船出
ネプチューンの体を覆っていた数多の物体が無造作に海に沈んでいく。
先程までの戦いが嘘だったかのように海は穏やかな表情に戻り、静けさが周囲を包みはじめていった。
しかしシンの周りは未だにそんな様子にはならずにいた。
グレイ「う…くっ…やはりか…。1発撃つとガントレットが…いや、腕が思うように動かなくなる…。」
肘部分から黒い煙がモクモクとあげる。オーバーヒートを起こしたガントレットは腕を振り上げようとするグレイを拒むように小刻みに震えていた。
対してトウキは…体から溢れる冷気を抑えきれず、凍えるように震えていた
シン「トウキ!大丈夫か?!」
トウキ「大丈夫…体は…丈夫だ…から…」
シン「最初に会った時…あの雪山の吹雪の中じゃ余裕だったあのトウキが凍えている…。ここからじゃよく分からないけどそれ程の冷気なのか…。にしても自分のマナをコントロール出来ないなんてそんな馬鹿げた話があるのか…?」
トウキ「ぐ…ぐあああああ!」
氷の仮面に亀裂が入ると周囲に冷たい風が吹雪のように溢れ出し、激しく吹きつける
グレイ「!!」
オーバーヒートを起こしていたグレイの腕の症状は和らいでいく。どうやらトウキに刻まれたセイリュウの怠惰の力が作用したようだ。しかし…
トウキ「ハァ…ハァ…止まれ!止まれ…止まれぇぇ!」
意図せずマナを周囲に拡散してしまったトウキは呼吸が浅くなり疲弊していく
シン「く…冷気が激しくなってアイツの元に行けない…!トウキ!このままじゃあマナを使い切って死ぬぞ…!」
トウキ「んなこと言われたって…どうにも…体が言うことを…」
斬鮫「く!見てらんねぇな!」
斬鮫が海中より飛び出す。そして剣先を開き、トウキの腕に噛み付いた
トウキ「斬鮫!離れて!キミまで凍っちゃう!!」
斬鮫「そうならねぇようにマナを食ってんだよ!持ち主と死に別れるのは二度とゴメンだ!…だが、ちょっとばかりこれは…キツい…!」
斬鮫の抵抗も虚しく苦悶していた次の瞬間、再びレヴィの歌が聞こえてきた。その歌を聞いた瞬間、トウキから溢れ出していたマナの勢いは徐々に弱まっていき、やがて収まっていった。
トウキ「レ…ヴィ…?」
そしてトウキはその場に倒れた
シン「レヴィ?…そうか。これが龍脈の…。」
やがて海からレヴィ…もといセレンの体がゆっくりと歩み寄ってくる
グレイ「なんだってんだ…一体…何がどうなってる?」
レヴィ「トウキ、そしてその仲間たち…ありがとう。おかげで元の場所に戻れる…やっと。それとネプチューン、ちゃんと謝った?彼らに」
ネプチューン「だ…黙れ!我は…。お、オイラはただ…」
自身を構成していた残骸の上に頑張ってよじ登るネプチューン。しかしその本体は青白く細長い手足を生やしたヒトとは似て非なる存在であった
上半身を出すだけで精一杯なのか息切れを起こす
グレイ「く…コイツ!正体を現したな…この期に及んでまだやるつもりか…」
シン「待って、グレイ。アイツにもう戦う意思は無さそうだ…」
ネプチューン「ああ…。さすがにもう無理…力の根源との繋がりが断たれた以上お手上げだよ…まったく、やられたよ…。なんだよあのトンデモ威力のブッパ砲は…」
グレイ「1発撃つのが精一杯な付け焼き刃だがな…というかそれよりお前、かなり印象が変わったな。見た目も雰囲気も」
ネプチューン「あー…。だってそりゃこんなんじゃ威厳ないっしょ実際。すごく練習した。舐められないように色々体にいっぱい着けてでっかく見せて。でもアレ(龍脈)に触れたら、なんだか自分が自分じゃなくなったようになって…今に至るってワケ。」
シン「有り余る力を身に宿すんだ。そりゃ暴走するようなもんだよな…誰かさんみたいにさ。」
意識を失っているトウキに視線を向ける
シン「というかさっきからレヴィ?って子と知り合いみたいな感じで話してるけど、一体どういう関係なんだ?」
ネプチューン「…オイラが海を漂ってたら偶然すごく綺麗な歌声が聞こえて来たから…。んで、人間の姿を借りたコイツ…レヴィと会った。レヴィは人間に興味を持ってて、近くで見ていたいってことも聞いた。だからオイラはそんなレヴィの代わりに体を守る役割を申し出た。そしたら…その…ずっとレヴィの歌を聞いていられるし、それに…一緒に…いられるし。」
グレイ「よーく分かった。つまり惚れた相手の力になりたい。一緒にいたいってことだな。」
ネプチューン「ば、ばかやろ!そそそ…そんなんじゃねえやい!」
シン「デリカシーは無いけど…的を得てるな」
ネプチューン「とにかく改めて礼を言わせてほしい。ありがとう。お陰で長い悪夢から目が覚めたような気分だよ。」
レヴィ「じゃあ…そろそろ…」
不思議に思ったシン達だが次の瞬間、2人も急に眠りにつくようにその場に倒れ込む
『泡沫の過去は時の破片。弾けどそれは記憶と共に…刻まれた歌に乗せて…』
レヴィ「またね。出来ることなら次は…本当の姿で会いたいな…」
トウキに向けてそう言い残すレヴィの姿は徐々に重い瞼に遮られていくのであった
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トウキの心象空間…斬鮫のものと比べその空間の足元は赤い水で覆われている。その場所でセイリュウと対面していた。
トウキ「セイリュウ…僕は一体どうなったの?」
セイリュウ「生きてるよ〜。いやぁ…まさか自分から死にかけに行って力を無理矢理開放しようとはね…。予想外だったよ。まったく…キミは斬鮫よりも面倒だな…」
トウキ「そうでもしないとあの場合仕方なかったよ…」
セイリュウ「正直なところ君を選んだのは間違いだったのかもしれないって僕は少し後悔しているよ…君は他人のために自分を犠牲にできるが、自分に鈍感すぎる。それが自分の器…可能性を狭めてしまっていることに早く気づいて欲しいもんだね〜…」
トウキ「器を…狭めている…?」
セイリュウ「はぁ…。いいかい?何も自分を死へ追い込むことが全てじゃないんだよ〜。身に宿る力の根源を知り、受け入れることで初めて器が広がって限界を越え続けることができるんだよ〜。用心しなね。」
ため息をついて気だるそうにそう言ったセイリュウは心象空間を一瞬で凍りつかせてみせた。そしてトウキの足元を満たす赤い水は鋭利に尖り突き上がった
セイリュウ「忠告するよ。印を刻んだキミが死ぬか、斬鮫が折れたりでもすれば…この力は一気に溢れて…外の世界の全てが凍りつくよ〜。キミの守ろうとするもの全てを…世界ごと呑み込むようにね。」
トウキ「くっ…。どうしてだ…どうしてそこまで…」
セイリュウ「レヴィも言ってたけど、全ては1つになる為。キミたちはその為の手足さ。つまりはそれを動かす為の力はいくらでも貸すよ〜ってこと。はぁ…真面目な話したら眠くなっちゃった〜じゃあ…おやすみ〜。」
トウキ「待て…!まだ話は…」
引き留めようとするトウキだったが、足元から徐々に凍りついてくる
トウキ「動け…ない!い、意識もまた…」
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頬に暖かい水が触れ、離れていく…。
口に触れた水は潮の味がする。目を開けると、眩しく陽を浴びた白い砂の上に横になっていたトウキはゆっくり起き上がる
シン「気がついたか…」
トウキ「ここは…?」
グレイ「見てみろ…俺たちが戦った跡や成金野郎が壊した村すら見当たらない…。まるで今の今までずっと化かされたみたいだ。」
トウキ「…夢だったってこと?」
シン「いや、それにしてはマナの減りが多すぎる。」
グレイ「そうだな…。夢だとしたら俺が限界突破したことも無いはずだ。だが今も俺の腕が痛む以上、実際に起こっていた事に間違いはないんだろう…。」
困惑する2人と対照的にトウキは妙に落ち着いていた。いつの間にか背負っていた斬鮫に触れ安堵するとトウキは自身が持つ星証に触れた
トウキ「(レヴィ…そこに居るんだね?)」
微かだがレヴィの気配を感じた。
レヴィ「鋭いね。案外気付かないものだと思ってたけれど。」
トウキ「タムンさんやモーカッナーさんはどこに行ったの?」
レヴィ「タムン…?ああ、セレンの父親だったヒト…。居るよ。目には見えずともこの地にずっと…。モーカッナーというヒトは…たぶんその辺に…」
周囲を見渡すと砂浜に頭が埋っている人がいた。シンとグレイが足を引っ張り上げると、モーカッナーは砂を水のように吐き流した。トウキはその姿を見て唖然としたが、続けて自身にしか感じられない星証に潜むレヴィに問いかけた
トウキ「…他の人たちも、ずっとここにいるの?」
レヴィ「いるよ。ここはそういう場所だから。海を彷徨う魂が集う場所…。」
トウキ「それってつまり僕たちも…?」
レヴィ「生きてるよ。あなたの中にいたワタシを感じてワタシが呼んだの。」
トウキ「ワタシがワタシ…?ってああ、セイリュウのことか」
それからトウキはレヴィの話を聞いた。どうやら流れついた島は海に没した迷える魂達を導く地であったそうだ。
トウキと斬鮫の中に刻まれたセイリュウの怠惰の刻印を感じ取ったレヴィが近くにいたシンとグレイと共にこの地へ導いたそうだ。
グレイ「トウキ!見ろ!シンの持つ星証から舟が出てきたぞ!これでここから出られる!」
モーカッナーを投げ入れたグレイは右手を振りながらトウキを呼ぶ
レヴィ「呼んでるよ。行こっ」
トウキ「え?レヴィも行くの?」
レヴィ「行くよ。もちろん。」
トウキ「え、でも龍脈は?せっかく戻れたのに…?」
レヴィ「うん。だからこうやって他の場所へ動けるようになったの。それにワタシの仕事を代わりにやってくれるアイツがいるから…」
ネプチューンと思われる細い腕がレヴィを送り出すように手を振った
トウキ「ああ…。なるけど。(これもセイリュウのが言ってた『1つになる為』の行動…なんだね。)」
なんとなくレヴィの思惑を察したトウキだったが、トウキはシンとグレイが乗った舟に飛び乗り、不思議な島を後にするのであった。
一方その頃…
タムン「…やっと、また会えたのぉ…長かった…。本当に長かった。」
セレンの魂が形となって海から上がってくる。その手にはタムンが使っていた…巨大イカの魂が眠っている錆びたモリが握られていたのであった…。
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