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Trick.or.Treat  作者: 風雅雪夜
未来へ繋ぐモノ編
22/23

未来へ繋ぐモノ 11

 最後まで足掻くラミアーの術にかかったルカ。

 いよいよ決着、そして未来へ繋ぐモノ編、最終話です。

「母さん!」

「ルカ!」



 二人が自分を呼ぶ声でルカはようやく現実に帰る。いつの間にか箒から落ちて倒れていたようだ。体から鈍い痛みが遅れてやってくる。



「あの人の魔法にやられていたんです」

「大丈夫、ルカ? 顔色が」



 グレンとノアを抱き締めた。

 温かい。そう思えばもう怖くなかった。



「ありがとう、二人とも。もう大丈夫」



 笑顔で立ち上がる。心配そうな二人の顔は本当によく似ている。それが余計におかしくて。でも、とても愛しくて。心の底から勇気が湧いてくる。

 もう迷わない。そう決めて苦しみに悶えるラミアーを見据える。


 彼女の全てはルカに奪われた、そう言われると否定はできない。自分の今は多くの魔女、魔法使いの夢のレースを勝ち抜けて掴み取った結果だ。誰かの夢を踏み台にして、或いは奪って勝ち取った立場だ。しかし、それは厳正な審査を得てルールに則って得たものであり、決して不正などという卑劣な行いはしていない。

 自分が責められる道理はない。相手の野望のために憎まれるなんて道理もない。



「確かに私は、たくさんの魔女、魔法使いの夢を踏み台に今の立場に立っています。けれど、私はライバルであっても尊敬していました。競いあった皆は、私と同じように夢がありました。皆が持っていた夢は、全て違っていましたが、他人の人生を奪う願いではありませんでした」



 新しい法律を作ろうとした者。新しい魔法を研究し続けていた者。種族を越えて魔界の活性化を願った者。大好きな自慢の母親の隣に立つために認められたかったアイラ。低魔力症にかかった人達を助けたいと願った自分。

 皆、誰かのために賢者になりたかった。決して誰かの夢を奪って踏み台にしたいと思ったわけではなかった。結果的にそうなってしまっただけで、意図的にそうしたかったわけではなかった。


 だけど、この怪物は違う。

 自分の勝手で人から奪おうとした。自らの野望のため、ただのネームブランドが欲しくて。自己満足のために全てを奪い取ろうとした。



「私は貴女を赦せない。貴女の願いを叶えてあげられません。助けてもあげられません。浄化して未来に送り返します。その魂がすり減って、一片の欠片を残すことなく消滅するまで地獄で焼かれてください。……もし、貴女が心を入れ換えたなら、また1人の魔界の民として生まれ変わって来てください。貴女に私がやった功績を見せてあげますから。さようなら」



 もう怪物は一人の魔女に戻っていた。浄化されたその老女はルカを睨みながら気絶した。気力を使い果たしたのだ。

 光が消えて役目を終えた浄化の陣に入り、深い眠りの魔法をかけてから封印の魔法を施す。封印の魔法により、魔女は手のひらに収まる卵形の水晶に姿を変えた。それを未来で裁いてもらうためノアに託す。


 今回の戦いは自分の下にしてきたものをまざまざと見せつけられた。とても恐ろしく、心を抉りにくる。今まで見ようとしなかったわけじゃない。けれど、常に心に置いていたかというとそうでもない。賢者になったが、まだ若輩者だ。足りないものはたくさんある。学ばなければならない。



『何のために貴女は賢者になるのですか?』



 面接で試験官から問われた。

 あの時は低魔力症にかかった人達を救いたいと答えた。多分、試験を受けた者は皆似たようなことを答えたのだろう。だけど、賢者になれたのは自分ただ一人だった。他の候補者と自分に、そんなに差異はなかったと思う。

 それでも、自分が賢者に任命された。それにはきっと意味がある。それがわかった時、低魔力症の改善に対して有効な手段を見つけた時にだ。自分が本当にようやく賢者になった意味を知るのだ。

 今はまだ、学んで探す。生きてる間は全て勉強だ。



「お疲れ様、ルカ。帰ろう」

「そうだね、帰ろう」



 とにかく今は帰りたい。家に帰って、家族の温かさに包まれたい。それからでもいいでしょ?






「あぁ、過去の母さん。僕はそろそろ帰らなければ」



 ルカの家で戦闘後の一休みをしていたときにノアが言った。

 ノアは元々、薬のために未来からやって来た自分達の子供だ。未来では彼の家族が苦しんでいる。帰って薬を飲ませて家族を救わなければならない。彼の父親、つまり未来のグレンから託された大役を果たしに戻らなくては。



「未来の私達を助けてくれてありがとう」

「未来の僕らによろしくね」



 最後に両親らしく未来に送り出してやろうとする。けれど、なんだか落ち着かない。まだ自分達が親でないから、そもそも結婚もまだだから。



「ありがとう。父さん、母さん。僕を助けてくれてありがとう。未来の二人も大好きだけど、今の二人も大好きだよ。だから、必ず、僕は貴方達に会いに行きます。それまで待っててください。絶対に、二人の元へ生まれてきますから!」



 何年後に自分達は彼に会うのだろうか。何年後でもいい。彼は必ず自分達のところへ来てくれるのだから。だから、安心して待とう。今生の別れじゃないのだ。ちょっと待つだけだから。


 ノアが懐から懐中時計を取り出し、それに魔力を送る。時間遡行の魔道具だろう。誰が作ったかは知らないがそれはとても精緻な作りで、ノアのために作られたこの世で唯一つの時間遡行の魔道具。それからノアを包み込むように金色の魔方陣が展開される。時計のような魔方陣だ。

 これが時間を移動する魔方陣か、とまじまじ見ようとした。が、やめた。これを覚えてしまえば過去にこれを生み出し、禁術にした賢者の考えを否定してしまう。簡単に再現してはいけないものだ。ここは堪えなければ。


 簡単に歴史や未来に干渉してはいけない。歴史を書き換えれば、生まれるべきだったものが生まれない、或いはいない筈のものが存在してしまう、など現在に悪影響を及ぼしてしまう危険性がある。未来に行ってしまえば未来で発展した技術を持ち帰ってしまったり、未来の病を持ち帰ってしまって未曾有の災害を引き起こしてしまう可能性もある。だから、先人は時間を移動する魔法を禁止したのだ。


 けれど、ノアは来た。彼はその禁じられた時間移動をしてでも過去に来なくてはいけなかった。大事な理由が彼にあったからだ。彼が来ることでしか動き出さない未来があったから、彼は現在(ここ)へきたのだ。現在へ誰かが彼を導いたのだ。



「ノア、最後に一つ教えてくれるかい?」

「教えられる範囲なら」



 グレンからの問いにノアは答える。問うのは未来の指針や心構えだろうか。



「僕はどんな謎を解けばいい?」



 あぁ、とノアは意味がわかったように頷いて少し考える。答え、よりもヒントをいくつか絞り混んでいるようだ。謎、というのは隠語なのか、ルカにはさっぱりわからない。(未来の)親子なのに一人だけ仲間外れにされたようで寂しさを覚える。



「……なら、“妖精の丘のベル”、“魔弾の魔術師”を探してください。これ以上はちょっと……」

「ありがとう。次に君に会うときまでには、この謎を解いておくよ。君が安心できるようにね」

「ありがとう。お願いします、父さん」



 頭を下げて頼む彼は来たときよりも大人びて見えた。今回の時間遡行で彼は成長できたことだろう。きっと未来の自分達は驚くかもしれない。



「父さん、母さん。ありがとう!」



 ふわりとノアの体が空中に浮く。幾重にも彼の周りを回る金色の光の輪の中で手を伸ばす。その手をそっと握って最後に彼の顔を焼き付けるように見つめる。ノアという少年を忘れないように、しっかりと。



「またね、ノア」



 “さよなら”じゃなく“またね”。未来で彼に出会うなら、“またね”の方がふさわしい気がした。だから、ルカはその言葉を選んだ。

 そっと手が離れていく。光の輪はいよいよ高速でノアの周りを回転し、光の球体を形作る。それからカァッと金色の光が一際強く輝いた。そして、小さな残光の粒子を少し残して、彼は消えた。未来に帰ったのだ。

 二人はしばらく消えた場所を眺めていた。



「……ンッンン……それで? いつあの子に会わせてくれるのかしら?」



 見守っていた黒猫・ノアールが催促する。様子を見ていたミイラのマミもうんうん、と頷いている。

 つまり二人の言いたいことは、ルカとグレンがいつ結婚してノアを生んでくれるのか、早くくっつけ熟年カップル、ということだ。10年以上は一緒にいるのだ。ノアールからすれば何でお互い好きあってるのに結婚して(つがい)にならないのかわからない。猫だって、もっと手は早いというのに……と猫の価値観を持ち出してくる。



「そ、それは……」

「それはまだできないよ」



 口ごもるグレンとは違いきっぱりとルカは言う。驚いて固まるグレンはショックを受けて、どんどん泣きそうな顔になってきた。



「私のお父さんを探さないと」



 ノアはルカの父親が生きていて、更に彼と一緒に旅をして暮らしている、と言っていた。未来のルカが即死しなかったのは、彼女の父親が呪いを半分肩代わりしていたからだ。

 呪いの肩代わりは、実は血の繋がった者でないとできない高度な技だ。未来で生きて一緒にいるのならば、現在もどこかで生きている、ということになる。



「私のお父さんが何処かにいるの。ノアに会わせるためでもあるけど、私も会いたい。自分の最後の家族が生きてるなら、お母さんの最期だって伝えたい。結婚するなら、お父さんにも立ち会ってもらいたい」



 ルカの家にいる者達は皆、家族と別れてしまってから長い年月が経っている。ルカは生まれたときから父親がいないし、母親もグレンと出会ったあとに亡くした。マミも自分が生きていた時代から数百年経ってから甦ったので家族は既に居なくなっていた。ノアールは気づいたら両親は居なかったが、オババ様を始めとした街の猫が家族だった。



「私は別に家族とか今更だし、ルカやマミが居てくれたらそれでいいわ。けど、ルカがしたいならしたいようにするといいわ。私は猫だから手を貸すことしかできないけどね」



 シュッ、シュッ、と猫パンチを空中に繰り出すノアール。考え方は猫らしいが自ら力を貸してくれるタイプの猫はそういない。ノアールという黒猫は紛れもなくルカの家族だから力を貸すのだ。



「私も……できること、やりたい」



 マミも続く。もう彼女にとってはルカとノアールしか家族がいない。もし、家族が増えるなら彼女はとても嬉しい。

 ルカは二人の家族を見て、最後にグレンを見た。自分の思いを理解してくれた彼は優しい目をしていた。



「探そう、ルカ」



 未来からの贈り物を見つけるために。その手をとった。



「あ、その前に……。マミ、ジャックとトムを連れてある人のところへお茶会に行ってくれる? 貴女達を待っている可愛い方がいるの」



 早速、マミにしかできないことをしてもらおう。






「今戻ったよ!」


 少年は持ち帰って薬を母と祖父に飲ませた。怪我を負った父親も様子を見守っている。やがて二人の容態は良くなり、家族は再び平穏を取り戻したとさ。

 過去から現在へ至る足跡。そこにあるライバル達の思いや軌跡。その上に立つルカはこれから未来へ向けて歩いていく。ノアのいる約束された未来へ向けて。そのために父親を探すことを決意した。


 いよいよ、ルカの家族の所在を明らかにするときが来ました。そして、このシリーズにおける黒幕の存在も。これから彼女を待ち受ける様々な事件に、ルカはこれからも仲間と共に挑み解決していきます。



 次回は登場人物、及びアイテムのまとめです。

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