第4032話 雷の試練編 ――復旧作業――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。
そうしてたどり着いた遠未来の宇宙港の一角にある低温エリアに足を踏み入れたカイト達だったが、そんな彼らを待ち受けていたのはエリア全体に広がる氷塊であった。というわけでひとまず凍結した低温エリアの調査を進める一同であったが、イヴよりこの異常が予備の動力炉の非常停止に引きずられる形で引き起こされた可能性が示唆。凍結したエリアの回復を目指して、予備の動力炉の再稼働を行う事にしていた。
「よいしょっと……イヴ、シールド展開装置の安定を確認してくれ」
『了解であります。シールド展開装置、サポートドロイドによる安定確認開始』
カイトの要請を受けて、イヴは接続したサポートドロイド2機を介してシールド展開装置にエネルギーを流し込む。そうして流し込まれるエネルギーが高まっていくと、ある所を超えた所で動力炉の周辺にバリアのように半透明なシールドが展開される。
「……シールド展開目視確認よし。念のため投擲による負荷の確認を実施する」
『了解……出力安定。どうぞ』
「ふっ」
どこか機械的でシステムチックなイヴの返答を受けて、カイトは使い捨てナイフを軽く投げる。もちろんそれは破壊するにも至らない、魔力もほとんど乗っていない単なる投擲とほぼ変わらないものだ。
万が一シールドが正常に機能していないでも問題ない程度だが、なにかの反動で小石程度が飛んできても大丈夫か確認するためのものだった。というわけで一直線に飛翔したナイフだが、シールドに激突。金属音が鳴り響いて、地面に落下する。
「よし……シールド問題なし。不意の飛翔体は問題ないと判断する」
『了解。試験終了……シールド出力低下。消失……ドロイドの接続を解除。ふぅ……終わったであります』
予備の動力炉が非常停止する際、動力炉を保護するシールド発生装置が瞬間的な過負荷で破損していたらしい。幸い重要な基部は無事だったので修理は出来たようだ。というわけで動力炉を常に保護するシールドに問題ない事が確認出来たところで、カイトがイヴに問いかけた。
「……これで過負荷で弾け飛んだシールドも復旧だ。後はなんだ?」
『確認するであります。チェックリスト表示……全員に復旧状況の共有を行うであります』
「ふむ……」
カイトは自身の要請を受ける形で全員のヘッドマウントディスプレイに表示された再稼働に必要なチェックリストを確認する。やはり動力炉なので確認項目はかなり多く、それこそ試験の試験まで存在していた。とはいえ、そんなチェックリストも大半が完了済みだった。
「シールド展開までは確認済みか。スターターも問題ないな……後は燃料の安定投入の確認か」
『それが終われば、後はスターターを用いた再稼働作業でありますな』
『終わりそー?』
「もうちょっとお待ちください」
基本的にこんな復旧作業をやるのはカイトだけだ。というより、魔導炉ならまだしもこの動力炉は相転移炉というどちらかと言えば科学技術側の動力炉だ。いくら優れた冒険者であろうと手が出せない。
出せているカイトがおかしいのである。というわけで手持ち無沙汰な様子のソレイユの問いかけに、カイトは少しだけ冗談めかした様子で答えたが、これに浬が少しだけ呆れるように呟いた。
『てかお兄ちゃん。本気で何でも出来るんだ。反応炉? の修理まで出来るなんて思わなかったわ……』
『カイト、小器用極まってるからねー。まぁ、イヴの修理にせよこれにせよ、本当になんで出来るの、って話だけど』
「単にイヴの指示に従ってるだけだ。オレも実質何もしてない」
まぁ、だからお前らが手伝わないでも何ら問題ないんだけどさ。カイトは三人の言葉を聞きながら、そんな事を思う。実際彼も反応炉の修理を自分でやれ、と言われれば無理だと言うしかない。
永劫にも等しい彼の経歴のおかげで設計図などがあれば、それこそ作る事は出来るが、だからこそその危険性も身に沁みて理解しており、情報がなければ手は出せなかった。と、そんな彼の言葉にイヴもぶっちゃけた話をした。
『ぶっちゃけた話であれば、本官も何もしてないに等しいであります。本官も単にサポートドロイドの診断に従って、ドロイドを操作しているだけであります……まぁ、それでも修理に両方のドロイドを割り振れるので、カイト殿の手伝いは助かるでありますが……ドロイドが2機しかいない以上、本官とカイト殿だけで十分。皆さんは引き続き好きにして貰って大丈夫であります』
「ま、そんなわけでぶっちゃけオレが何かしてるってわけでもないからな」
単にオレもイヴもサポートドロイドに従っているだけ。カイトは自身の横で待機するイヴのサポートドロイドを見ながらそう口にする。基本的にサポートドロイドはイヴとリンクしているので、彼女の意思に従って動くわけだが、別に彼女でなければ使えないわけではない。
やろうとすれば宇宙服にリンクさせ、そちらから操作も出来たようだ。だがイヴの言う通りサポートドロイドは2機しかいないわけで、これ以上誰かが居た所でやることはなかった。
「それはともかくとして。これで再稼働……いや、再起動か。再起動に必要な修理は終わったが。燃料棒は最初に入れたスターターで良いのか?」
『良いであります。スターターで燃料の消費が安定するかチェック。それで問題なければようやく実際の稼働に入れる、というわけであります』
「いっそ再起動と燃料の消費のチェックを一緒にやっちまえよと思うが……」
『別に燃料を突っ込んで、エネルギーを発生させるわけではないであります。単に燃料棒が正常に投入出来るかをチェックするだけであります』
「なるほど。流石に再稼働はさせないか」
燃料の投入が安定しなかった場合、再稼働させた途端に動力炉が暴走という最悪の事態を招きかねない。そしてこれは現代の原子力発電なぞ比較にならないほどに高出力な動力炉だ。
安定性や安全性も比較にならないぐらい高いが、同時に万が一暴走した際の危険性も比較にならない。燃料の投入量が安定するかどうか、のチェックが必要になるのは必然だっただろう。
『そういうことであります。この動力炉は存在を対消滅させる事でエネルギーを発生させるわけでありますが、だからこそ僅かな投入で膨大なエネルギーが生じるであります。燃料棒の投入量に異常が生じれば、即座に本官らも消し炭であります』
「投入した質量をエネルギーに変換する反応炉……反物質なんて地球じゃ一個うん十億だってのに」
何百年先の未来には、地球の文明もこんな反応炉を作れているのだろうか。カイトは対消滅によりエネルギーを発生させる反応炉を見ながら、そんな益体もない事を思う。
『一個とは変な言い方でありますな』
「原子一個って意味だ」
『おぉう……そりゃまた、であります』
現代の地球において、反物質は一番希少な物質とさえ言われている。それこそ製造出来るか否かは別にして、という前提でさえグラム単位で天文学的な金額になった。それを用いた反応炉を量産、運用出来ている時点で、イヴ達の文明との技術的な差は明白だった。
「ま、そりゃ良い。とりあえず燃料の投入量のチェックを頼む」
『了解であります……ああ、燃料棒の投入を行うでありますが、基本的に一本使い切る事になるであります。今のうちにもう一本持ってきてもらえるでありますか? チェックはこっちでやっとくであります』
「あいよ」
イヴの指示に従って、カイトは再度燃料貯蔵庫へと向かう。目的は言うまでもなく燃料棒の再入手だ。というわけで再び小型コンテナに向かったカイトだが、ふと思い立って問いかける。
「そういえばだが、通常の燃料棒もそろそろそっちに持って行くか?」
『あー……それは確かに本官も考えたであります。ありますが、やめたであります』
「そうなのか。何故だ?」
『時間であります』
カイトの問いかけに、イヴは現在時刻の情報を共有する。そうして表示された時計を見て、カイトは目を丸くした。
「……もうこんな時間か」
『そういうことであります……多分燃料棒の投入量チェックで一旦作業は終了した方が良いであります』
表示された時計の時刻はすでに昼の予定時刻に近付きつつあり、再稼働を行えば確実に昼を超過する見込みだった。というよりもしここから拠点まで戻る場合、確実に昼の予定時刻は超過する見込みになってしまっていた。
「思った以上に時間掛かっちまったな……先輩。そっちの修理状況はどうだ?」
『こちらはなんとか端末の再稼働は成功した。再起動も完了だ……また言われた温度管理システムもここから制御出来そうだ』
「そうか……こっちが終わり次第、一旦昼を挟もう。これ以上作業したら無休憩で戦闘に突っ込む事になりかねん」
『……もうこんな時間か』
カイトの指摘で瞬も現在時刻を把握したらしい。僅かに驚いた様子があった。とはいえ、だからこそこれ以上の作業は危険だという事も理解したようだ。
『わかった。こちらは一旦撤退準備を行っておく。そっちももう終わりそうなんだな?』
「ああ。こちらも今やってる行程が最後。後は再稼働に入れる。昼からが本番だな」
『了解した。ああ、そうだ。カイト、そう言えばそれならなんだが、後で一つ相談良いか?』
「なんだ?」
『いや、昼からの戦闘に備えての話だ。そっちの作業が終わってからで良い』
カイトの問いかけに対して、瞬は後回しで良い事を明言する。というわけでカイトはひとまず燃料棒を入手すると、それを動力室へと持って行く。
「イヴ、燃料棒持ってきたぞ」
『ありがとうであります……スターターの燃料棒をセットした所に入れて貰えるでありますか?』
「あいよ……あ、保護具も全部回収されるのか」
『で、あります。使った保護具は横から排出されてるであります……燃料棒の投入量も安定を確認。チェック項目オールクリア。反応炉の再稼働に向け再診断を開始』
カイトの返答にどこか上の空に近い様子で応じながら、イヴは続けざまに全項目の再診断を開始。この再診断が、動力炉再稼働における最後のチェック項目だった。そうして数分。全項目の再診断が終了する。
『……再診断完了。全項目オールクリア再確認。初期診断及び再診断の結果を提出。反応炉の再稼働を申請……承認』
どこかシステムチックなイヴの声が響いた後、システム側からの再稼働承認が降りた事を彼女が口にする。そうして彼女は接続していたサポートドロイドを取り外した。
『作業、完了であります。これで後はスターターと燃料棒を投入して、再稼働であります』
「よし……全員、一旦撤収だ。昼からは実際の再稼働に入るが、戦闘が想定される。準備はしっかり頼んだ……で、先輩。話ってのは?」
『ああ、すまん。帰りながら話そう』
カイトの問いかけに、瞬がそう答える。というわけでカイトは瞬からの相談を聞いて、それを承認。戻ってユーディトの手料理を食べて、小休止を挟んで昼からの戦闘に備える事になるのだった。
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