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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第4033話 雷の試練編 ――再起動――

 瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。

 そうしてたどり着いた遠未来の宇宙港の一角にある低温エリアに足を踏み入れたカイト達だったが、そんな彼らを待ち受けていたのはエリア全体に広がる氷塊であった。というわけでひとまず凍結した低温エリアの調査を進める一同であったが、イヴよりこの異常が予備の動力炉の非常停止に引きずられる形で引き起こされた可能性が示唆。凍結したエリアの回復を目指して、予備の動力炉の再稼働を行う事にしていた。

 というわけで動力炉の修理を終えた所で一旦小休止を挟んで、一同は動力室と制御室の二手に別れて動力炉の再稼働を開始する。


『システムの独立完了……充填開始……充填完了。制御端末の立ち上げ開始』


 イヴのアナウンスを聞きながら、カイトは目を閉じて耳を澄ます。再稼働にあたり、動力炉は一旦他の動力炉から独立させる必要があったらしい。

 というわけでイヴは自身のサポートドロイド2機にチャージしたエネルギーを動力炉のコンソールへと供給。制御端末を再起動させる。


『……制御端末、正常に起動。制御室の端末とのリンクを開始』

『制御室端末、反応炉の信号を受信確認。システムリンク開始を確認』


 こういった時、やはり瞬の班で制御端末の操作を担うのは桜の弟にして、あの灯里にさえ自分を上回る天才と言わしめた煌士であった。

 というわけでイヴの指示を受けた彼が制御室の端末に表示される内容を彼が読み上げる。そうして動力炉と制御室の間でシステムのリンクが再構築されるのを確認しながら、イヴは再起動のプロセスを次へと進めた。


『リンク構築を確認……リンク構築を維持しつつ、反応炉の再稼働プロセスを開始。燃料棒充填確認。使用する燃料の材質確認……問題なし。スターティングプロセス開始準備。引き続き安定化プロセスのチェックを開始』

『なんかイヴちゃんが超有能に見える』


 正しくアンドロイドやヒューマノイドとでも言うべき感情を感じさせない、人の声ではなくシステムの発するアナウンスと言うべきイヴの声を聞きながら、浬が僅かに目を丸くしていた。これにカイトは笑う。


「本来、あいつのスペックは非常に高いものだった事に間違いはない。それこそ部隊で有数のな」

『そうなの?』

「そうでなきゃ、何百何千と居るだろう隊員の中で最高スペックの躯体を与えられるなんてことはない。ボディのスペックは当然ながらそれを扱うあいつ自身のスペックは非常に高いものだ。機械に徹すれば、超有能になるのも間違いない」


 なんだかんだ扱いは雑だが、やはりカイトのイヴの評価は非常に高いものだったようだ。浬の問いかけに対して、カイトは笑いながらはっきりとイヴの実力を認める言葉を口にする。とはいえ、そこで100点満点にならないこともまた事実であったようだ。


「ま、当人の性格がああじゃなきゃなぁ……ってところだな」

『どういうことでありますか!』

「そういう所だ。耳がピクピクしてんの見えてんだよ」

『うぐっ!』

『あははは……』


 本当に機械生命体なのだろうか。浬はカイトの指摘に顔を真っ赤に染めるイヴにそう思う。どうやらイヴはカイトに褒められて嬉しかったらしい。耳がピクピクと動いていたようだ。というわけでしばらく呑気な様子を浮かべていたカイトらであるが、それも制御室の煌士が声を掛けた事で終わりだった。


『イヴさん。動力炉の制御システムのリンク構築を確認しました。それに合わせてエリア全域の温度調整システムが再起動を開始。やはり推測通りかと』

『むぅ……やっぱりこいつの停止が原因だったでありますか。カイト殿』

「あいあい……案の定ね」


 どうやらこのエリア一帯が過剰に冷却されてしまっているのは、動力炉の非常停止に伴って周辺のシステムがエラーを引き起こしてしまったからで間違いなかったらしい。

 そしてメインとなる動力炉の再起動を行うことにより、今まで他の動力炉からのエネルギーで駆動していたシステムも全て再起動が行われる事になったようだ。


「煌士、温度調整の再起動は了解した。温度は?」

『……やはり推測通りです。安全域を下回っていると判断された事により、全域で急速に温度上昇を行おうとしています。幸い実験体の温度調整機能は別枠として、再稼働は行われていない様子ですが……』

「ま、それだけだろうな……どこかで休眠状態になってた連中は動き出したようだ」

『はい?』

『え? どういうこと?』


 煌士と浬の困惑した声が通信機に響く。とはいえ、これは仕方がないだろう。カイトはすでに何十何百と実戦を経ている。その感覚は喩え聴覚と視覚の二つを阻害されていても敵の居場所を掴むには十分過ぎるほどだ。だがそれはあくまで彼が何十何百の戦場を超えたが故の感覚。浬らに求めるものではなかった。


「薄い氷が砕ける音がそこかしこで響いてる……ソレイユ」

『んー……多分あの排管じゃないかな。あそこから響いてるっぽい』

「だろうな……出てきた連中を速射で潰してくれ。こっちで抜けた奴は潰す」


 当たり前だが、周囲の僅かな音が聞こえているのはカイトだけではない。ソレイユやユリィも当然のように聞こえていた。そしてそれは彼女らだけではない。


『瞬、おそらく正面の通路からも来る』

『了解。通路正面に現れた敵の食い止めはこっちで』

『任せます。詩乃、貴方は主人の防衛に努めなさい』

『かしこまりました』


 イミナの武器は拳。その速度は瞬を上回るが、同時に射程距離は瞬を遥かに下回る。故に通路全体をカバー出来る瞬が前面に立ち、彼を抜けた生物兵器をイミナが対処する形を選んだようだ。そして両方で対応が固まったとほぼ同時に、ソレイユの矢が疾走する。


『っ』


 目の端になにかが映った。それが何かを浬が認識するより前にソレイユの矢が、それを打ち落とす。そうして落ちたなにかを、カイトが持ち上げた。


「排管やらメンテナンス用の通路に入り込んで重要なエリアに潜り込む小型タイプか」

『タコ? イカ? グニャグニャだけど』

「どっちでもなさそうだな……骨はある。関節が異常に多そうだな。急激に冷えた事で冬眠状態に入ったか?」


 本来はこうやって排管の中に潜り込んで、排管を伝って敵の重要な場所を攻め落とす事をメインとしていたのだろう。排管の中を自由に動き回れるほどに小型で、そして同時にまるで軟体動物かのように柔軟な人型の生物であった。


「まぁ、どっちでも良いか……まだまだ居るだろうしな」


 排管の中を動き回る音は一つや二つではない。何十もの音が響いていた。というわけで持ち上げていた生物兵器の死骸をカイトは放り投げて、魔銃の引き金を引いて消し飛ばす。と、それと同時だ。再び小型の生物兵器が落下してくる。


「ちょっ、おまっ! きちんと消せよ!」

『頑張れー!』

「お前なぁ!」


 楽しげに生物兵器の死骸を落としてくるソレイユに、カイトは魔銃を構えて死骸を消し飛ばしていく。まぁ、そもそもの話としてソレイユである。排管が100個あった所で全て対処してくるだろう。そして当然、排管が100個も200個もあるわけがない。排管全てから同時に出てこようと問題はなかった。


「ったく……イヴ、本稼働までの残り時間は」

『残り三分であります! 頑張って堪えて欲しいでありま……いや、特に頑張る必要もなさそうでありますけども!』


 瞬らの奮戦はあるかもしれないが、カイト達に奮戦はなさそうだ。イヴは制御端末を操作しながら一瞬だけ周囲を確認して、ソレイユがまるでもぐらたたきゲームのように敵を迎撃している様子を見て、一瞬呆けそうになっていた。


「あいあい……ん」

『あ、にぃー。流石に貯蔵庫側は無理』

「あいよ」


 どうやら排管は燃料貯蔵庫にもあったらしい。がんっ、というなにか金属の重量物が落ちる音が響いたのを受けて、カイトが一瞬で貯蔵庫の前まで移動。扉を開く事もなくその場で刀を振り抜いた。


「ふっ」


 確かに刀は扉を斬り裂いたかのように見えたが、その実扉は一切切り裂かれていない。だがそれにも関わらずカイトは扉の前から離れていた。これに浬が困惑を露わにする。


『え? なにしたの?』

「ああ、中の生物兵器だけ斬った」

『うそぉ!?』


 おそらくこの兄がこんな事を言う時は本当に斬っているときだ。浬はこれまでの十数年の付き合いでそれを察したようだ。そしてそんな彼女に、カイトは楽しげに再び腰だめに刀を構える。


「ホント……だからこんなことも出来ちまう」

『……あ、危ないであります!? な、なにやってるでありますか!?』

「あっはははは。勇者の妙技ってやつだ」


 動力炉の陰に現れた生物兵器を動力炉の真逆から斬り捨てるという芸当をしたカイトが、イヴの抗議の声に楽しげに笑う。まぁ、実際動力炉が陰になっていてソレイユも出てくる前に倒すという事が出来なかったようだ。とはいえ、ならばわざわざ動く必要があったかというと、そういう事もなかった。


「とはいえ、こんなもん誇るほどのものでもないしな……ソレイユ」

『はーい』

『え?』


 動力炉を正面に見ながら放ったソレイユの矢が、彼女の背後にあった排管から現れた生物兵器を貫いて浬が目を点にする。


『別にさー。正面しか狙えないなんてないよ。空間の位置をズラせば良いだけだし、それこそ移動方向を変更すれば直角に射つ事も簡単簡単』

『……そう』


 何度目かはわからないが、やはり兄達は異世界においてトップクラスに位置する戦士達らしい。浬はどうやっているかもわからない絶技の数々をまるでさも遊んでいるかのように披露する二人に、思わず鼻白む。というわけでまるで遊ぶように敵の襲撃を殲滅していく二人を見ながら唖然となる彼女に、ユリィが告げた。


『こんな程度で苦戦してたらランクSの冒険者なんてやってらんないもんねー。せめてこの10倍は持ってこないと』

「そーだわな。こいつらは軍の施設への潜入と破壊工作には使えるが、所詮はその程度でしかない。圧倒的な個への対応力がないんだ。だから警備システムなんかより遥かに優れたオレ達には通用しない」

『普通は無理だから。普通は警備システムに頼るから』

「文明が発達した事による弊害だな。実力の平均化が進んで、圧倒的な個が生じづらくなっている」


 浬の指摘に、カイトは全く嘆かわしいという様子で首を振る。実際これはエネフィアでも地球でも起きていた事で、エネフィアに帰還した当時のアルフォンスやリィルは飛空術を使えないという、三百年前当時のヴァイスリッター家の騎士やバーンタイン家の戦士にはあり得ない状態だった。

 だがそれは飛翔機の小型化により飛空術を習得する必要性がなかった事が原因だったと言える。これは技術の発展による実力の平均化が進んだ証明であると言えるだろう。


「……まぁ、それは良いか。とりあえずこんな潜入工作をメインにした雑兵をいくら繰り出した所で無駄だ。オレどころかソレイユにも届いてない」

『まぁ、まだ数があるだけマシかもねー。でもミニの矢でやってるから取り回しは良くするだけで対応出来るから、結局その程度ではあるかも?』

「まぁ、その程度で良いだろ」


 ソレイユの言葉に、カイトもどこか真剣味のない様子で刀を振るって小型の人型生物兵器を斬り捨てる。というわけで、特に苦戦する事もなく3分は経過。動力炉の再起動に成功すると共に、温度調整の再起動が自動で行われた事により低温エリアでの戦闘もまた開始となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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