第4022話 雷の試練編 ――接触――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうして数日の探索の後の小休止で行ったミーティングで各班の合流を目指すことになり、イヴの助言を頼りに最外周を目指す事になっていた。
というわけで最外周にたどり着いて合流を目指すわけだが、そこで研究エリアの外周部への出入り口が隠されている可能性が高いと判明。カイトは一人、バイクで研究エリアの外側に到着する。
だがそこで分かったのは、やはり出入り口はそこに繋がる通路などを含め完全に隠されているという内容で、それを受けたカイトは一度瞬達となんとか合流するべく、窓まで移動する事にしていた。
『カイト。通信室に移動した』
「ああ……どこだ?」
『それが分かれば苦労はしないだろう』
「それはそうだが……ああ、そうだ。その通信室で地図は見れるか?」
『ああ……なるほど。少し待ってくれ』
カイトの要請に、瞬は彼の意図する所を理解したらしい。通信室から地図を投影し、自分達の場所とカイトの場所を確認する。
『よし……そこからちょうど……どう言えば良いんだ、こういう場合』
「施設側を正面に右左で良いよ……ただ左右は逆になるから、そこは分かっておいてくれ」
『た、確かにな……えっと……そうだな。そこからちょうど斜めみ……じゃない。斜め左に300メートルほど進んだ所の小部屋だ』
「っと」
瞬の言葉に、カイトは軽く地面を蹴って浮かび上がる。どうやら施設外には重力は発生していないようだ。軽く蹴るだけでどこまでも上昇しそうだったので、かなり抑えてたのだが、それでもかなり数メートルは余裕で飛んでいた。というわけでカイトはすぐに宇宙服に外付けされているスラスターを起動。施設の上に舞い降りる。
「ふぅ……相変わらず宇宙は動きにくいな……多分今、施設の上に乗ってると思う」
『ああ……さっきより近付いた。ただまだ地図上の空白部分だな』
「あいよ……地図に従った方がわかりやすいだろう。一番近い地図のエリアまで施設中央を目指すとして、どれぐらい進めば良い?」
『中央ドームに向けて200メートルぐらい……だろうか。とりあえず進んでくれ』
「りょーかい」
瞬の指示に従って、カイトはとりあえず地図に記載されているエリアまで進む事にする。そうして進み続けることしばらく。ある所までたどり着いた所で、瞬が声を発した。
『そこだ。ちょうどそこで地図が始まってる。といっても、そこらは今の権限では行けないエリアだが』
「ここか……外からだとわからんなぁ……」
中から見れば通路もあり部屋もある様子だが、外からは通路も部屋もほぼ一緒だったようだ。カイトは少しだけ苦笑いを浮かべつつ、試しにこんこんと天井を蹴ってみる。
「……うん。わからん。まぁ、とりあえず。今は行けないエリアということはこっちは外れだろうな。このままそっちを目指したいが、どう歩けば良い」
『案内する』
カイトの要請を受けて、瞬が地図を見ながら案内を開始する。そうして歩いて移動すること十数分。
『そこだ。その下がちょうど通信室だ……変な感じだが、ちょうど俺達の居る位置の点とお前の居る点が重なってる……まぁ、立体的にすると上に出るが』
「よし……あ、そうだ。試しにだが、ここで天井を蹴ってみたら、外から反応が分かる試したい。少し気にしてみてくれ」
『なるほど……分かった。確認する』
カイトの問いかけに、瞬は一つ頷いて口を閉ざす。そして同様に他の者たちも口を閉ざして、外と中共に静寂が場を支配する。そうして、彼は軽く小突く程度に天井を蹴ってみる。
「……軽く蹴ってみているが、中からはどうだ?」
『カイト様。私です。イミナです……天井に耳を貼り付けていますが、その程度の蹴りではどうやら聞こえないようです』
「まぁ、そりゃそうか。分かった……もうちょい力を入れる。離れていてくれ」
流石に軽く蹴った程度で中に音が響けば、破片やらが落ちてきた時に通信に乗ってしまいかねないか。カイトは軽く小突く程度では意味がない、と判断。少しだけ呼吸を整えて、屈んで天井に手を当てて宇宙服のシステムを起動する。
「右腕接触型スキャンシステム起動。材質及び構造確認」
『起動。材質確認……完了。構造確認……完了』
「よし……右腕インパクトシステム起動。材質及び構造をセット。非破壊の貫通型衝撃波を」
『非破壊衝撃波……設定完了。対象施設に』
「注意事項の読み上げはスルー。以後、原則として同様に注意事項はキャンセル」
『了解』
カイトの指示に合わせて、宇宙服に取り付けられていた各種の機能が駆動。右腕に取り付けられた装置に魔力が収束する。というわけで色々とやっている彼に、瞬が思わず問いかける。
『おい、カイト。何やってるんだ?』
「衝撃波を発生させて、この部屋で合ってるか確認するってだけだ」
『だ、大丈夫……なんだよな? こっちは誰も宇宙服着てないぞ』
「ま、失敗したらお慰みということで一つ」
『む、無責任な……』
時々こういう冒険者らしい大雑把さがあるな。瞬はカイトの返答にため息を吐く。とはいえ、カイトがそこらをしくじるとは思っていないし、万が一宇宙服のシステムを読み違えたとてその後に問題があるようにしているとは思えなかった。
「ま、破れてもオレがなんとかする……少し揺れるかもだが、気にするな。システム起動……インパクト」
『っ! ああ、揺れを感じた。ちょうど真上だろうな。かなり大きな音だった』
「よし……で、これで現在位置が双方で確認出来たわけだが……どこに行けば良い?」
『ああ、それだがどうにも中庭があるようで、壁面の切り替えの一つで窓に出来るらしい。中から外が伺えた』
「……それ、窓じゃなくてモニターってオチないか?」
『……それはわからん。だがそこぐらいしか思い付かなかったんだ』
カイトの指摘に、瞬が何処か恥ずかしげに答える。というわけでそんな彼にため息を吐きながら、カイトは立ち上がる。
「はぁ……で、中庭とやらはここからどっちだ?」
『ここから一番近い所だと、中央に向けて300メートルほど進んだ所だ』
「……あれか。見付けた。先に向かっとくよ。こっちは何も無いし」
『そ、そうか……分かった。すぐに追い掛ける』
少し跳躍して上から見るだけで、カイトにも中庭の場所が見えたようだ。というわけで一度の跳躍とスラスターで姿勢を制御して、宇宙空間を移動。周囲が建物で囲まれた、一部だけ建物のない地面の上で着地する。広さとしては数十メートル四方で、ドーム側が見えるようになっていた。
(ここか……なるほど。確かに中庭というかなんというか、か)
おそらく一時的な休憩場で、外が見えるようになっているというわけなのだろう。見晴らしとしては悪くなく、軍用の中庭ほどではないが中央ドームの景色などは悪くなく、一休みする程度なら十分と思われた。というわけでたどり着いたカイトは一旦中庭の確認を終えると、後ろを振り向いて建物そのものを確認する。
(なるほど。これは隔壁とかと同じタイプだな。おそらく両側からガラスの類を挟んで保護しているわけか)
別に施設として隠しているわけではないのだろう。壁の一部は開閉が可能になっている様子があった。というわけでそんな調査をしながら待つことしばらく。通信が入ってきた。
『カイト。こちらも着いた。そちらも大丈夫か?』
「ああ……結構前に着いてたが、トラブルか?」
『トラブルというかなんというか。数度戦いがあっただけだ』
「そうか……まぁ、待ってる間にそこそこ調査が出来た。これは窓の類で間違いないな」
『わかったのか?』
「ああ。外側の壁には若干の隙間があった。隔壁を下ろせるようにしてるんだろう……ま、それは良い。どっちにしろ下ろせるのはそっちだけだ。作業を頼む」
「分かった……煌士」
『はい』
カイトの要請に、瞬は煌士へと指示を飛ばす。そうして隔壁が下へと降りて、中の様子が明らかになる。といっても、単に清潔感のある簡素な部屋に椅子が幾つかある程度。強いて目立つものを言えば、ジューサーや飲み物を出すサーバー類があった程度だ。
『……やっぱり一瞬ぎょっとするな。特にその状態だと』
「ん? ああ、悪い悪い。確かにこれだと外からは中の顔が伺えないよな」
瞬の言葉にカイトは少しだけ照れくさそうに笑う。この宇宙服はヘルメットの部分がヘッドマウントディスプレイと一体になっており、カイトが殊更指示しなければ顔は見えないようになっていた。今は外での活動がメインかつ一人だったので、顔は出さないようにしていたのであった。
「まぁ、それは良いんだ。さっさと作業を進めちまおう。気付けばもう昼を過ぎて1時間以上が経過してる。戻りも考えると、こっちはこれで何も出来そうにない」
『……確かに。もうこんな時間か……だがそっちは良かったのか?』
「こうなる事も想定に入れて、万が一は待機で指示してる……後は色々とあってリーシャとユーディトさんを連れて来たし」
『連れて来た!?』
「リーシャは必須だろ。ユーディトさんは単にこうなった場合の世話役が居なくなるからってだけだ。雷華の許可も取った」
『そ、そうか……』
そこらでカイトが手抜かりを起こすとは思えなかったので、瞬は驚きを飲み下す。そうして彼が気を取り直して、自らの端末を取り出した。
『一応聞くんだが、こちらは見えているんだよな?』
「ああ。端末も見えてる……それがここらの地図か……とりあえずデータ転送が可能かやってみよう。兎にも角にもそれがわからないと、次の行動が立てられんだろうからな」
『そうだな……どうすれば良い?』
「とりあえず端末を窓に押し当ててくれ。ある程度距離があってもデータの授受は出来る。試してみよう」
『わかった』
少なくとも試した時は窓一つ以上の距離があったのだ。この窓が通常の窓より分厚かったとしても、まだ許容内の距離のはずだった。というわけで小型端末を窓に押し当てた瞬に、カイトは自らの右手を押し当てる。
『……何やってるんだ?』
「ん? ああ、いや。宇宙服にリンクさせてるから、そちらにデータ転送させようかと」
『そ、そんな事も出来るのか……』
こいついつの間に使いこなしてるんだ。瞬はカイトが自分達が知らない数々の機能を使いこなしている様子に、少しだけ呆れたようにため息を吐く。
「そりゃな。こんな宇宙でポケットに突っ込んだ端末なんぞ使えないからな」
『それもそうか……で、どうなんだ?』
「……よし。成功だ。こちらの地図にリンク出来た」
『そうか……っと。これは……』
「そっちにもデータが共有されたらしいな」
出来たなら何より。そんな様子で瞬が小型端末を窓から離した瞬間に、ホログラフが浮かび上がり彼の担当する研究エリアの地図の横にカイト達が入手した軍用エリアの地図が表示される。
『……こちらより広そうだな』
「広さだけならな……だが、なるほど……これで分かりやすくなったな。外周部の輸送路で高速移動。内部の連絡路で安全に移動か。先輩」
『ああ。この連絡路を通って移動しよう。こちらの方がおそらく探しやすいはずだ』
「そちらはな……ま、それで合流しよう。とはいえ……全体的に明日だな」
『……そうか。お前はこれから戻らないといけないのか。すまん』
「そういうこと。後は頼んだ」
『わかった』
カイトの返答に瞬は一つ頷いて、窓から離れる。そうしてカイトは再び自身の担当する軍用エリアへと赴くと共に、瞬らは連絡路の発見に向けて探索を再開するのだった。
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