未来へ繋ぐモノ 1
ある日、主人公・ルカの前に現れた謎の少年・ノア。彼もまた、ある理由のために彼女に助けてもらいたくてやってきたのだった。
ルカ・クラウディアの賢者としての仕事は、簡単に言うと医療研究だ。そのテーマは低魔力症である。
低魔力症。
それは魔力が急激に低下していく原因不明で治療法のない難病だ。ルカの生まれる以前からそれはあったが、普段は年に5人も発症しないか、数年間全く発症しないこともある。患者の数事態も少なく、またその患者に遭遇することも見つけるのも難しい、非常に珍しい病だった。
しかし、ルカの生まれた頃は多くの者が低魔力症にかかった。主に女性が多く、各村に最低でも一人は低魔力症の患者がいる程だった。勿論、亡くなったルカの母親や、人間界に移り住み夢を食べていたバクもその中の一人である。
この病の特徴は、生きていくのに最低限必要な下級魔法が使えるレベルにまで魔力の量が低下することである。そうでなくても全盛期の半分だったり、反対にほとんど失ってしまったり。失う魔力の程度はその人によって違っていた。そうした急激に力を失った魔女・魔法使いの多くは人間界に移り住んだ。魔法が使えないなら人間として生きようと思った者達だ。
ルカの母親・ベルも人間界に移り住んだ。人間として暮らしていたが、ルカ自身の魔力の高さや才能が招いてしまった災いにより、身代わりとなって命を落とすことになった。
ルカは、自分が魔力が低く魔法さえ使えない普通の人間だったら、と何度も考えた。しかし、母が身代わりとなり母に生かされ、自身の持つ潜在能力の高さや才能には何か意味がある、そう自分を信じて母のような悲しい思いをする人を一人でも減らすために、ルカは賢者になった。
人を助けるその信念と、救いの手を差しのべるその姿を見て、人々はルカを『救済の魔女』とも、『光の賢者』とも呼んだ。
自宅の資料部屋で低魔力症患者の魔女・魔法使い達の症例データをまとめ、休憩をしようとダイニングキッチンに出た。
目の前に子供が一人。
最年少賢者のルカ・クラウディアは目の前の子供に首をかしげた。この子供は一体どこの子供だろう。それにいつ入ってきたのだろう。そして、一体誰なのだろう。
「えっと……君は誰かな?」
疑問を目の前の子供に問いかける。
セミロングの金髪にエメラルドブルーの瞳が少しだけ動く。少し自分にもグレンにも似ているその顔だからだろうか。妙な胸騒ぎを覚える。
「こんにちは。現時点で初めまして、ルカ・クラウディアさん。僕のことは、ノアと呼んでください」
「うん。ノアね」
独特な自己紹介の仕方だ。
僕という一人称と声から、この子供は男の子なのだろう。しかし、呼んでくださいということは、これは本名ではないかもしれない。あだ名なのだろうか。何かを隠している。
何を隠しているのか、何を考えているのか、それに警戒しつつ、質問をする。
「それで、君はどうして私の家に?」
そう訊けば、彼は少々泣き出しそうな顔をした。
「僕は自分の家族を助けたいのです。賢者様、どうかお力を貸していただけませんか」
少年は言う。
賢者はその言葉に考える必要などない。人を助けることが、自分のやるべきことだと信じて賢者になった。助けられなかった母や、母と同じ病に苦しむ人を助けるために。
「わかった。貸すよ」
彼に送る言葉はその言葉だけだ。それだけでいい。
11月11日まで「未来へ繋ぐモノ編」として毎日更新していきます。この章でルカがどう成長するのか、お楽しみに!




