第4030話 雷の試練編 ――低温エリア――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。
そうしてたどり着いた遠未来の宇宙港の一角にある低温エリアに足を踏み入れたカイト達だったが、そんな彼らを待ち受けていたのはエリア全体に広がる氷塊であった。
というわけでまずは凍り付いたエリア全体をなんとかしないとどうにもならない、と判断した一同は一度班を再び分離して、とりあえず行けるエリアへと足を運ぶ事にして、カイトと瞬達はそれぞれ二手に別れて十字路の正反対の通路にある部屋を調べていた。
「これは……検体のデータというところか」
『そういう所でありますな……まぁ、貴官らにはほぼ無意味なデータと思うであります』
「確かになぁ……」
表示されるデータの数々は、生物兵器達にどういった改造を施したか、というデータが大半だ。それは素体となった生物はなにかを現す遺伝子データ。投与された薬剤はなにか、という生物学的、化学的なデータが大半だった。
それらはカイトが為政者として、軍の指揮官として動くのならば必須と言える情報であったが、今の一介の戦士であれば必要にならなかった。戦士にとって必要なのは倒せるか否か、弱点はどこか、でしかないからだ。そういった戦闘に役立つデータは一切なかった。
「にしても……いや、言うまいよ」
『別に言ってくれて良いであります。酷いことをする、と……』
「別に言われた所で気にせんか?」
『当たり前であります。どうせこんなこと、どこの世界でもどこの国でもやってると思うでありますからな』
「お前、そういう所は機械生命体らしい冷淡だな。ま、否定はせんがな」
機械生命体だからなのか、それとも軍の兵士として生まれたからそういう性格なのか。カイトは少しだけ苦笑いを浮かべながら、イヴの言葉に言外に同意する。そうしてそんな彼は、眼の前の検体を改めて見る。
「頭を生きたまま切り開いたか……敵兵にこんな事やってるのがバレたらヤバいとは思うが……」
『兵士であれば、であります……これは兵器。生物兵器であります。人道に悖るというのであれば、それは本官らではなく共和国連合の連中だと思うであります』
「兵器であることを願いたいね」
幾つかの部屋を経て入った部屋は、謂わば解剖室という所だった。そこでは捕獲された生物兵器の一体が手術台に似た台座に乗せられ、幾つものアームによりちょうど頭蓋の部分を切り開かれていた。何かの調査をしている最中だったのだろうが、その最中の襲撃で作業を一時中断した状態だった。
「やれやれ……開いた状態で放置するかね、普通」
『それについては本官も同意であります……あんまり気分良くないであります』
「結局かい」
機械生命体らしい冷淡さを露わにした直後に唐突に顔を顰めるイヴに、カイトは思わず苦笑を浮かべる。そんな彼に、イヴがしかめっ面で答えた。
『それはそれ、これはこれであります。解剖されている最中の生体は生理的嫌悪感は抱くであります』
「機械生命体が生理的嫌悪感ね……」
何がなんだかさっぱりだわ。カイトはイヴの言葉に肩を竦める。そうして半ば呆れ気味に、カイトが問いかけた。
「一応聞いておくが、こいつは生きてるのか?」
『いや、流石にこれは死んでるであります。バイタルサインもフラット。完全に死んでるであります……生命維持装置も……停止。活性化装置も停止しているでありますので、蘇る可能性は限りなく低いであります』
「改造された結果、再生力が極限まで高くなってる可能性は想定してないのか?」
『もちろん想定してるであります……実際、こちらの研究を逆手に取られ一度痛い目に遭ったでありますからな』
「そりゃ結構」
今後このエリアの復旧を目指す以上、どこかで生命維持装置が再稼働する可能性は高いのだ。そんな中、この解剖途中の生物兵器が活性化されてはカイトとしても非常に精神的に気分が悪かった。というわけで二人してしかめっ面で解剖途中で放置された生物兵器を見ていたが、そんな彼らに扉の先から浬が声を掛けた。
『お兄ちゃん、まだ終わんないの?』
「あー……まぁ、もうちょっとかな」
『暇なんだけど』
「悪い悪い……流石にここをお前に見せるわけにもいかんからなぁ……」
部屋に突入する際の基本的な隊列はカイトとイヴを先頭として、次にユリィで浬、最後にソレイユだ。なのでカイトが最初に部屋を開いて中身が解剖室だと察すると、即座にユリィに指示。浬に中を見せないようにしていたのであった。というわけで浬はこの中が解剖室だとは聞いていても、中で何が行われていたか等はわかっていなかった。
『別に良いんだけど』
「やめとけ。こういうのは飯が不味くなる」
『ふーん』
別に浬らが魔物を殺した事は一度や二度ではない。なので当然、飛び散る血肉を見た回数も一度や二度ではない。だがここまで解剖した所を見た事があるか、と言われればまた話が異なるだろう。
実際、カイトやイヴでさえあまり良い気分はしないのだ。見ない方が良いなら見ない方が良かった。というわけで解剖室には特に戦闘に役立つ情報がないと判断。解剖室を後にする。
「ふぅ……とりあえずこの部屋に面白い情報はないか……奴らに特攻の毒でもあればと思わないでもなかったわけだが」
『毒はあまり効果がない場合がほとんどでありましたなぁ……奴ら、何十もの抗体を持っていましたし、何より奴らそのものが生命力が高い。適応してくるであります』
「うわっ、最悪だな、それ……ソレイユ」
『んー、弓から毒瓶は抜いといた方が良さそーかな』
カイトの指示にソレイユは即座に弓から毒を注入出来る機能をオフにする。戦闘中、どうしても流れで作業する事があるため、うっかり毒を使いかねないのであった。
「だろうな……次だが……次はおおよそ駄目か」
通路を端から半分以上経過し、その先を見たものの、大半が氷漬けになっていて動く様子がない。一応途中で試しに魔術で氷を溶かそうともしたのだが、如何せん現状で出来るのは魔術の行使だ。
即座に警報音が鳴り響き、魔術の使用禁止にアナウンスが鳴り響いた。この時点で別の方法でないと氷漬けになった扉は開けないと判断。とりあえずは開く部屋の調査をするのみとなっていた。
と、そんな事をしていると逆側の通路の一室から、瞬達が姿を現す。まぁ、そう言っても全員が宇宙服を着ているのでほとんど誰が誰とわかるものではなかったが。
『ああ、カイト。ちょうど良かった』
「どうした?」
『いや、こっちはこれでほぼ部屋の中は見て回った……まぁ、大して収穫はなかったが』
「そっちもか。こっちも一応解剖室やら検体の一時保管を行う部屋やらは見付かったが……それ以外はとんと、だな」
瞬の言葉に、カイトは肩を竦めながらこちらでの収穫を語る。だがこれに、瞬は僅かに目を見開いた。
『そっちはそうだったのか……こっちは謂わばドロイド達に有効な戦術や戦闘方法を学習させていたようだ。といっても、生物兵器のデータをベースに人工知能で再現して、それを元に戦い方を研究し対処方法を学習させる、という所だったが』
「なるほどな……こっちで手に入れたデータをそっちでドロイド達に反映していたわけか」
『だと思う』
カイトの総括に、瞬も一つ頷いて同意する。
「そうなると、こっちよりそっちのが有用な情報はあったか……で、それはさておいて。次に向かうべき場所に関するなにか良い情報はあったか?」
『それが何も、という所だ。あの巨大ロボの修理に使えるような物も何もなかったしな』
「となると……やっぱこのエリアの動力炉を復活させて温度調整機能を再稼働するしかなさそうか」
『……それか』
カイトの呟きに、瞬が何処かしかめっ面で答える。どうやら彼の方も温度管理システムを正常に戻すとどうなるか、は分かっているようだ。
「まぁ、やるしかないだろう。イヴ」
『はいであります。道案内でありますな』
「頼む」
『了解であります』
カイトの要請に、イヴが一つ頷いた。そうして今度は彼女を先頭に、一同は十字路の内入ってきた方から見て直進となる方角へと進んでいく。
どうやらこの一角は十字路と先に更に下へ続く階段という形で構築されているようで、下に移動するのは特に難しい事はなかった。事はなかったのだが、すぐに動力室へ、というわけでもなかった。
『えらく降りるな』
『動力炉でありますからな。万が一地上での騒動で動力炉が異常を来しては困るであります。なのでなるべく地下の安定した地盤の上に設置されているであります』
何度かUターンを繰り返しながら下へ向かうことしばらく。数分歩いてもまだたどり着かない状況に瞬がイヴに問いかけると、イヴが地下深くまで降りている理由を口にする。というわけで下へ向けて歩くこと十数分。かなり地下深くまで降りた所で、一同は一つの部屋にたどり着いた。
「……これは」
『……こっちで耐久戦……か?』
「動力炉の中でも耐久戦はさせられそうだが……」
たどり着いたのは、動力室が見える小窓がある部屋だ。そこには各種の計器類が設置されており、通常はここから動力炉を操作するのだと思われた。
というわけでそんなコントロールルームとでも言うべき部屋に入った一同の顔はしかし、苦い様子だった。と、その一方。イヴはというと小窓から動力炉を目視で確認していた。
『……やっぱり動力炉が駄目でありますな。これは……修理が必要そうであります』
「オレ達に修理は期待するなよ」
『そこは本官がなんとかするので安心して欲しいであります。簡易な修理は出来るでありますからな』
「修理キットやらは?」
『もちろん……用意してるであります』
とんとん。カイトの問いかけに、一瞬敢えて溜めを作ったイヴがサポートドロイドを軽く叩く。
『そいつで修理出来るのか?』
『カイト殿が持ってきてくれたサポートパーツの中に、修理機能をもたせる物があったであります。そのおかげで修理出来るであります……ただ本官が中で作業すると同時に、こちらでも操作が必要であります。本官が中から通信でサポートするので、誰かお願いしたいであります』
瞬の問いかけに、イヴはもう一名サポートが必要であることを明言する。これにカイトがすぐに指示を出した。
「煌士。こういった事だとお前が一番適任だろう」
『構いませんが……カイトさんはどうされるおつもりですか?』
「オレは中でこいつの護衛だ……さっき話てた通り、多分システムの再起動と共に持久戦になるだろうからな」
『な、なるほど……』
メタ的な思考ではあるが、今回はそういったメタ的な思考が役立つ試練ではあった。というわけでカイトの返答に煌士は苦笑いで同意するしかなく、それを受けてカイト達が中でイヴの護衛。瞬達がコントロールルームの防衛を担う事になり、カイト達は動力室の中へと入っていくのだった。
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