未来へ繋ぐモノ 2
ルカは謎の少年・ノアの家族を助けることを決意。彼の話を聞くことに。
詳しい話を聞いたところ、彼は現在、両親と離れ、祖父と世界を旅しているという。
その旅の途中に母親が何者かに呪いをかけられて倒れたという知らせを受けた。二人はすぐに戻り、祖父が母の呪いの肩代わりを試みたが上手くいかず、全ての呪いを移すことはできなかった。祖父は呪いを軽減・減衰する特異体質であるが、それでもせいぜい母親の延命に成功しただけだった。お陰で母の意識は戻ったが、祖父もそう何度も呪いを肩代わりすることはできない。次に肩代わりができるのは今の呪いが完全に減衰し、消滅してからだ。
これは特異体質の祖父だからできる芸当だが、このままではまだ母親は危険な状況だ。危険な状況にあることに代わりはない。祖父自らが呪いを肩代わりし体質のお陰で軽減しても、完全に肩代わりできなかったその強力なその呪いを解くには霊薬が必要だ。呪いを浄化し、生命力を与える幻の霊薬が。
父親は霊薬の元となる材料を探しているが残りの3つが手に入らない。その3つの薬草はとても貴重で高価なものだ。それがなければ祖父も母も助からない。今も呪いは二人の体を蝕み、特に母親を死へ誘おうとしている。
更に父親は薬草の採取中に怪我を追ってしまい動ける状態ではないため、ノアが代わりにそれを探していることを話してくれた。
霊薬は絶滅危惧種に指定されている薬草を使わないと作ることができないものだ。その薬草の効能や成分を再現しようとすると、非常に多くの薬草や材料を使わなければならなくなる。さらに、それだけ使った代用品を以てしても、ほんの少ししか効果はない。それでは非効率である。
昔は多くの魔法使いや魔族が乱獲し闇市で売買していた。そこで時の魔王が採取を禁止した。現在は数が徐々に増えてきたため薬師にのみ、それを少しだが採取する権利を与えた。幻の薬草達。
生産地も秘密にされているそれはまるで宝だ。薬草へ至る道を知るのは、薬師に与えられたアスクレピオスの表紙の本。その中に書かれている暗号を読み解かねば、薬草は手に入らない。
「なるほど。それで僕の出番なんだね」
薬師の二級免許を取得したグレンなら、その幻の薬草の採取が可能だ。彼ならその幻の薬草が見つけられるかもしれない。
「残念だけど、僕もその幻の薬草がどこにあるのかは知らないんだ。でも、薬師一級を目指すものとして、助けを求める人を放っておけない。全力で手伝わせてもらうよ」
彼は早速、薬草の自生する場所の暗号の解読にかかる。二級を合格した彼なら暗号が解ける筈だ。そして、賢者のルカもいる。二人の頭脳を合わせればどんな暗号だって解けそうだ。二人は顔を見合せ頷いた。
必要な薬草は3つ。天空の涙が7株。聖樹・命の樹の一年目の枝から生えた葉を10枚。逆境大華の花を根から丸々一株。どれもこれも入手困難で購入するとすればとても高価な薬草ばかりだ。これらはそれぞれ別の場所にあるとされている。
“天空の涙は、空の中。空の神は星を見ていた。美しかった流れ星を捕まえ、それに涙一粒。綺麗だった流れ星は手にした瞬間、黒い石に変わっていたから、石は捨てた。それから、伸びた芽が美しい花を咲かせ。それに気づいたのは、それが一等高い山に落ちて転がった後。空に近い場所で、今もそれは地上の星として咲き誇っているだろう。英雄が追っかけた夜、多くの星の雨が降る。7の王の偉業で動かしてごらん。石になった男が山の上で待っている。”
“命の樹は、痛みと苦しみを越えた先。身を切り裂き、赤き血潮を流せば森は開く。白き花を赤く染めれば道は自ずと開くだろう。忘れてはならない。上から行けば串刺しだ。痛みと苦しみを越えたものにしか道は開かない。気高き森の守人は見ているぞ。忘れてはならない。己の力を。己の武器を。”
“逆境大華は浄化の花。不浄の地も清浄へ。故に逆境大華は移動する。不浄を浄化するために。花の香りは空気を清める。根は土地を清める。不浄の地を探せ。しかし、忘れることなかれ。そこへ至るには死を覚悟せよ。短命の花。命が惜しけりゃやめときな。逆境に立ち向かえばその花は開く。”
暗号の内容はどれも曖昧だ。これを解読して生息地を探さなくてはならない。逆境大華は移動し、また死を覚悟するような場所にあるらしいので、これは後に回す。命の樹と天空の涙は文章から生息地を特定していく。
魔界で一番高い山と言えばサラディック山だが、英雄が追っかけた夜、星の雨、など後の文章が続いている。
「英雄で星の雨か……。私だったら、ペルセウス座流星群かな、って思う。ペルセウスはギリシャの英雄だし、夏には流星群がピークを迎えるね。ちょうどペルセウス座はサラディックに沈むし。それ以外だと……」
「オリオン座流星群ってのがあるね。まぁ、オリオンを英雄と見るかって問われると微妙だけど。あの人、乱暴者って広まってるし。同じ英雄のヘルクレス座流星群ってのもないわけではないけど、マイナーだから除外していいと思う。やっぱりペルセウス座が正解かな」
オリオンやヘルクレスの線は低そうだ。ペルセウス座流星群のことだと仮定して次の暗号を解いていく。
英雄が沈んだ場所を7の王の偉業で動かす。石になった男が山の上で待つ。これらは神話が鍵なのだろう。神話が元だと言うならペルセウスに因んで、見たものを石に変えるメドゥーサも関係してくるのだろうか。石になった男は名もなき登場人物達も数多くいる。一体誰なのか。それに神話には王がたくさん出てくる。7の王とはなんだろう。七人の王、と言う意味だろうか。
「暗号を解読するのに解読のコード、方法があるんだよね」
グレンが紙とペンを取り出して書き出していく。サラディック山の略称SLDKを書き、その下にアルファベットの26文字を書き出す。そこから彼はある法則にしたがって文字を動かしていく。
「シーザー暗号!」
「そう。辞書順に三文字シフトして作られるやつ。人間界の紀元前に実在した7月の王、ジュリアス・シーザー、又はユリウス・カエサルによって作られた暗号。サラディックみたいなアルファベット表記にすると長くなる山の場合は4文字の略称が与えられるんだ。それをシーザー暗号で動かす。けど、ただ普通に三文字動かすんじゃだめなんだ。これにはね、どこかにある数字を使わないとダメなんだ」
「数字……それって7の王の」
「そう。だから7文字分を動かす。すると出るのがこれ」
“ATLS”。
「“ATLS”、アトラスだよ。アトラスのいるところに天空の涙はある」
魔界でただ一つ、アトラスがいる場所がある。それは本物のアトラスではなく、アトラスを模した石像だ。巨大なその石像はその形から天を担いだまま石になったアトラスと似ていることからそう名付けられたものだ。
流れ星が高い山に落ちて転がったなら、それはどこかで止まらなくてはならない。どこかで止まっていなければ、そこに花は咲いていない。その流れ星がアトラスの石像だとしたら……。
そのアトラスの石像はサラディック山の頂上に近い小さな窪地にある。あの場所には名所らしい名所もなく登るのにも適していない。見るものも特に無い岩肌の露出した寂しい山だったはずだが。そんなところに天空の涙が咲いているのだろうか。とにかく行けばわかるだろう。
「僕も、そこへ連れていって」
小さな声がした。手を伸ばして二人にすがり付く少年がいた。
「お祖父さんと母さんを助けたい。父さんの役に立ちたい」
今にも死に近付いている母親と祖父を助けたいという心は焦りと不安でいっぱいのはず。だが、それ以上に何もしないで待つということができないらしい。きっと誰だって大人しく待つことなんてできないだろう。
「危険かもしれないよ?」
「僕の家族は、それ以上に危険だ」
多分置いてきても勝手についてくるだろう。目がぎらぎらと光っている。勝手について来られるより一緒に連れていった方がいくらか安心できる。だから同行を許可した。
次回、天空の涙を採取します。
暗号は果たして正解なのか?




