放たれる者たち
星座の力で具現化した舟に乗り、摩訶不思議な島から脱出した一行。
途中近くを通りかかった客船にモーカッナーを引き取って貰い、3人は船旅を続ける。
しばらく舟が進んでいくと、トウキの持つ星証が輝きだした。掌に乗せるとまるで羅針盤のように行き先を示し始める。
らしんばん座の力が備わったトウキの星証と連動した舟は何かに導かれるように1人出に海原を駆けていくのであった…。
やがて日は沈み、トウキは満天の星を眺めながら物思いにふけていた
トウキ「…僕はまた、皆に迷惑をかけてしまった。グレイやシンみたいにもっと強くならなくちゃいけないのに…」
斬鮫「まぁ焦るなよ。ぶっちゃけ俺を手にしてここまで使いこなせてりゃすげぇもんだぜ?」
トウキ「…それは斬鮫が僕を受け入れてくれたからだろ?さっきだっていきなり溢れ出したマナを止める手伝いをしてくれたワケだし。」
斬鮫「…ったくオマエは何でそうも後ろ向きなのかねぇ…。それよりもずっと気にはなっていたんだが、オマエの血といいマナといい…常人のソレとはちょっと違う気がするんだが…一体何なんだ?」
トウキ「…わからない。あの村に来る前の事は正直あんまり覚えてないんだ。」
斬鮫「そもそも何であんな閉鎖的な村に来たんだろうな…?連れてきたヤツ、相当性格悪いんだろうな」
トウキ「そう言わないでよ。連れて来てくれたおじいちゃん…ルビダさんの生まれ故郷だったし。それにルビダさんが教えてくれた『優しさはこの世界のどんなものよりも強い』って言葉は嘘じゃないって信じてるから…。」
幼い日の薄れかけた記憶を思い出しながらトウキは静かに目を閉じるとやがて眠りにつくのであった…
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ダビル「ふぅむ…。動物に黒鍵を刺すのは久々かな…。さあ。好きに暴れておいで…。大好物はこの先の村にたくさんあるよ…」
夜も深まった森の中、黒鍵を突き刺された豚型の動物はたちまち屍異奴に取り込まれてゆく。そして黒い影に覆われた人のような形になってゆき、やがて二足歩行の豚型の獣人のような姿…オークとなった。
オーク「クイモノォォ…オンナァァァ…オンナ…!!」
獣人と違い理性のない獣と化したオークは、唾液を地に落としながら前屈みの姿勢でゆっくりと進んでゆく。
そして目の前あった小さな村に侵入するとまもなく男の断末魔と女の泣き叫ぶ喘ぎ声が響き渡った…。
しばらく経つとそれぞれの声が止み、代わりに血の匂いと咀嚼音を撒き散らしながらオークは村からは出てきた。
そして鼻を広げ次の獲物を探すかのように周囲の臭いを嗅いでいると、目前に月明かりに照らされた銀髪を風に靡かせる妖艶な雰囲気を放つ女性が目に入る
オーク「ブモォ…ムフゥ…ムフゥ…!」
発情した獣は息を荒げ、徐々に距離を詰めていくが
オーク「ブムォ!?」
突然足元から生えた土の腕が、オークの足を掴み行手を阻む。身動きが取れなくてなったオークは驚くが、すぐにその腕を振り払い踏みつけて破壊した。
そんな中でも背を向けている銀髪の女性は振り向く素振りを一向に見せる様子はない。
オーク「オンナァァァ…!ブモォ…!オンナァァァ…!!」
興奮が抑えきれなくなったのかオークはついに四足歩行に戻り、突進するようにその女性目掛け走ってゆく。
しかし地面から再び現れた複数の腕が手足をがっちり掴む。そして周囲の地面を沼のように変質させ、その身を徐々に沈めていく。
オークの苦悶に満ちた声を聞いた銀髪の女性…シルバはようやく振り向くとゆっくりと沈んでゆくオークへ近づいてゆく。
シルバ「…汚い。汚い汚い汚い!」
シルバの履いているヒールを覆うように付着した土がスパイクのように鋭利になっていく。そして何度もオークの頭部を突き刺すように踏みつける。
シルバ「屍異奴の意思か元になったブタの意思か知らないけど、ほんっっとに汚い!汚い!汚い!」
オークの甲高い悲鳴が響き渡る。刺された部位からは黒い液体が泥のように溢れ出す
シルバ「…もういいや。ゴーちゃん、やっちゃっていいよ」
急に血の気が消えたシルバの声を機に、動きを押さえつけていた周囲の土がオークの体を突き刺す棘に変質した。
そして突き刺さった棘は体の内部を這うように抉っていき、オークは断末魔をあげるとやがて沈黙していく。
シルバがゴーちゃんと呼ぶその土は、動かなくなったオークの体を持ち上げ黒鍵が突き刺さった部位を彼女の前に差し出した。
シルバ「…黒鍵。まったく悪趣味だわ。」
シルバは小型拳銃構え、引き金を引いた。核となっていた黒鍵を貫かれたオークの体は徐々に元の獣の姿へ戻ってゆく。そして持ち上げていたゴーちゃんがすぐさま土の中へ沈めてゆく。
シルバ「…はい。終わり。ゴーちゃん、帰ろ。」
シルバは顔を背け、足早に去ってゆく
ダビル「…やはり動物に黒鍵は無駄使いが過ぎた…。食欲と遺伝子を遺す生存行動…実に単純だ。だが…収穫はあった。シルバ…、まさか彼奴もマスターウラヌスの元に居たとは…。かつて教えを乞うた私も然り、幸無き者を星を通して見ておられるのだろうか…?いずれにせよ持っていたあの武器、何時ぞやの第6王子と同じく殺傷能力の高い恐ろしい物を創り出してまで屍異奴を狩っているとは思わなんだ。トコトン私と相対する気なのだろうが、私は私の為…歩みを止めるわけにはいかない。」
暗闇の中、そう呟いたダビルは森の奥へと消えていくのであった…。
ノワール「シルバよ、無事か?」
銃に込められた紋章が光り、ノワールの呼びかけに応えたシルバ。地に円を描いて向かった空間で2人は向かい合う。
シルバ「ええ。問題ないわ。」
ノワール「すまんの。酷な仕事ばかり押しつけてしまって。」
シルバ「…仕方ないわ。近場で手の空いていた私が向かうのは当然のことだもの。でも遅かった。1つの村が食い荒らされて壊滅したわ。」
ノワール「…いや、お主の迅速な対処が無ければより多くの人が餌食となっておったはずじゃ。」
シルバ「…はぁ。相変わらず前向きね〜。下がった気分の自分がバカみたいだわ。」
シルバはため息をつくと明るい表情を浮かべる。しかしその目は笑っていなかった。
ノワール「ところで、今の屍異奴に破壊された村の様子はどうだった?」
シルバ「さあ?そこは仕事の範囲外よ〜。」
ノワール「んむぅ…。しかし生き残りがいるやもしれん。それを救うのもまた屍異奴を生み出さないことに繋がると…」
シルバ「この程度で絶望するくらいならこの先どうせ生きてはいけないわ。」
ノワール「お主の生い立ちに比べれば大したことに思えないのも頷ける。しかしじゃな…」
シルバ「はぁ…。冷めたわ。そんなの白い間者に任せればいいでしょ?ただでさえ人が足りないんだからこっち側に取り入れれば一石二鳥じゃない?」
ノワール「ただ増やせばいいというものではない。質が落ちてしまっては元も子もない…。じゃが言っておる事はごもっともじゃな。ここはホワイトに行かせるとしよう。」
シルバ「…。お聞き入れ、感謝致しますわ。ノワール様。それじゃあ私はこの辺で失礼します。」
令嬢のように服の裾を持ち頭を下げるとシルバは空間を後にするのであった…
一方その頃、オークに食い荒らされた村では、刀を持ちながら物陰で震える1人の青年がいた。
青年は周囲が静まり返った折に、周囲を警戒しながら立ち上がり、村の奥にある祠へ向かった。
そこには幾つもの札が貼られ、堅牢な太縄で縛られた甲冑が保管されていた。
祠の石碑に手を触れ、青年は静かに読み上げる
青年「『其の鎧、身に纏いし者を蝕む物也…。血に染まりし札を外す時…封印は解かれ、戦場を求める修羅となる…』
この鎧があれば…あんな怪物にも負けないくらい…俺も強く…なれる!!」
決心した青年は中心に貼られていた赤い札を破り捨てる。そして手に持った刀を抜くと、甲冑を縛っていた縄を一刀で断ち切った。
青年「…な、なんだ。なーにが封印だよ…解いても動きやしないじゃないか。驚かせやがって…。」
刀を鞘に収め、甲冑に手を触れると中からミイラ化した人間の死体が露となった。
即身仏と化したその死体に纏われていた甲冑は、意思を持つかのように自ら紐を解き自身に触れた青年の手にその紐を巻きつけた
青年「ひぃ!?…な、なんだこれ!?解けない…!それに力が…吸い取られていく…」
青年からマナを吸収した甲冑は死体から完全に離脱。宙に浮くと青年の体に鞍替えするかのように取り憑いた
青年「…グァ…!む、蝕むってそう…いうことか…。マナを奪い、体の自由を奪ったコイツ自身が修羅になるって…こと…か…ァァァ…」
刀を落とし、完全に甲冑が身を包む。踠き苦しんだ青年の動きが止まると、何事も無かったかのように地に落ちた刀を拾った
青年?「…なるほど。不恰好だがいい出来だ。これならば…」
刀を抜き振りかぶると青年が読み上げた石碑を一刀両断する。その太刀筋は先程封印の縄を切った時よりも鋭く、まるで別人のようであった。
青年?「…ようやくだ!ようやく新たな体を手に入れた…加えて再び日の目を拝めるこの悦び…!!実に快なり!このヴシュラ、今一度この地で血肉の踊る戦場へ…罷り通る!ククク…ハハハ!!」
青年の体を完全に乗っ取り、活動を開始した意思を持った甲冑…ヴシュラの鎧。強くなることを願った青年の思いとは裏腹に、新たな戦場を求めて祠を後にするのであった…
そんなヴシュラが彷徨う東の地へ向かい、トウキ達の乗る舟は帆を立て海原を進んでいくのであった…
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