意思持つ剣と鎧の邂逅
斬鮫「戦いに勝った後とは思えないくらい、浮かないツラしてるな」
いち早く回復し、泉の水に触れるトウキ。戦いを振り、自分自身の力では何も出来なかった事を悔いていた。
セイリュウ「終わったことをあれこれ考えたって仕方ないし、疲れちゃうよ〜?」
トウキ「…。僕だけの力じゃ何も出来なかった。シンもグレイもどんどん新しい力をつけていってるのに、僕は…」
トウキの脳裏に斬鮫を体に取り込んだ記憶が蘇る。
斬鮫「お前“だけ”の力かぁ…」
トウキ「あのままシンに止めてもらえなかったらどうなっていたか…。」
斬鮫「けッ!んなのこれから考えていけばいいんだよ!1人で悩んでたって何も解決しねぇぞ!」
トウキ「…。だけど…。」
?「匂う…!体が疼き、悦に浸る…実に快なり!」
木の影から見知らぬ声が聞こえた
トウキ「誰だ!?」
?「我は戦に飢えた武人…ヴシュラ!」
屍異奴によって壊滅した村の生き残りが封印を解いた赤い甲冑。戦いに飢えたそれは自らの封印を解いた青年を取り込み、体を支配したままアスティルカの地までやって来ていた。
ヴシュラ「感じるぞ…濃い戦いの匂いと腐敗する血の匂い…。ここぞ我の新たな戦う場所…!」
トウキ「あの〜…」
ヴシュラ「ああ…いいぞ…!この感覚、実に久しい…自由に動く若い体、澄み切った五感…我を封じた干し柿のように老いぼれた僧侶とは違う…実に快!快なりぃぃ!」
トウキ「あの!」
ヴシュラ「ええい黙れ!余韻に浸る邪魔をするな!」
携えた刀を抜き、問答無用でトウキに向かって斬りかかる
トウキ「わ!ちょっ…!っ!!」
不意の出来事に対応が遅れてしまったが、背負った斬鮫が咄嗟に引っ張った事で、ヴシュラの振るった刃を避けることが出来た
トウキ「ありがとう斬鮫…。お陰で助かった…」
斬鮫「油断するな!お前“だけ”の力が全てじゃねぇって事…分かったかよ?」
トウキ「あ、ああ…。ごめん、さっきのこと…気にしてたんだね…」
ヴシュラ「む…?貴様、何を1人で呟いている?」
物と人の対話を他人が聞く事はまず無い。心象空間におけるやりとりを除けば、斬鮫とトウキの対話は側から見ればただ持ち手が独り言を言っているようにしか見えないのだ。
ヴシュラ「先程から癪に触る…不快ッ!」
手に持った刀が赤く染まる。ヴシュラの持つ火のマナが刀身を覆っていた。
ヴシュラ「炎斬!」
トウキ「!!す、水刃斬!」
火属性のマナと水属性のマナを纏った刃同士が交わり、周囲に衝撃が広がる。
ヴシュラ「む!?我が剣を受け止めた…!?」
斬鮫「グレイと同じ火のマナ使いか…!相性的にはこっちに分がある!一気に攻めるぞ!」
トウキ「待って!ここは一度、僕に任せてくれないか?」
斬鮫「またお前“だけ”の力でやるつもりか?!」
トウキ「違う!だから頼む!!」
斬鮫「けッ…分かったよ!だがな!危険だと判断したら俺が食い千切る!こいつぁ相当やばい気配を漂わせてるぜ…昔の嫌な戦いを思い出す程なぁ!」
相手に悟られないよう対話をするトウキ。斬鮫は疑問に思いつつもトウキに任せることにした。
ヴシュラ「くあああああ!くらえ!くらえ!くらええええ!」
ヴシュラは何度も炎斬で斬鮫の刃を削る。それに対しトウキは水のマナを纏わせることでなんとか応戦していた。
ヴシュラ「何度も何度も我が剣を弾くとは…実に不快ィィィィ!!キィィィ!」
段々と斬り込みが加速していく
トウキ「く…待って!君の言う戦いは…もう終わったんだ!」
ヴシュラ「ええい黙れ!黙ってこのナマクラの錆となれ!!」
トウキ「(ナマクラ…?)」
トウキはヴシュラの発した言葉に違和感を抱いた
トウキ「自分のモノだろ!?もっと大事にしろぉぉぉっ!!!」
咄嗟に水刃斬の派生技である氾濫斬を放つ。接近され間合いが狭まった戦況で放たれた技は斬撃を空に残す。そこから水のマナが溢れ出し、ヴシュラを奥へと押し流した。木に叩きつけられたヴシュラの動きは一瞬だけ止まったが、すぐに立ち上がると今までの支離滅裂な雰囲気とは異なる声が甲冑の中から聞こえてきた。
ヴシュラ?「…そ、そうさ。この刀は…ナマクラなんかじゃ…ない…。俺が初めて鍛えた…俺の作った刀…!」
トウキ「なんだ!?…今までと雰囲気が変わった…?」
ヴシュラ「くっ!ええい黙れ!コレは既に我の物!この体も剣も技も…全て我の物だ!」
トウキ「…!この感じ…やっぱりそうだ。」
斬鮫「気は済んだか?」
トウキ「うん。コイツの正体がなんとなくだけど分かったよ。」
斬鮫「正体?」
トウキ「コイツは…」
ヴシュラ「先の時間差で相手を牽制する剣技、そして我が剣も幾度も受け止める奇怪な技の数々…。実に奇なり…。剣を持ちながら呪いを使うとは…!こちらも“奥の手”を使わざるを得ないようだァ!」
トウキ「コイツは…人を取り込むバケモノだ」
ヴシュラ「ぐおおおおお!」
咆哮と共にヴシュラの背から2本の腕が生える
ヴシュラ『限界突破ァ…ヴィシュヌ!』
斬鮫「そうみたいだな…腕が4本あるニンゲンなんて今まで見たこたぁねぇ…」
ヴシュラ「来い…!その剣も我が物にしてくれようぞ…」
変貌を遂げたヴシュラと対峙するトウキは斬鮫を強く握り構える。
斬鮫「?どうやらようやくやる気になったみたいだな。」
トウキ「…うん。でも狙うのは中の人でも武器でもない…あの鎧に集中して欲しい。」
斬鮫「何でだ?中身はともかく、相手の武器を使えなくするのが相手を無力化するのに1番手っ取り早いだろ?」
トウキ「さっきのアイツ、最初は武器をナマクラって言ってたのに、その後すぐに否定していただろ?…そんな事が普通だとは思えないんだ…。」
斬鮫「それで?どうしろって言うんだ?」
トウキ「まずはあの鎧を引っぺがす!」
斬鮫「…そりゃいい!単純でわかりやすい!」
ヴシュラ「クアアアアア!」
刀を振るいながら拳を振りかざすヴシュラ。それに対してトウキは氷の面を着け、掌から水のマナを放つ。氷に変質したそれはヴシュラの足を見事に封じた。
ヴシュラ「?! またしても奇怪な…正々堂々と勝負せい!」
トウキ「正々堂々だぁ?こっちは腕と足を足して4本だってのに、お前は腕が2本増えたんだ。代わりに足を2本減らせばちょうどいいってもんだろ?」
ヴシュラ「…っ!小癪なぁぁぁ!!」
トウキは降りかかるヴシュラの拳を斬撃で弾く。その後振われた炎を纏う一太刀を鎬で払い、一気に距離を詰める。
トウキ「浅霧兜割!」
水のマナを纏った斬鮫の刃…それを振るい深く斬り込めば、相手を真っ二つに裂くのは容易である。しかし今回は甲冑を裂くことが狙いであるというトウキの意を汲み取ることで、新たな技として昇華させることに成功した。剣先のみにマナを集中させ、ヴシュラの顔…面頬を掠めるように切り裂くと中から人の顔が晒された。
斬鮫「…ちっ、血が…」
しかし緊迫する戦闘。即興で使う技の全てが成功するとは限らない。斬鮫の剣は甲冑に包まれていた青年の額に傷を負わせてしまう。
斬鮫「…ヒトの…血!!血が…!」
久々に浴びた鮮血は斬鮫の衝動を呼び起こそうとしていた。
トウキ?「落ち着きなよ。」
トウキの瞳が黄色く変色し、語りかけながら斬鮫にマナを注ぎ込む。それは斬鮫の中に住まうもう一つの存在、セイリュウの持つ怠惰の力であった。その力を受け鎮静化した斬鮫を構えるトウキ。仮面を外し、目の前で動かなくなった甲冑を纏う青年を見つめるのであった。
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