青い首【セイリュウ】
側から見ると斬鮫はトウキの腕に噛みついた状態から動かないが、彼らは互いの意識だけを共有できる真っ暗な精神世界で向かい合っていた。
ウラヌス「…入ったようじゃな」
ペルセウス「ええ。ですが、また暴走するかもしれません。油断はできません。」
ヘラクレス「ここから先は彼次第…だよねー。」
ウラヌス「…そうよのう。じゃが儂ゃてっきり“彼側”で話すと思ってたんだがのう…。より確実に意識を垣間見えるよう星で囲ったんじゃが、よもやマナを大量に奪われるリスクもあるだろうに“剣側”に入って話し始めるとは予想外…。これじゃあ彼らの“声”を聞き取るのはちと難しいのぅ…。」
・
・
・
斬鮫「もともと俺は人を斬る為に作られた剣だ。最初はちっさい町のナワバリで1番の力自慢が持っているような剣だった…。今でもぼんやりと覚えている。最初の持ち主は俺を使おうとしなかった。なんでも俺を作った鍛冶屋の男との友情の証とかで使って汚したくねェって口癖みたいにほざいていやがった…。
それからしばらくして、デカい戦いが始まった。その持ち主が死ぬと俺は戦利品として持ち帰られた。そしてどこだか知らん国の為に敵を殺す為の“モノ”になっていった…。
そして新しい持ち主が斬られると斬った敵がまた知らん国の為に俺を持ってまた敵を斬る。ソイツが斬られたらまた別のヤツが…繰り返しているウチに俺は今みたいな俺になっていた。持つヤツに振り回されるくらいなら俺が…俺自身が斬り刻んで喰い尽くしてやるってな。そこからだ…持つニンゲンのマナを吸って戦場を喰い散らかしてきた。だが、何かが足りない…。それが分からなかった。
考えたくないからまた次々とニンゲンを斬る。そうやって自棄になって戦いを繰り返しているうちに、何の因果か最初の持ち主の子を名乗る男の手に渡った。
最初は疑ったさ。でも握られた手が懐かしい感じで、一瞬で分かった。コイツになら使われてもいいってな。
でも、いつの日にか戦いは終わった。その男と俺は戦犯扱いをされ国を追われた。くだらねぇよな。戦っている間は斬った数が多ければ多いほど讃えられるのに、戦いが終わった途端に殺人鬼扱い…。結局俺はどこまで行っても人を貪り喰うように斬る“人喰いの剣”ってこった。…んで、俺たちが最期に流れ着いたのがあの雪山の麓にある村だ。そこでも俺を見るや巨大な包丁呼ばわりして居場所はなかった。それでもアイツは俺を手放さず一緒にいた。アイツだけが俺を“モノ”として扱わない…そう思っていた。
だけど…だけど!アイツは俺をあの雪山に置いていった!アイツは俺を捨てたんだ!
そこからずっと俺は…。ずっと独りで…だから俺はもう二度とニンゲンを信じない。捨てられるくらいなら最初からマナだけ貰って何も考えず斬り続けていく!
運良くお前が俺を引き抜きに来てくれたおかげでまた人を斬れるってワケだ!
…わかったか!?これが俺だ!だからこれからもお前には俺にマナを分け与えるありがたーい役に徹して貰うぜ?悪く思うんじゃねェぞ?!」
トウキ「…」
斬鮫「どうした?ビビって声も出ねぇか?」
トウキ「いや、僕もあの村で独りだったから気持ち、わかると思ってさ。」
斬鮫「ざけんな!お前と一緒にすんじゃねぇ!」
トウキ「あと…1つだけ言いたいことがある」
斬鮫「んだよ。説教なら聞かねぇぞ」
トウキ「あの村の人たちが外から来た人間を異常なまでに嫌ってた理由だよ。」
斬鮫「あ?んなの俺が人喰い剣だから…」
トウキ「違うよ。雪山から降りてきた屍異奴に襲われたからだよ」
斬鮫「?!…人の入らねぇあの雪山からヤツが勝手に湧いて出るわけ…?!」
トウキ「僕も村にいる頃は村の外から来た人間と親交を深めると不幸を招くって言われたから、気になって村人の話を盗み聞きしたことがあるんだ。戦争が終わってしばらく経った頃、外から人がやってきたんだ。その時、1度だけ雪山に追いやったことがあったらしいんだけど、しばらくしたら胸に大きな傷を負った黒い怪物が雪山から降りてきたらしいんだ。その怪物はすぐに動きが止まって死んだらしいけど、それから村じゃ外から来た人間との親交は避けるようになったそうだよ…。
今まで君の話を聞いてて思ったんだけど、たぶん…いや、絶対に君の最後の持ち主だったんじゃないかな?雪山に置いて行ったのも、君を巻き込みたくないからで…」
斬鮫「…な、んなワケ…ねぇだろ!?胸に傷は…。確かに別れる前にアイツは刻んで行ったけど…。んなの本当だってどう証明できるってんだ?!」
トウキ「嘘だっていう証明だってできないでしょ?!なんなら僕の記憶を読めばいい!それくらいできるだろ?!」
斬鮫「出来たらとっくにやってら!他人の過去のなんぞ見る賢い力なんか備わっちゃいねぇわ!」
2人「…。」
トウキ「なぁ」
斬鮫「んだよ」
トウキ「ほんとにヒト…斬り続けたいのか?」
斬鮫「はぁ?だから言ってんだろ?!俺は人喰いの…」
トウキ「それは周りが勝手に言ってること!君自身が持ち主に使い回されて絶望して自棄になってやってただけなんだろ?」
斬鮫「…わかんねぇよ。なんかオメェと話してたらワケが分かんなくなってきた!ああああ!腹立たしい!」
トウキ「目を背けないで!今は僕を…僕を見て!確かに僕は君を使ってきたどの人達よりも弱いよ!それに僕はあの村のニンゲンじゃない!確かに最初は君を持っていけば友達になってくれるって村で言われて…。君の事、友達を作る手段としてしか考えてなかったよ!でも、今は違う…もうここはあの村じゃない!それに僕は君の今の話を聞いて放っておけないって思った!これからも君と一緒に旅もしたいし、君とその人を引き裂いた原因になった屍異奴とも戦っていきたいんだ!」
斬鮫「…るせぇ!うるせぇ!うるせぇ!黙れ!勝手なこと抜かしやがって!弱い奴は俺にマナだけよこせゃいいんだよ!もう何も考えたくもねェ。俺は…屍異奴もヒトも全部全部全部ッ!斬って殺して…喰い尽くす剣だ!これまでも…これからも!」
斬鮫がトウキに飛びかかろうとした瞬間、身も凍るような冷気が精神世界を包み込む。
対面した二者の間から現れたその者は縫うように這い、高い位置に留まり見つめるのであった…
斬鮫「オマエだな…俺の中に勝手に入り込んできたヤツは…」
斬鮫が見つめる先には巨大な龍のような姿を象った青白い影が揺らめいているのであった
斬鮫「ようやく姿を見せやがったな…。勝手に俺の中に入り込みやがって…オマエ、一体何モンだ?!」
?「ワタシは…首。アナタ達が対話する時をずっと側で待っていました…。」
トウキ「この声…聞き覚えがある。初めて斬鮫の名を聞いた時に一緒に聴こえた声…」
アラクネ戦時に聞こえた声との再会は突然であった
斬鮫「誰だっていい!さっさと俺の中から出て行け!」
?「それはできません…。長年この中に居たことでワタシはこの剣の一部と化してしまったのです。つまり、アナタとワタシは一心同体というワケです」
斬鮫「ふざけんな!俺ん中に勝手に入ってきておいて…力づくでも出ていってもらうぞ!」
斬鮫がその影に飛びかかろうとすると
?「はぁ…せっかく丁寧に取り繕って挨拶したのに…疲れるなぁ〜」
いきなり口調を変えた影は、やる気をなくしたような態度で斬鮫を躱した後にその長い体で塒を巻き始めた
斬鮫「は?!」
暗い空間の壁のような部分に突き刺さった斬鮫をよそにトウキへ話しかける
?「僕ね〜、キミがこの剣と対話を果たす時をずっと待ってたんだぁ〜。まずは第1段階、合格〜な〜んってね。」
トウキ「は、はぁ…ところでキミは一体なんなんだい?」
?「名前なんてないよ〜。ただの斬られた龍の首なんだもん。斬られる前に名前はあっただろうけど…。僕だけど僕だけじゃなかったし〜…。好きなように呼んだらいいよ」
トウキ「龍…。じ、じゃあ青いから…セイリュウってのはどうだい?」
セイリュウ「あ〜いいねぇ〜。よろしくね。トウキ〜」
斬鮫「おい…なに勝手に盛り上がってんだ…
おいヘビ野郎!だいたいなんで俺ん中に入って来やがった?!」
セイリュウ「なんでって…キミとキミの持ち主に興味があったからだよぉ〜。久々に山に登って来てくれた人が楽しそうにお話してたから…。一緒にお話を聞きたいなぁ〜って思ってたんだよぉ。でもしばらくしたら雪山に君を突き刺して持ち主いなくなっちゃったんだもん。お話、ちょっとしか聞けなくて寂しかったなぁ。」
トウキ「それってさっき話してた…」
斬鮫「…」
セイリュウは息を吐くように吹雪を吹き出した。すると周囲には当時の出来事がビジョンとして映し出される
・
・
・
昔の持ち主「すまない…斬鮫。儂はもう限界が来てしまったようだ…。ずっと今まで隠しておったが、こやつ…屍異奴が儂の身体をもうほとんど乗っ取って…今じゃ意識を保つのも…ままならん…。このままお主を持ったままでは…儂はまたお前に望みもしない血を浴びせてしまう…。長い戦いも終わったんじゃ。もうゆっくり休むといい…。うっ、い、意識が…う、ウウ…。い、イマ…まで…戦っテ…くれ…て…アリがトウ…。せ、せめてサイゴは…ウ、ウォォォ!!」
そう言って持ち主は斬鮫を使って自身の胸に十字の傷をつけた後に胸を貫き、斬鮫を地面に突き刺した
昔の持ち主「…すまんナぁ。最後まで世話ニなって…。だがこれで…心オきナく…う、ウウウウウ…」
黒い煙のようなモヤが十字の傷より溢れその者を包み込む。そして自らが地に突き刺した斬鮫を再び抜こうとするが、残る意識を振り絞ってその腕を自ら払い、その場から走り去っていくのであった…
・
・
・
セイリュウ「…僕の知ってるところはここまで。あとはさっきトウキが言った通りだと思うよ」
斬鮫「思い出した…
アイツは…自分を失くしそうだったのに最後までずっと笑ってた…それが最初の持ち主にそっくりで…。」
トウキ「斬鮫…やっぱり、君が望むなら僕は君にマナを…」
斬鮫「なぁ」
トウキ「ん?」
斬鮫「…お前、屍異奴と戦うって言ったよな?」
トウキ「え?…あ、ああ。」
斬鮫「…仕方ねぇから手伝ってやるよ」
トウキ「い、いいのか?!」
斬鮫「ただし、役に立たねぇようじゃオメェのマナ貰って俺が勝手に戦う。それでいいだろ?!」
トウキ「ああ…ああ!」
セイリュウ「いいのか〜い?もうニンゲンに使われるのは嫌なんだろう?」
トウキ「ちょっとセイリュウ…!」
斬鮫「ああ?!気が変わった。それに、コイツ、多分…ただのニンゲンじゃねぇし関係なかったわ」
トウキ「え!?それってどういう…」
斬鮫「血の味が違うし何より…ただのバカだ。ニンゲン以下だからだなきっと」
セイリュウ「ふーん…ハハ!面白いね〜!君たちのお話、これからいっぱい聞けることを切に願うよ…。でも斬鮫、気をつけた方がいいよ〜。君は戦いに明け暮れるうちに無意識のうちに斬り刻む事に執着するあまり、自我を失うほど暴れ回るから…。トウキ、頼んだよ…」
薄れゆくセイリュウはそう警告して霧のように消えていった…
トウキ「セイリュウ?!…斬鮫、セイリュウは?」
斬鮫「…まだ居る。だけど最初に比べると微弱な感じだ。
一体なんなんだ?言うだけ言って勝手に消えやがって…。変なヤツだ…」
トウキ「そっか…また会えるかな?」
斬鮫「さあな?消えてねぇんだからそのうちまたひょっこり首出すんじゃねーの?
…それよりも…ホラ、持てよ」
トウキ「え?」
斬鮫「まだアイツ、斬ってねェだろ?
ナマクラ呼ばわりしたこと…泣いて謝らせてやる」
トウキ「…うん!」
斬鮫の柄を握るとトウキは目を覚ましたような感覚で元の星陣内に戻っていた
腕の傷からは血が流れるが、その痛みよりも握られた斬鮫の重みを感じていた
トウキ「さあ!いこう!斬鮫!」
斬鮫を強く握りしめ、ペルセウスに斬りかかっていくのであった…
お読み頂きありがとうございました。
もしも
・面白い
・続きが気になる
・なんじゃこりゃあ!
などと思いましたらブックマーク、お気に入り登録お願いします!
皆さんに見て頂けること自体が嬉しいことですし、これからも貴重なお時間を共に過ごせるよう頑張って書いていければと思いますので応援よろしくお願いします_(:3 」∠)_




