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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第4035話 雷の試練編 ――保管庫――

 瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。

 そうしてたどり着いた遠未来の宇宙港の一角にある低温エリアに足を踏み入れたカイト達だったが、そんな彼らを待ち受けていたのはエリア全体に広がる氷塊であった。

 というわけでひとまず凍結した低温エリアの調査を進める一同であったが、イヴよりこの異常が予備の動力炉の非常停止に引きずられる形で引き起こされた可能性が示唆。

 凍結したエリアの回復を目指して、予備の動力炉の再起動するべく行動を開始するわけだが、その最中案の定エリア一帯の凍結が動力炉の非常停止によるものだと判明。排管の中を動く生物兵器の襲撃を受けながらも、なんとか動力炉の再稼働。更に防衛兵力として用意されたドロイド達に動力炉の防衛を任せると、自分達は改めて低温エリアの調査に乗り出していた。


「温度は……僅かに上昇。ただまぁ、しばらくは宇宙服は必須か」

『すぐには解凍出来ないか』

「仕方がない。そもそも正常な温度に戻す、ってだけだ。正常な温度に戻ったとて一桁。適正値になったとて、すぐに溶けるわけでもないだろう」


 地下の動力室を抜けて再び低温エリアに戻った一同であったが、やはりエリアの凍結が溶けているわけではなかった。そもそも本来この一帯は防護服が必要な低温状態だ。通路も氷点下とまではいかずとも低温状態になっており、溶ける速度も緩やかだった。というわけで完全に扉全体が凍り付いた所は無理だったのだが、改善がなかったわけではないらしかった。


『それはそうでありますが、正常下に伴って扉の氷結が解除されたみたいであります。扉の部分には凍結を防止する装置が組み込まれておりましたが、動力炉の非常停止により動作不良を起こしてたみたいであります。それが正常に稼働した事で、内部に入り込んだ氷が溶けたみたいであります』

「なるほど……ということはスイッチは反応したが開かなかった扉が開くようになったわけか」

『そうであります……開いたのは第3、第5実験室、実験体保管庫の三つであります。後は現在解凍が進んでいるのが第7実験室と、物品保管庫であります』

『嫌な名前が……』


 絶対に開いて欲しくない扉の名前を聞いて、浬はがっくりと肩を落とす。そしてこれにカイトも頷いた。


「確かに嫌な名前だが、やらにゃならん……先輩。オレが先に立つ」

『行くのか?』

「行くしかないだろ。何があるかはわからんが……実験室になにかがあるとも思えん。行くとすると保管庫しかない」


 少ししかめっ面の瞬の問いかけに、カイトは更に盛大に顰めながら答える。というわけで一同が向かうのは、瞬の探索した側の通路の端にあった扉だ。こちらには通路の先に部屋があったようだ。そしてこれが、実験体保管庫であった。というわけで実験体保管庫にたどり着いた一同であったが、そこですぐに隊列を整えてカイトが先頭に立つ。


「さて……イヴ。一応、最後の確認だが」

『冷凍保存状態は正常に維持されているであります。エラー等も出てないので、心配はないであります』

「信じるぞ」

『大丈夫であります』

「ふぅ……」


 温度管理システムの異常が解消されただけで、保管庫やらの低温状態が解除されたわけではないらしい。というわけで一応安全という彼女の言葉に、カイトはいつものようにユリィに頷きかける。


『じゃ、開きまーす』

「っ」


 ぷしゅっ。空気が抜けるような小さな音と共に扉が開く。そうして扉の中が見えるようになったわけだが、そこでカイトは困惑を露わにする事になる。


「……あんだ、こりゃ……」

『どうし……大型? まさか大型まで運び込まれてたでありますか?』


 カイトの絶句にイヴが扉の中を覗き込んで、彼女もまた目を丸くする。とはいえ、安全は安全だったらしい。肩の力を抜いたカイトが、周囲を確認する。


「大型……か。それにこれはまた……」


 見渡す限り完全に凍結してしまっている。おそらく全天周型のドーム並の広さの空間にあったのは、何十にも渡って積まれた何百もの試験体だ。

 だがそれらは生じた温度異常により保管装置ごと完全に凍結してしまっており、酷いものでは中の溶液ごと凍り付いている様子だった。と、そんな様子で呆気にとられる彼に、瞬が問いかける。


『カイト、中は安全そうか?』

「あー……まぁ、こりゃ安全だ。多分、全滅か壊滅が一番相応しい言い方だろうな」

『なに? これは……』


 カイトの返答に扉の中を覗き込んで、瞬もまた中の状態に目を丸くする。というわけで安全が確認出来た事で中に一同が中に入ってくるわけだが、だからといって何かが起きるわけでもなかった。そうして全員で僅かに呆気にとられていると、イヴが唐突に声を発した。


『……なるほど。どうにも動力炉の温度異常で、この部屋の設定が全域に波及してしまったみたいであります』

「そうなのか?」

『はいであります……この部屋は通常、貴殿らの温度基準に合わせるとマイナス40度に設定されているであります』

『なんでそんな中途半端』


 マイナス50度でも0度でもなくマイナス40度。浬はこの部屋の設定温度に僅かな疑問があったらしい。とはいえ、これに煌士はなにか思い当たる節があったらしい。


『水銀の融点……ですか?』

『そうであります。本官ら機械生命体の血液とも言える魔水銀の融点が、大体マイナス40度の少し上であります。なので無策にこの部屋に突入しようものなら、なにか作業をしている間に凍り付いて停止してしまうであります』

『イヴちゃんは大丈夫なの?』

『本官はバイオロイドに近いであります。まぁ、最初のあの機械式の肉体が近いでありますが、軍用として宇宙空間での戦闘を念頭にシールドされているので問題ないでありますが』


 浬の問いかけに、イヴは相変わらず柔らかい様子の二の腕をぐにぐにと触ってみせる。


「それは良い……とりあえずなにかないか調べるぞ。ソレイユ、いつも通り入口で全員の確認を。先輩、そっちの面子は引き続きそっちで纏め、入口から見て左側の調査を。浬、イヴ、お前らはオレと。ユリィ、いつも通りソレイユのフォローを」

『『はーい』』

『了解した』


 カイトの指示にソレイユとユリィが一つ頷いた。そうして瞬が率いる班が左側へ散っていくわけだが、カイトは浬、イヴの両名を合流させると右側を確認する。が、そこで早々浬が不満を口にする。


『こっち行きたくないんだけど』

「奇遇だな、オレもだ」

『嘘こけ……』


 楽しげに笑う兄の言葉に、浬は盛大にため息を吐く。とはいえ、そんな彼女にカイトは告げた。


「まぁ、しゃーないだろ。あのデカブツは動かないだろうが、色々とを考えるとイヴを連れいてくしかない。となるとこっちだ。それに、何があってもオレ一人で事足りるし」

『私は』

「流れだな……班の事もあるし」

『うぐぅ……』


 やだなぁ。浬は兄の言葉に道理を理解しつつ、そして自身も瞬らの班に送り込まれても困ることもあり、これしかないと思ったようだ。困ることと言ってもどう話せば良いかわからない、という所なので問題ないかもしれないが。


「で、イヴ。こいつは本当に死んでるか?」

『完全に凍ってるであります……生命反応はなし。血液まで完全に凍り付いてるでありますな』


 カイトの問いかけに、イヴは眼の前に拘束具ごと完全に凍結した数十メートル級の巨人を見て頷いた。というわけで完全に死んでいるという彼女の言葉に、カイトも改めて巨人を見ながら問いかける。


「こいつは何だ? 普通の生物兵器と明らかに異なるが」

『そうでありますなぁ……端的に言えば強化兵士。もしくは改造兵と呼ぶ兵も居たであります』

「兵か」

『兵、であります』

『いや、あの……二人だけで納得し合わないで欲しいんだけど』


 妙に兵という言葉を強調するカイトとイヴの二人に、浬がしかめっ面で問いかける。何がなんだかさっぱりだった。


「ああ、気にしなくて良い……素体は鬼族か?」

『この巨体と牙から、そうだと思うであります』


 正しく大鬼。そう言うのが相応しい様子の牙が生える口元を見ながら、イヴはこの巨人が鬼族をベースにしていると判断していたようだ。とはいえ、素体というように、決して鬼族とは言い得ない様子だった。


「そうか……だがこの爪は獣人……それも狼系だな。となると……」

『カイト殿。こちらの端末で調査結果がわかるであります』

「分かった」

『あ、ちょっと!』


 結局兵だ何だは何だったのだろうか。浬は自身の問いかけを半ば無視した様子の二人に声を荒げる。とはいえ、そんな彼女を無視してカイトはイヴの指し示した巨人の手前にある端末――もちろん普通の人が使うサイズ――の前へと移動する。


「これか……あぁあぁ、あぁあぁ……うわぁ……」

『凄まじいでありますな、相変わらず』


 見るもおぞましい。カイトは研究者達が調査した結果を見て盛大に顔を顰め、イヴは慣れてはいたのだろう。特に顔を顰める事はなかったが、呆れた様子はあった。


「鬼、獣人……コアが龍? いや、竜種か!? おいおい……ここまでやるのかよ。機械文明憎しは良いが、これもう倫理観消し飛んでるだろ」

『貴殿らや本官らの倫理観と、奴らの倫理観は違うであります』

「聞いちゃいたが……はぁ……気分悪いなぁ、おい」


 おそらくこの改造兵は元々鬼族の男性兵士だったのだろうが、そこに獣人の因子や魔物のコアを移植したり、と様々な改造を施していた様子だった。正しく強化より改造。兵士達の中に改造兵と呼ぶ者がいる、というのも正しい様相であった。

 それは謂わばルーナ達の受けた人体実験を更に高度に発展させた終着点とでも言うべきもので、彼女らと懇意にしているカイトからすれば盛大に心象を害するものだった。というわけで盛大に機嫌を損ねた彼に、浬が追い付いてきた。


『ちょっとお兄ちゃん! いい加減説明して!』

「あぁ?」

『うっ』

「はぁ……悪い。あんま知らんで良い。マジでな」

『わ、わかった』


 ヘルメット越しでもわかるぐらい機嫌が悪くなった。浬は兄のぞんざいな様子でそれを察したらしい。


「流石に改造兵は模した奴しかいないと思いたいが……」


 もしマジモンを連れてこようものならオレが激怒するぐらいは分かっているだろう。カイトはしかめっ面でそう思う。


「まぁ、良い。とりあえずイヴ、生きてる奴は?」

『一応バイタルサインがフラットになってない、という程度ならあそこの生物兵器共が該当するでありますが……』

「容器凍ってんじゃねぇかよ」

『中は無事みたいであります……あの状態のままの方が良いと思うであります』

「だな」


 よしんば凍結を解除した所で攻撃されるだけだし、カイトとていくら兵器とはいえ生物がどうにも出来ずただ死ぬ様を見るような趣味はない。というわけでカイトらはその後もしばらく、ドームにも匹敵する広さの保管庫を調べるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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