声とカオスが依代としていた体を見たグレイは驚愕する。
グレイ「お前!?まさか…ぐぁっ!」
興奮のあまり起き上がるが再び腹部の傷が疼く
シャマノ「驚かせてしまって申し訳ない。実はこの体は、あなた達と共にいた銀髪の女性が土から創ってくれた仮初の体だ。龍脈の管理をしつつ、この体を維持する分だけの力を分けてもらえるように…。」
グレイ「…そうか。シルバが。…その様子だともう行ったみたいだな。」
シン「ああ。…あまり驚かないんだな。」
グレイ「あの人はそういう人だから。結局は…」
シルバ「“自分の為に”…ね。」
いち早くアスティルカを離れたシルバの手にはグレイの銃が握られていた。
シン「そんな!お前!何で“協力の報酬”として自分の武器を手渡すなんて…!何でそんな無茶な約束をしたんだ!?」
グレイ「へへへ…。さあな…。詳しくは…知らん。」
シャマノ「そんな約束をしていたなんて…!知っていればきっと他にもやりようはあっただろうに…。」
グレイ「いいんだよ。いや、今ならこうするべきだったと胸を張って言える。俺が俺として…俺らしく強くなる為に。」
シン「俺が俺らしく…ね。その気持ち、ちょっと分かるかも。」
グレイ「俺は…今まで父さんの形見でもあるあの銃に頼りきっていた。現に限界突破して出る力の大半は、形状が変化する時に発せられる余剰マナを放出してるだけにすぎないし、使う度に腕をヤケドするのもそうだ。俺の身体がその焔に耐えられていないっていう何よりの証拠だ…。今回の戦いでようやくそれが分かった。つまり俺自身がまだあの銃に見合っちゃいねぇのさ。だからアイツのいない状況でもっと強くならなきゃいけねぇ。この先も戦っていくためにも…。」
シン「はぁ…不器用なやつだな。まったく。」
グレイ「…。少し寝る。悪いが今のことはトウキには言わないでくれ。シルバを追いかけるとか言い出したらかなわんからな。」
シン「はいはい…。」
シャマノ「…きっと、近いうちに君達はまた巡り合える。君が望みさえすればね。」
その言葉を聞いたグレイは静かに目を閉じる。閉じた瞼から溢れ出しそうになった涙を見せないよう、背を向け寝息を立てるのであった。
シン「まったく…。不器用なやつだね。」
シャマノ「ふふ。貴女の未来も少し見えたが、伝えた方がいいかい?」
シン「遠慮しておくわ。一応これでも元巫女だしね。自分の未来は自分で確かめるわ。」
シャマノ「余計な世話をかけてしまったね。…それじゃあ、私はこの辺で失礼するよ。」
シン「ああ。」
シャマノは部屋を出て崩れた遺跡の地下の浄化…後処理へと向かう。
シャマノ「(この体を創ったシルバという女性、彼女のマナに触れたことで見えた1つの未来…。心配だ。どうにか彼らとぶつかり合うような未来には繋がって欲しくはないな…。)」
澄んだ空を眺め、シャマノは呟いた。
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