穢れ
トウキ「グアアアアアア!」
ツノが出ている額からは血が流れ出す。
そんな状態のままトウキは声にならない叫びをあげ、斬鮫を屍異奴に叩きつける。
マナを与えていない斬鮫は、長い間雪山と化していた地に放置されていたこともあり、刃こぼれが酷い。さらに斬鮫との対話が成されない今、水属性のマナで擬似的な刃を作ることも出来ず文字通りナマクラなのだ。
当然屍異奴を斬ることすらできず、鈍器のように叩きつけた後にノコギリのように刃を押し付けるような扱いになってしまう。
しかしツノを生やした状態のトウキの凄まじい力で押し付けられた刃が屍異奴の体に食い込むと黒い体液のようなモノが溢れ出し、やがて屍異奴は動かなくなった。
トウキ「ウウウウ…ガアアアアア!」
間髪入れずトウキは斬鮫を突き立て突進する。勢いをつけた突進はいかにナマクラと言えど、その剣先で屍異奴を団子のように串刺しにしていく。そして木にぶつかると屍異奴達はまとめて沈黙していった。
グレイ「シン、今のうちに神輿の前方からくる奴らを一掃しろ!それなら村人を巻き込まずに済むだろ!!」
シン「あ、ああ!」
勢いに圧倒されながらも、トウキが倒し損ねた屍異奴をグレイが対処する形で周囲を囲むように迫っていた屍異奴達はその数を減らしていった。
その隙にシンは神輿に駆け寄り、進行方向から迫っていた屍異奴に立ち塞がる。
シン「一気に蹴散す…!!帯流電・地走り!」
剣を突き刺すと雷が扇形に広がる。雷撃を受けた屍異奴は瞬く間に灰と化した。
神輿を担いだ村人A「…た、助かった…禊をした彼を地に下ろすワケにはいかなかったから助かったよ…。ありがとう旅の人達。では我々は先に行きます…」
こちらに返事をさせる余地を与えぬまま、村人達は遺跡を目指し進んでいってしまった
トウキ「…待て…行くな…。行くなあああ!」
ツノを生やしたトウキはその神輿を追いかけるように走ろうとした次の瞬間、
トウキ「!?」
トウキの足元は凍りつき、やがて顔に氷の仮面が現れた
トウキ「タ…怠惰の氷…?セイリュウゥゥ…!」
行手を阻むようにセイリュウは氷でトウキの動きを止めた
村人A「…彼は大丈夫なのでしょうか?」
グレイ「…詳しくは知らん。まぁでも…強いて言えば…あの氷、まるで最初からこうなるようにわざと仕向けたようにも見えたな…。」
シン「トウキ!大丈夫か!!」
トウキ「だ…大丈夫。体は丈夫だから…!なんとも…ない…」
怠惰の氷の影響か理性を取り戻したトウキは、徐々に落ち着きを取り戻していくとツノも消滅していく。それと呼応するかのように体の動きを止めていた氷も溶けていった。
トウキ「そんなことよりも早く!追いかけないと!」
村人A「待たれよ!行かない方がいい…!儀式はもう…」
トウキ「止めないと…彼が…!」
シン「!!やはりか…。行くぞグレイ!」
グレイ「ああ!」
何かを察した一行は神輿が通っていった道を辿っていく。
そして遺跡へと辿り着き、頂上を見上げると
3人「…!?」
神官「我らが神よ!直ちに清められし供物を今…お納め致します!」
白いローブを纏ったその者は天高く何かを掲げていた。
それは微かに鼓動を打つ、少年の心臓であった
祭壇には刻印をなぞるように腹を裂かれ、心臓を切り離された少年が冷たく横になっている。
神輿を担いでいた村人達は頭を下げてはいるが、そこに畏敬の念でなく、その光景からただ目を背けているようであった。
トウキ「お前…!!一体何をしているんだあああああ!!」
トウキは今まで出したことのないくらい大きな声で神官に向かって叫ぶ。
神官「ああ…我らが神よ…。我らに安息を…。そしてこの地に永遠の繁栄を…。」
祭壇には空に向かって口を開いた蛇を象った像が置かれている。神官はトウキの叫びを無視し、その像の口に心臓を奉納する。
すると像の奥より光が這うように現れ、奉納された心臓を包み込んだ
その瞬間、トウキの持つ星証から再びやまびこの歌が響きだす。
その声は何度もこだまするやまびこのようにトウキの耳に入ってくる。
トウキ「…やめろ…やめてくれえええ!」
しかし
包み込んだ光はまるで異物を吐き捨てるかのように包み込んだ心臓を神官に向けて吐き出した
神官「ああ…なんということだ…。我らが神は言っている…『この心臓はまだ穢れている』と…!!!」
顔に付着した血を手で拭い広げながら神官は言う
神輿を担いだ村人A「そ、そんな事は…!彼はしっかり言付け通り泉に入り、体を清めておりました…。それなのにそんな…こんな仕打ち、あんまりです!!」
神官「我らが神が間違っていると?」
物申した村人に鼻が接触するほど顔を近づけた神官は低い声で問いかける。
そして…
神官「我らが神は常に正しい!!!我らが神が間違うことなど有りはしない!!!
我らが神は全てを理解されていらっしゃる!!!
我らが神は全知全能。この地に永遠の繁栄をもたらすことのできる救いの力をお持ちあらせられる慈悲深きお方…!!!我らが神は絶対なり、我らが神は唯一なり!!!我らが神は…全てを、見ている。」
矢継ぎ早に近距離で一方的に話した神官は、言い終えた瞬間に不潔にも伸びた指の爪先でその村人の目を潰す。
声にならない叫びをあげる村人を他所に神官は過呼吸のように浅く早く息をしながら再び声を荒げる
神官「ハァ…ハァ…あ…、ああ、我らが神よ!どうかこの私めを罰してください!!!彼ら順従な信徒達を導くお役目を頂いたにも関わらず、私は彼に手を出してしまいました!!!
彼の両目を…私はこの指で潰してしまいましたァァァ!!!しかしながら私は許せなかったのです…!!!この者は我らが崇める我らが主たる我らが神を疑い、否定なさったのです!!!しかし今、この瞬間に目を失った彼は身をもって知りましたでしょう!目で見た物全てが真実でないことを!!!我らが神の存在を!!ですから彼への罰も私めに…どうか…どうかァァァ!!!」
懺悔のような叫びは終わりとともに神官を足元より赤いエネルギーが包み込んだ
神官「ギャアアアアアア!
…う…ああ…我らが神よ…、感謝いたします…。愚かな私めにこのような罰を下していただき恐悦至極に存じ奉りますぅ…!!!」
ダメージを受け、死にかけた虫のように這いつくばった神官だが、恍惚とした表情を浮かべながら姿の見えぬ神とやらに感謝の意を伝える。
そして何事もなかったかのように立ち上がると、再び冷静な口調で神輿を担いできた他の村人達に話しかける
神官「…さて。今回の儀式についてですが、禊を行った際に出た邪念が原因で身が清めきれず、穢れが生じたとされます。我らが神は寛大です。明日の夜に再び儀式を行うこと、あなた方に対する罪をお赦しくださいました。我らが神の懐はこの森よりも深いのです。我らが神は与え続けてくださいます。あなた達が生きる為の豊穣を…。そして我らが神は約束します。この地の繁栄を…。その対価として選ばれた信徒の贄を捧げるのです。あなた方が明日を生きる為に…。」
トウキ「…さっきから黙って聞いてれベラベラと…好き勝手に言いやがって…。」
神輿を担いだ村人B「ま、待ってくれ!…村の為にも抑えてくれ…でないとあの村は焼き払われてしまう…。」
神官「旅の者達よ、あなた方も気をつけるといい…汝らの言葉1つでも信徒達に罰を受けるやもしれん。汝らを招き入れた信徒達の責としてね。」
シン「く…トウキ、とりあえず、剣から手を離せ」
トウキ「で、でも!」
シン「今のそのナマクラで何ができる?」
トウキ「…く…くそっ!」
神官「我ら神の言葉は絶対。我らが神は約束を守ります…。我々もそれを見習わねばなりません。さあ、明日の日が沈む前に準備を進めなさい。」
神輿を担いだ村人D「…わかった!だが、頼む!息子を…せめて息子を埋葬させてくれ!」
神官「この亡骸は心の臓以上に穢れている…地に埋めては我らが神の豊穣に悪しき影響が出かねん。よってこちらで然るべき対処をさせて頂きます…」
神輿を担いだ村人D「そんな…何故だ…今までだって穢れのなかった者達の亡骸は1人たりとも返して貰ってないと聞いているぞ…。頼む!返してくれ…」
神官「これは我らが神より与えられた使命なのです。ご理解ください…。」
神輿を担いだ村人A「ううう…」
神官「そんなことよりも彼の手当をしてあげなさい。勤勉な信徒の1人である彼をこれ以上苦しめてはあまりにも酷だ。それとも罪なき村の者全てを同じようにしたいのですか?」
神輿を担いだ村人D「う…く、くそっ!!」
こうして祭壇に足を踏み入れた者達は遺跡を後にするのであった。
神官「…聞き分けのいい信徒達だ。さて…で、では私は…ハァ…。穢れたこの亡骸を一刻も早く浄化せねば…ハァ…ハァ…!」
息を荒くしながら神官は神輿から少年の亡骸を下ろし、遺跡の奥へと消えていった…
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