第4026話 雷の試練編 ――研究エリア――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。
そうして数日の探索の後の小休止で行ったミーティングで各班の合流を目指すことになると、色々と探索を経て施設の外の輸送路を通って外側からの別エリアへの潜入を目指したカイトであったが、瞬達の側でゲートの開閉が出来ないどころかガレージ前まで到達が困難であると判明。
別のルートを探るべく単身で瞬らとの間接的な合流を果たして、二つのエリアの情報を元に見つけ出した研究エリアへの連絡路を介して研究エリアへ入ると、こちらを迎えに来てくれていた瞬らと合流する事に成功する。そうして瞬の案内で一同は一度ミーティングルームへと入ると、そこで情報共有を行っていた。
「というわけだ。おそらく基本的な敵としてはそちらと大差ないと思うが……」
「違いとしては環境の操作とドロイドが多い、という所か」
「ああ……だから一応今回の極低温エリア、高温エリアなどの環境そのものが危険なエリアには立ち入らないようにしている。ただそれも限界が近付いていた所だった」
「正解だろうな……煌士。確かまだそっちは火の試練には臨んでいないんだったな?」
「はい……火と闇は危険性が高いから最後だ、と。特に闇は全てを終えた後でしっかり準備しないと駄目。しっかり準備しても駄目な可能性は高い、と」
カイトの問いかけに、煌士ははっきりと頷いてカイトの使い魔から受けた説明を語る。これにカイトははっきりと頷いた。
「だろうな……オレも浬らがそういう状況じゃなけりゃ、闇の試練だけは絶対に避けさせる」
「そんなにヤバいのか? 闇の試練は」
「ヤバいなんてもんじゃない……それこそルクスがガチ凹みしたレベルでヤバい。あれは難しいとかそういう話じゃないんだ」
「どういうことだ?」
「あれだけは一種の精神的な試練だ。だから我が人生に一片の悔い無し、とかっていう奴にとっちゃ、無茶苦茶簡単な試練らしい……らしいが、オレとかルクスとか割と人生に後悔してきた奴が受けると、ガチで凹まされる」
「あれはねー……私も結構キツかったなぁ……」
呆れるように首を振るカイトに続けて、唯一彼と共に全ての試練に参加したユリィも苦笑いだ。これに瞬が盛大に顔を引き攣らせる。
「お、お前らでなのか」
「まぁ、基本は闇の試練で腕っぷしはあんま重要視されない。だからそれこそ風の試練より前の腕で、浬らでも闇の試練は突破可能ではあっただろう。だからと腑抜けた覚悟で挑んだ瞬間、潰される……って、それはどうでも良いんだよ。重要なのは火の試練を終えてないって話で。あれを突破してないと環境適応能力が低い状態と言える。何の準備もなく行くべきじゃないだろうな」
「そう考えた……いや、火の試練云々までは考えていなかったが」
あくまで極所環境に無策に突っ込むべきではない、と考えただけであって、流石に経験した事のない火の試練は考えていないのは無理もない事だっただろう。カイトの指摘に瞬は一つ頷いただけだ。
「まー、そこらはどうでも良いか。まずはルート構築をやるべきだろうな。それで? 今回問題になってる冷凍というか低温エリアは?」
「ここだ……施設中央から行ける地下区画。そこが低温エリアになっている」
「なるほどな……確かに地上のどこに置いても面倒になりかねん。地下に作るのは正解と言えば正解か……」
カイトが何度か訪れた各地の古代文明の遺跡でも、高度な文明の遺跡になると地下に実験エリアがある事は稀ではなかった。これは地下だと実験体が逃げ出す可能性が乏しいから、という点と見られたくない場合に隠しやすいから、という二つの点を重要視する研究所で良く取られた構造で、今回のような状況だと良かったのだろう。
「となると……」
「あの、カイト様。一つ質問を良いでしょうか」
「なんだ?」
「テレポーテーション装置で移動は出来ないでしょうか」
「んー……まぁ、オレは無理じゃないかと考えているが、この後試すだけ試すつもりではある」
イミナの問いかけに、カイトは少しだけ苦い顔でそう告げる。これに、イミナが小首を傾げた。
「無理……ですか」
「ああ……基本的にオレ達の時もそうだが、テレポーテーション装置の移動先は一度たどり着かないと開通されなかった。となると、今回の最寄りのテレポーテーション装置もそこにたどり着かないと無理になっている……と思う」
「なるほど……確かに今までを考えれば、こちらとそちらで様々な権限が共有されるとは考え難いですか……」
何よりここは試練だ。合流までも一苦労ではあったが、ここで終わりとなるとも思い難い。となると地力で目的地まで行かされる可能性は十分にあっただろう。というわけでイミナの見立てに、カイトも一つ頷いた。
「そういうことだな……となると必然として、行くしかないんだろう」
「となると……ドロイドの警戒エリアを突破する事になるか」
「警戒エリアか……まぁ、当然か」
「ああ……まぁ、お前が居てくれるから行く事は容易だとは思うが」
人数が増えればその分、戦闘としては優位になるのだ。それがカイトほどの実力者なら尚更だろう。とはいえ、そんな瞬の言葉にカイトは首を振る。
「いや、だからこそ困難になるだろうよ。そしてそうじゃないと車両云々も出ないしな」
「……なにか思い当たるのか?」
「まぁ、妥当な所はな」
ここらはやはりゲーム的な思考を出来るかどうか、という所だろう。電子ゲーム等もある意味彼女の権能の範疇になる。なので人類が生み出すゲームの類もある意味彼女の管理下にあると言えるので、試練の中にはそういうゲーム的な展開が採用される事は別に珍しい事ではなかった。というわけでカイトは気合を入れつつ、端末を操作する。
「まぁ、おおよそは分かった……マップの目的地にピンを打ち込んでおこう」
「……なんというか、今更だが……宇宙服もそうだが、この端末も使いこなしているな」
「そりゃ道具は使いこなしてナンボだ。まず手に入れた道具は可能な限り使えるようになっとかんと、追々困るぞ」
「……どういうことだ?」
楽しげに笑いながらではあるので真剣に注意しているわけではないのだろうが、だからこそカイトの言葉には真実味があった。なのでその意図する所が掴めなかった瞬であったが、これにカイトが笑いながら教えてくれた。
「簡単だ。オレ達みたいに遺跡調査を専門にしているギルドなんかだと、未知の遺物に触れる可能性は無茶苦茶高い。そうなった時、現地で操作出来ないとガチ目に死ぬぞ」
「な、なるほど……確かに言われてみればカルサイトさんも遺跡で死にかけたとは聞いたな……」
「そ。未知の遺跡に入って出れなくなったら、そこにある道具が使えませんはイコール死だ。今までの経験から類推し、使い方の正解を探る。それが肝要だ」
「確かにな……」
確かにカイトの言葉は正しいだろう。特に遺跡調査を専門にしている以上、未知の魔道具に触れないという可能性の方が低いのは自明の理だ。となると彼の言う通り、自分達の知識から照らし合わせてそれがなにかを類推するしかない。というわけでカイトの指摘に、瞬ははたと気付いた。
「っ、そうか。お前だからずっと……」
「そういうこと。安全な内に使い方をマスターしておく。それが一番重要だ」
「まー、失敗して痛い目に遭った事も一回や二回じゃないけどねー」
「そこは御愛嬌だ。脱出は出来てるしな」
ユリィの茶化すような言葉に、カイトは楽しげに笑う。というわけで彼は笑いながら、更に続けた。
「ま、頑張っても無理というか失敗しちまう時はあるんだ。ただ失敗の可能性は低く出来る。INT値は高くしといた方が良いんだよ。もちろん、STR値も高くしときゃ失敗しても力技でリカバリ出来る。どっちも高くしとけ、ってお話」
「INTにSTR……インテリジェンスとストレングスか。なるほどな。戦闘ならどっちかが高ければ良いし、長ければ長けるだけ良いが、冒険や探索なら両方高くないと困るな」
「そーいうこと」
やはりここらはカイトは戦士ではあるものの、同時に根っこの所に冒険者があるのかもしれない。瞬は冒険者としての活動を前提に考えるカイトに対してそう思う。と、そんなカイトが笑いながら更に続けた。
「後はラック値やら色々と高くしときゃ状態異常を回避したり出来るから、結局探索をやるなら全ステ綺麗に育てんと駄目なんよ」
「状態異常回避……出来るのか?」
「流石に幸運で回避は無理だ……だが耐性値は高いに越した事はない」
「それはそうだな……だがゲームで例えるのか」
「何十年と、そして世界各国で使われている説明方法だ。つまりそれが一番適してるからそうされてるって事なんだろ」
瞬の苦笑にも似た笑いに、カイトは楽しげに笑う。とはいえ、実際にこれで瞬も理解できたのだから何も言えなかった。
「ま、今回もそういうトラップにぶち当たらないように注意しながら、中央のルートを開拓する事にしますか」
「毒ガス程度なら良いんだけどねー」
「いやマジでなぁ」
「良いの、それ?」
「風で散らすだけで良いから楽なんだよ、毒ガスは。圧縮して対応すりゃ後始末も楽だしな」
ぎょっとした様子で問いかける浬に、カイトはため息混じりに首を振る。これに浬は盛大に顔を顰めた。
「えぇ……じゃあ何は嫌なの?」
「何がってーと……まぁ、水と毒の合わせた罠は嫌だな。水は凍らせりゃ良いけど、水に毒を混ぜられるのは割とめんどい。気化に気付くのが遅れちまうパターンがあるからな。混ぜられているのが毒じゃなくて薬の系統だと、もっとめんどい」
「そうなんだよねー。致命的な毒じゃない、って割と厄介でさー」
「あー……あるよねー。嫌がらせタイプの罠。痺れ毒を薄めて感覚を過敏にして手元を狂わせる、とか」
「まぁ、薬を混ぜてくる奴は滅多にないけどな。水攻めで普通は死ぬと思ってるから」
「単なる水攻め程度で死なないけどね、私達は」
「力技で壁をぶっ潰して突破するからな」
どうやら流石はエネフィアトップ層の冒険者という事なのだろう。三人共色々な罠をくぐり抜けてきていたが故に、嫌がらせの方が手間になると思っているらしかった。
まぁ、そういってもこの三人に通用する毒物は、と言われても誰も思い浮かばないので、もしかしたら単に三人の腕が高すぎて結果として毒になっていないだけかもしれないが。
「……なるほど。確かにこれは全部のステータスを上げた方が良さそうだな」
楽しげに笑いながらあのトラップはどうだった、と話し合うカイトら三人に、瞬は先程のカイトの言葉が本当に彼の経験から来るものだったのだと理解する。というわけでそんな一同は瞬達の見付けた低温エリアを目指して出発するのだった。
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