溢れるもの
トウキは独りどこかの島の砂浜に打ち上げられていた
先程まで荒れ模様だった海は嘘だったかのように穏やかな波が寄せては返している
島民「!!」
偶然砂浜を歩いていた島民がトウキを見つけ抱えてどこかへ運んでいった…
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一方その頃…
シン「グレイ、起きるんだ!グレイ!」
グレイ「う…ん?どこだここは?」
シン「わからない…あの時、波に飲まれて気がついたらこんな島に…」
シン「見て!あれ!」
シンとグレイも同じように砂浜へ打ち上げられていた。そして辺りを見渡すと近くで斬鮫と石の剣も見つける
シン「よかった…無事でよかった…」
シンは石の剣を抱きしめ呟く
グレイ「一緒に人斬りの剣もあるな…だがトウキの姿が見当たらない…」
シン「そ、そうだね…でも、きっと近くにいると思うんだ!一緒に探してくれないか?」
グレイ「当然だ。あんな状態じゃさすがに無事でいられるとも思えんしな…。宿で色々聞いたがあんな風になることは聞いてないし、見つけて問いただしてやる」
グレイは斬鮫を携え、シンと共にトウキを探しにいくのであった…
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島民「お、目ェ覚めたか」
トウキ「…?こ、ここは…?」
島民「ワシの家じゃぞ」
トウキ「そうか…僕、巨大イカに叩きつけられて海に沈んだんだっけか…。助けていただきありがとうございます…。あの、あなたは…?」
島民「ワシはタムンじゃ。このダイアンの島で漁師をやっちょるんじゃ。」
トウキ「ダイアン…?島…?あ、あの!僕がいた近くに剣はありませんでしたか?!大きい包丁みたいなのと石で出来た剣なんですけど…」
タムン「んやぁ?お前さんの近くにはなーんもありゃせんかったぞ?んな珍しいモンがあったら見落とすワケもないじゃろうに…」
トウキ「く…」
苦虫を噛み潰したような顔をしたトウキは意識が朦朧とする中、再び海に向かって走り出す
そして星証を海に向けるが…
トウキ「舟よ!出てくれ!!頼む…剣を…シンの剣を探さなくちゃいけないんだ…」
しかし星証の光は失われており、トウキの声は波の音に虚しくかき消された
トウキ「…くっそう!」
トウキは海に入っていくが、
タムン「待つんじゃ!今の状態じゃ溺れて死ぬだけじゃぞ!」
トウキ「大丈夫です!僕の体は丈夫ですから…っ?!!!」
その瞬間、トウキの脳裏に先程の戦いがフラッシュバックする
今まで味わったことのない痛み、息のできない苦しみ、そして自分が自分でなくなるような恐怖。
トウキ「う、うわああああああ!?」
そして絶叫すると海に背を向けて砂浜に戻り顔を伏せてしまう
トウキ「…なんだ…これ…。震えが…止まらない…何なんだ…これ…」
タムン「ひとまずは落ち着くんじゃ。探し物をするにしろ、焦っては見つかるモン見つからんぞ。」
トウキ「はい…」
タムンの肩を借りて再び小屋の中に戻っていく
タムン「まずは食え!腹いっぱいになると少しは気も紛れるってもんさ」
トウキ「…ええ」
タムンから手渡された果実を口にする
トウキ「…美味しい!すごく甘いですね!」
タムン「だろぉ?この島の果物は太陽の光をたくさん浴びてっからすげぇ甘いんじゃ!それにこの島には昔っから人魚様の加護を受けてるから自然で溢れてんだぁ!」
トウキ「人魚の…加護?」
タムン「大昔、この島は土地は痩せこけ、作物は枯れ果てたまさに死の島だったそうじゃ…ある時、夜空から海に一筋の光が降ってきたんだぁ。しばらく経つと島のモンが人魚を見たって騒いだんだ!
それからだぁ。人魚の様の歌が聞こえ出すと木々が生い茂って、果実は実り始めるだけでなく、海には魚は集まりだして…豊かな自然を取り戻していったんじゃよ。きっと人魚様の声に誘われて果実の種も魚たちも波に乗ってやってきたんだなぁ」
トウキ「不思議な話ですね…(急に自然溢れたってのも龍脈の話にも少し似てる気がするなぁ…)」
タムン「ああ。それにその果物、死んだ娘が好きだったモンなんだぁ。たくさんあって処分すんのも勿体ねぇからじゃんじゃか食ってくれぃ」
トウキ「娘さんですか…」
タムン「ああ。生きていれば近くの村の村長んとこのひとり息子と結婚するはずだったんだけんど…なんかすまねぇな。辛気臭くなっちまっただ。ったく今日のワシぁどうかしちまってるな…見ず知らずの人にこんな…」
トウキ「いえ、そんなことは…。あの…僕も1つ聞いてもいいでしょうか?」
タムン「ん?なんじゃい?」
トウキ「僕、ここからずっと遠くの山の麓にある村に居たんです。
そこで石投げられたり、棒で叩かれたり…色々されてきたけど、体は丈夫だから痛みは感じなくって…。
でも…この間、旅を始めてから黒い影人…屍異奴に取り憑かれた亜人族の人を殺したんです。彼は『ありがとう』って言ってくれたけど、その後に僕は海で巨大なイカと戦って…。初めて痛いってことと、海に落ちて息が出来ない苦しみを味わったんです。痛くて苦しいはずなのに『ありがとう』って言葉をかけたガルガ…その亜人の言葉が胸に引っかかってて、胸が締め付けられたかのようにさらに痛くなったんです。
…タムンさん、痛いこと、苦しいこと、死ぬ事、そもそも生きるって…なんでしょうか?だとしたら僕は…」
タムン「うーん…ワシもよく分からんけんど、思うに痛みや苦しみっちゅうのは、全てが悪いモンだけでもないと思っておるぞ?」
トウキ「で、でも…」
タムン「ワシも娘が死んだ時、痛かったんじゃよ。…ここが」
タムンは胸に手を当てる
タムン「娘はもともと体が弱くての。本人が1番痛く、苦しかったはずなんじゃよ。じゃがあの娘も最期に言ったんじゃよ『ありがとう』って…。
それを聞いた瞬間にワシの胸も…こころが締め付けられているようになってのぉ…。
じゃがこう考えるようにもなった。残りの人生、娘の愛したこの島を、この景色を守っていこうとの。痛みはワシにこれからも生きる為の力をくれたんじゃよ。」
トウキ「生きる為の力…」
タムン「言葉を思い出してさらに苦しいと感じたのも、きっとお前さんがその言葉笑大切にして、応えようと必死に足掻いていた証じゃよ。旅を始める前には無かった思い、亜人族の人を殺してしまった事で目の当たりにした死が、お主自身にも無意識のうちに考えるきっかけを与えてくれたんじゃないかの?
これからもそういう苦しさや痛みもそりゃあるかもしれんが、それでもその人から貰ったものを大切にしたいから生きようとする…今はそれでいいんじゃなかろうかの…」
トウキ「…」
タムン「まぁいきなりは難しいじゃろうからゆっくりでいいんじゃよ。
焦らず自分なりの答えを探していけばいいんじゃよ。…さて説教は終わりじゃ!ほれ!食え!」
トウキの口の中に果物をねじ込む
トウキ「ふぁぐ!?」
タムン「知っちょるか?人間、食べないと死んでしまうんじゃぞ?ふぁっはっはっは!」
大笑いしながらタムンも果物を口にする
タムン「…ったく。誰かと一緒に食べるってのも久しいのぉ。それにコレ、酸っぱいのぉ…酸っぱい。酸っぱくて…目から水がでるのぉ。」
トウキ「?すごく甘いじゃないですか…?」
タムン「いんや…酸っぱいさ」
トウキ「…ええ。…酸っぱい。」
タムンの目から涙が溢れそうな姿を見たトウキも目に涙が込み上げてきた。そして天井を見つめ小声でそう呟くのであった
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