守る焔
グレイ「父さん!父さん!」
グレイは屍異奴の抱擁を振り解き、父の胸へ飛び込む。しかし体はすり抜け、地面へと伏してしまう
グレイ「!? どうなってるんだ…?」
シンクロウ「詳しいことは知らん。まぁ、強いて言えば…コレは俺の置き土産だ。お前のことだ、きっと“ここにいる俺”と会っているって事はテメェ自身で死を選ぼなんてことを考えている…違うか?」
グレイ「…で、でもあんなのに勝てるわけ…」
シンクロウ「…あの時と同じだな。お前、俺との旅で俺の何を見てきた?」
グレイ「そ、それは…。」
・
・
・
グレイ「無理だよ父さん!逃げようよぉ!あんなでっかいバケモノになんか勝てっこないよぉ!」
幼き日、グレイは父と共に鍛錬の旅の途中で巨大な屍異奴と遭遇した。
ひとつ目で巨体を持つその屍異奴を前に、父は敢然と立ち塞がり拳を握り締める。そんな背中をグレイはただ見ていることしか出来ずにいた。
シンクロウ「いいか。男ってェのは、背中を見せちゃいけねぇ時ってのが3つある。惚れた女を見送る時と、誇れる事をしてねぇ時。もう一つは…」
グレイ「もう一つは…?」
シンクロウ「忘れたッ!詳い事は…知らんッ!!」
シンクロウの右腕を紅蓮に燃え盛る炎が包む。そして勢いよく空を殴ると炎が拳の形を成したまま目の前の巨体を貫いた
シンクロウ「まぁ強いて言うなら、守らなくちゃいけねぇ何かが後ろにある時…だろうな…!」
グレイが後ろを振り向き見上げると木の上に小さな鳥の巣と幾つもの卵があった。
その日の晩、食事をしながらグレイは日中の戦いで使った技を父に問いかけた
シンクロウ「爆裂徹甲打。炎の拳を相手に放つ…単純な技だ。」
グレイ「炎を手に…?熱くないの?」
バチバチと燃える焚き火を見つつ問いかける。
シンクロウ「そりゃ熱いに決まってるだろうよ!何を当たり前な事を言ってんだ?」
ガハハハと大きな口を開いて笑う。それがシンクロウの癖だ。夜の静寂を破るようにその笑い声は森にこだまする。
シンクロウ「でもよぉ、その熱さってのもよ、戦う時にゃ自分の中から溢れてくる“思い”が“力”に変わってるモンなんだよ。なんかこう…心ってぇのか?それがグーっと燃える感じでな。まるでこの焚き火みてぇによ、だんだん大きくなっていくんだ。そして思いが戦う理由と繋がって、より強ぇ“力”を出せるってわけよ。」
グレイ「心が燃える…力…?よく分からないけど、僕にもいつか出来るかな?!」
シンクロウ「どうだろうなぁ…。寝小便しなくなる頃にゃ出来るようになるんじゃないか!?ガッハッハッハ!」
焚き火の火花が夜闇を照らす。その火は父の紅蓮の髪と、指にはめた真紅の指輪を際立たせていた…。
そしてしばらく経ったある日、長期滞在していた町でグレイは年上のガキ大将と対峙していた。
ガキ大将「あ?なんだこのチビが!」
グレイ「だから!他の子達にもこの公園を使わせろって言ってんだよ!」
ガキ大将「なんだぁ?偉そうに!そんなのどこに書いてあんだよ!」
グレイ「詳しくは知らない!でも強いて言えば、ここはお前たちだけの場所じゃないってことだよ!」
グレイの後ろでは同年代の子ども達がビクビクしながら震えていた。
グレイ「(見てろよぉ…父さんから教わったマナの肉体強化を使ってコテンパンにしてやる…!)」
グレイは内心で闘気を激らせていた。そしてあろう事かガキ大将を挑発し始める。
グレイ「デカイ口叩けるのも今のうちだぞ!?この…図体がデカイだけのブタゴリラが!」
ガキ大将「あぁ?もう一度言ってみろ!」
グレイ「ああ何度でも言ってやるさ!バカ!オタンコナス!肥満児!ブタゴリラ!」
ガキ大将「てめぇ…ただじゃ済まさないぞ…!」
グレイ「上等だ!もし僕が君みたいなブタゴリラに負けるようなら、3日間ここで逆立ちしながら裸踊りでもしてやらぁ!」
ガキ大将「…言ったな?男に二言は無いからなぁ?!」
グレイ「おうよ!行くぜぇ…」
グレイが先制攻撃を仕掛けようとした瞬間、シンクロウが間に割って入りグレイの鳩尾に拳をねじ込んだ。吹き飛ばされ木に叩きつけられたグレイの頭部を、シンクロウは幹に叩きつける。その勢いは木をマッチ棒のようにへし折る程で、常人には一瞬の出来事であった。
そんな光景を目の当たりにした子ども達は泣き叫びながら逃げ去り、その場に残ったガキ大将も腰が抜け、尻を地面につけた。
シンクロウ「…脅かしてしまって悪かったね。それと、ウチの子がずいぶん失礼な事を言ってしまった事…。どうか許して欲しい…。」
完全に腰を抜かしてしまったガキ大将を立ち上がらせ手に菓子を握らせるが、ガキ大将は恐怖し菓子を手放すと一目散に逃げ出した。
グレイ「…と…父さん!何で…邪魔したんだよ…。あのまま手やってれば…僕の勝ち…だったのに…。」
シンクロウ「本当にそう思うか?…なら明日、この公園に来てみるといい。お前の言う通りみんなの場所になっているか確かめにな。」
ガハハハと笑う父の姿はそこには居なかった。そして次の日、グレイは公園に赴くと…
グレイ「誰も…いない。」
昨日ガキ大将が落としていった菓子へ群がる蟻の集団以外に公園には誰も居なかった。
グレイ「ただいまぁ…。」
シンクロウ「どうだった?」
シンクロウは銃の製図を中断し、帰宅したグレイへ問いかける。
グレイ「誰も…居なかったよ。」
シンクロウ「そうだろうなぁ…。あれだけ怖い思いをしたんだ。しばらくあそこで遊ぼうと思う子どもはいないだろうよ。」
歩み寄りグレイと目線を合わせて話を続ける。
シンクロウ「アレはお前がやろうとしていた事だ。」
グレイ「そ、そんな!僕そんなつもりじゃ…」
シンクロウ「マナを使った肉体強化。それを教えた時に伝えた事を言ってみろ。」
グレイ「人ならざる者と対峙する時に使うもの…。自身の中に存在するマナを全身に巡らせることで身体機能を向上させる。初期段階として属性変化はさせずともスピード、パワーを上昇させることが…。」
シンクロウ「上達すれば自身の外側に発することも出来、自身の属性を付与した技に応用する事ができるようになる。あの時、俺はお前を止める為に肉体強化をしつつ、足に火のマナを集中させ爆足させた。その爆風にも近い速度で離れた場所にいたお前の元へ向かえたが、もしも…俺が間に合わなけりゃぁ…お前を打ちつけ折れた木のように、彼の体がボロボロになっちまった可能性もあったわけだ。」
グレイ「そ、そんなつもりじゃ…。それに僕は!」
シンクロウ「お前の後ろにいた友達の為に…か?」
グレイ「そ、そうだよ!僕はただ…」
シンクロウ「あのまま勝ったところでお前と今まで通り遊べると思うか?自分たちよりも大きな少年をボコボコにする程強い奴と…。逆らう奴に容赦しない恐ろしい奴とよ。まぁ、だいたいはお前に気を遣って合わせるようにして今まで通りの関係にゃなれねぇだろうよ。そもそもお前、最初はみんなの為を思っていただろうけどよぉ、挑発し始めた辺りから自分の力を試しに使ってみたくてウズウズしていただろ?」
グレイ「う…」
シンクロウ「お前のしようとしていたことはただの暴力だ。俺はそんな事の為に強くなる術を教えたつもりはない。」
グレイは視線を逸らす。
シンクロウ「力を持つ奴ってのは、何かと面倒ごとに巻き込まれるもんだ。たとえ相手の為を思って振るった拳でもそれが伝わらないことだってあるし、守ろうと思っていた存在に敵意を向けられることもある。その拳が自身を孤独に追い込むことだってある…。そうなった時、お前ならどうする?」
ー答えられなかった。だって相手の思ってることは相手にしか分からないのだから。
シンクロウ「そういう時、1番やっちゃいけねぇ事が相手に何故だと問いただすことだ。…そうならねぇように自分の中から溢れる思い、心を燃やすみてぇな熱い思いが大事になってくるんだ。だからこそ、滅多なことじゃブレねェ火を持て。その火にてめぇの“思い”を焚べる事が今お前のすべきことだ!」
自分の思うことの為に振るう拳。それは相手を思う気持ちがあって初めて成り立つものである。父は旅先で繰り返し言っていた。
相手に伝える必要はない。ただ自分なりに、相手の為に。自分に出来ることを精一杯やる。不器用な父はいつもそうして屍異奴や他の脅威に立ち向かうだけでなく、困っている人たちに力を貸していた。
・
・
・
グレイ「…そうだ。火のマナが持つ性質は『侵食』。他の物を燃やし命すらも奪う攻撃性の高い属性…。でも、それだけじゃない。夜を照らし、人々を暖め、守ることができる火も…ある!」
あの時、父が自身を止めてくれた時のように肉体強化と足に火のマナを集中させる…爆足でグレイはトウキの元へ向かう。
今度は自分の為でなく、信じる者の為に駆け行く息子を父は静かに見つめ、揺らめく陽炎のように消えていく。
『限界突破!武装転身!ガントレット・レイオ!!』
意を決し、トウキを庇うようにカオスの前に立つグレイ。腹部から赤い血が流れるも、その目に迷いは無かった。
グレイ「ブレない火を持つ。その火に思いを焚べる…。そこから得られる力は誰かを守る為に使う。初めて限界突破したあの島での出来事が、今でも俺の頭ん中に残っている…。そうか…!こうやって積み重ねていくんだね…。父さん、思いが…守りたいこの思いが大きくなればなるほど、火も…さらに熱く燃え上がる!」
限界突破をして右腕に装備されたガントレットはさらに高熱を帯びる。
カオス「グハハハ!クラエー!混沌の叫び!」
同時にカオスも充填していたマナの一撃を放つ。
カオス「一度出セバ止メラレナイコノ一撃。サッキノパンチデ止メラレルカナァ!?」
シン「まずい…!あんなの、いくらグレイの一撃でも止めようが…」
グレイ「くっ…。わ、悪いな…!こっちもハナから同じ手を使う気は無い!レイオ、少し痛ェかもしれないが…これが最後かもしれねぇ。耐えてくれ…!」
レイオ「ああ。お前の思いが…覚悟が伝わる。見せてやれ…!お前の心を燃やす熱い気持ちってやつを!」
左手で右手首を抑えながらガントレットに宿った魂と対話する。そして…
グレイ「炎熱盾!!」
掌を開くと、円形の焔が広がっていき、カオスの一撃を受け止めた。
シン「いつも使う爆裂徹甲打じゃない…?!これは…グレイの新しい技!!」
グレイ「ああ!詳しくは知らんが、なんか出た!シン!今のうちにトウキを…!」
シン「!!…わかった!」
グレイの言葉で気力を取り戻したシンは退魔の舞を始める。
カオス「グフフフフ!我ガ混沌ヲ込めメタ一撃…。ソノ程度ノ小サナ盾デ、イツマデ止メテイラレルカナァ?!」
グレイ「正直最初から止められるとは思っちゃぁいねぇよ。こっちとらさっきまでビビって動けなかったんだ。
だから考え方を変えて、逆に“使ってやる”ことにしたんだよ!」
グレイの掌から展開された焔に触れている混沌の叫びの一部が燃え始める。
カオス「ナ!?火ガ…我ガ一撃二火ガ…!グ…コノママデハマズイ!シカシ止メヨウニモ一度放ッタ我ガ混沌…止マラナイ…!!ソレニ体モ動カナイ…コレハ…アノ舞ノ影響カ…?!」
シンの退魔の舞の影響で動きが鈍るカオス。
やがて混沌の叫びの全てを包み込むように焔は徐々に大きくなっていく。まるで縄を伝う火のようにカオスの元へ延焼していき、瞬く間にカオスの体を焔が包み込んでいった。
カオス「ギャアアアア!熱イィィィ!!体ガ…体ガ焼ケ落チル!!」
グレイ「火のマナが持つ性質は『侵食』。マナはいわば着火剤だ。焔の塊でもある炎熱盾へ触れた攻撃にマナが付与されてるならそれも当然…デカけりゃデカイほど良く燃える!!」
皮肉なことに自身の技の名のように混沌とした絶叫を上げながら燃えゆくカオス。自身の腕に火傷を負いながらもグレイは力強く拳を握る。
シルバ「相手の攻撃を逆手にとったカウンターも兼ねた防御壁…。巨大な屍異奴相手ならこれほど心強い物は無いわ…。はぁ…、やっぱり血は争えないわね…グレイ。」
遠くから見つめるシルバの目には、その背がシンクロウと重なったように見えていた…。
お読み頂きありがとうございました。
もしも
・面白い
・続きが気になる
・なんじゃこりゃあ!
などと思いましたらブックマーク、お気に入り登録お願いします!
皆さんに見て頂けること自体が嬉しいことですし、これからも貴重なお時間を共に過ごせるよう頑張って書いていければと思いますので応援よろしくお願いします_(:3 」∠)_




