第4021話 雷の試練編 ――最外周――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうして数日の探索の後の小休止で行ったミーティングで各班の合流を目指すことになり、イヴの助言を頼りに最外周を目指す事になっていた。
というわけで最外周にたどり着いて合流を目指すわけだが、そこで研究エリアの外周部への出入り口が隠されている可能性が高いと判明。カイトは一人、外側の様子を確認するべく外周部をバイクで走っていた。
「……」
宇宙の静寂の中、フィーンという小さな音が振動を介して響く。そうしてただバイクが駆動する音だけが響く中、カイトは半自動システムに操作を預けて僅かに周囲を観察する。
(やはり外周は全体的にボロボロ……一部外壁に至っちゃ完全に破壊……中に居る連中は全体的にここから入り込んだ形か)
中に居るとそこそこ原型を留めているのではと思ったカイトだったが、どうやら外に出てみれば施設全体が大きく欠損している事が良く分かった。もちろん本来なら荷物の輸送を行うために整えられていた施設外周もボロボロで、星の地表が露出していた。
(外周を保護するシールドが起動していない……だったか。飛ばされたら終わりだな)
カイトは宇宙船に乗って宇宙港を目指す道中の事を思い出す。本来、施設の更に外側には卵の殻のようにもう一枚シールドが展開され、外側で作業する作業員達を保護しているらしい。
とはいえそれは外部からの攻撃に備えたものではないし、出入りを阻害するものでもないそうだ。単に万が一何かの事故で吹き飛ばされた際に宇宙へ飛ばされないようにするための命綱のようなものらしいので、宇宙服の着用は必須らしかった。
「システム。周囲の生態反応データの報告を」
『センサーの測定データを表示します』
カイトの要請を受けて、バイクから魔力の波が放たれて周囲を超高速でスキャンする。そうして得られた反応の結果を、宇宙服とリンクして拡張現実として表示させる。とはいえ、それは何も反応がなかった事を表していた。
「生態反応はゼロ……改造兵共はいない……ってことか? それともまだフラグは立ってないか……」
『改造兵ならび生物兵器と思しき存在の反応ゼロ。現在危険は認められません』
「っと……今の質問は無視しろ」
どうやら気付かず独り言のように話していたようだ。カイトは少しだけ恥ずかしげに、システムへと今の話を無視するように指示する。
(まぁ、とりあえず……オレに反応するようにはなってないだろうな。となると、浬か)
ユリィやソレイユは単独行動をする可能性が高い。それに対して浬は過保護なカイトが一人にする可能性がない。残るはイヴだが、イヴは挑戦者の一人とは言い難いだろう。であればフラグとなるのは浬が次の状況になったタイミング、と考えて良さそうだった。
(デカブツの反応もない……そろそろ出てきても不思議はないが。にしても……)
相変わらず死屍累々。地獄の様相だ。カイトは正面から視線を外して、外へと目を向ける。
(陸戦兵推定5万に羽虫共がうじゃうじゃ……陸戦兵だけで考えても1人あたり1000か。いくら防衛兵器で揚陸を可能な限り減らしたとしても、二個小隊じゃ絶望的過ぎるな)
技術が進歩すればその分だけ兵器の性能も高くなる。しかも敵は人体改造や生体改造に躊躇いがない。個々の戦闘力では流石にイヴの所属していた連邦側が不利だろう。よしんば機械生命体や特殊部隊の腕利きが相手にしたとしても、物量差が圧倒的だ。
(……生存者はイヴだけ……正直1人生き残っただけでも十分過ぎる結果か。それも大破したと思われたが故の生存……基地の中にはもう誰も、か)
ここで最後まで仲間の脱出を守り抜いた兵士達に向け、カイトは小さく黙祷を捧げる。彼もまた仲間を守るために大軍を相手してきた。故にこそ、散った者たちには尊敬しかなかった。
イヴ曰く、宇宙港にたどり着いたのは自分だけとの事だった。その彼女とて重型なる巨大ロボットが中破――というよりほぼ大破――という状況で自身の方が強いと判断し、重型を修理させるために戻っただけだ。
その後どこで機能停止したかは彼女にもわからなかったらしいが、雷華の介入により再稼働した掃除ドロイドが回収。廃棄物として工場エリアへと運び込んだのだろう、というのが見立てだった。
(……)
ただ進み続けるバイクの上で、カイトは意識さえ完全に停止する。そうしてただ死者への祈りを捧げること数秒。十秒にも満たない間瞑目を続けた彼であったが、システムが鳴らす音で目を開く。
「なんだ?」
『目標地点へ近づきました。停止まで自動操作で進みますか?』
「いや、マニュアルへ切り替えてくれ。敵襲が考えられる。また敵襲が生じた場合、緊急離脱の可能性もある。緊急離脱の場合、再加速し安全領域まで移動。アイドリング状態で待機。別命を待て」
『了解』
カイトの指示を受けて、バイクのシステムが格納していたマニュアルコントロール用のハンドルを出す。そうして飛び出したハンドルを握ると共に、カイトが指示を出した。
「全自動システム停止。半自動モードにて操縦をサポート。目的地まで50メートルの地点でフルマニュアルモードへ」
『了解』
「よし……見えてきた」
バイクのシステムの返答に一つ頷いたカイトは、瓦礫を踏んで大きく跳躍。少し先までの視界を確保すると、施設の外周を確認。自分が出たガレージと同じシャッターが降りている一角を確認する。
「システム。ガレージの入場申請は」
『緊急事態につき、外側からの操作はできません。緊急事態宣言の解除か、内側からの開放しか出来ません』
「あいあい」
やっぱり最初に言われたままか。カイトはバイクのシステムからの応答にため息を吐く。そもそも敵対勢力に襲撃されている状況だ。外側からの操作で開いては困るだろう。というわけでそのまま進み続けて、カイトはシャッターの前で停止する。
「先輩。オレだ……聞こえてるか?」
『カイトか。ああ、聞こえてる。着いたのか?』
「ああ……今端末を使っている。一応聞きたいが、全員これで聞こえてるか?」
『……ああ、大丈夫みたいだ。とはいえ、どうしたものだろうか』
瞬の問いかけに、カイトは端末を起動させる。確認するのは地図だ。エリアを超えたので、次のエリアの地図データが自動で手に入らないか、と思ったのだ。が、どうやら駄目らしい。現在位置は不明になっていた。
「……こっちは駄目だな。地図が表示されてない。現在位置不明だ」
『そうか……こっちで一度地図を起動してみる。少し待ってくれ。こっちだとこれで最初にデータが自動でダウンロード出来たんだが……』
カイトの返答に、瞬が通信室の地図を起動する。そうして十数秒ほど待っていると、瞬が再び口を開いた。
『よし。地図を起動させた。どうだ?』
「……駄目だな。どうやらそこまでたどり着かないと駄目らしい……てかそれだけでダウンロード出来たのかよ。こちとら小型のデータ端末を回収して、そこからダウンロードって塩梅だってのに」
『そうなのか? こっちは基本データがある部屋にたどり着いて、端末を起動させれば自動で更新されていったぞ』
「マジか……」
おそらくこういった細かい操作が出来るのは自分だけだと判断されたのだろう。カイトはわざわざ手間を掛けさせられている状況にため息を吐く。
とはいえ、普通に考えれば端末を持ち込むだけでデータがダウンロードさせるのは安全上良くない。カイト達の方が正解なのだろう、とは思われた。というわけでため息混じりに首を振るカイトであったが、すぐに気を取り直す。
「まぁ、それは良いだろう、どうでもな……で、そっちの地図でオレの場所は表示されてないか? 一応シャッターの手前に張り付いてるが」
『……これ……か? おそらくそれらしい点を見付けた。多分これだと思うが……』
「やはり想定通り、って所か」
『……ああ。一角全体が完全に地図上の空白になってる。これは……どうしたものだろうか』
カイトの言葉に頷く瞬の声には少しだけ苦みが乗っていた。こちらからでは何もわからないが、どうやら瞬達に表示される地図上では、カイトの現在位置を示す点が完全に空白になっているらしい。しかもその壁の前に居る等ではなく、かなりの広さがあったようだ。
「シャッターを破っても良いが……破ると絶対に碌なことにはならんだろうな、という確たる自信があるのが悲しい所」
『だろうな』
トントントン、とガレージを隔てるシャッターに触れたカイトの言葉に、瞬が笑う。この程度のシャッターなぞ簡単に破れる。が、それをすれば確実に良くない事態を引き起こすのは間違いなかった。というわけでしばらく全員で考えるわけだが、しばらくしてカイトが声を発する。
「そういえば先輩。そっちで外が見える窓とかはあるのか?」
『ん? ああ、窓なら何個か見付けたが。それがどうした?』
「いや、オレも地図を確認しておきたくてな。流石に本当に数メートルの距離なら小型端末同士での会話が出来るはずだ。後は上手くやれば、データリンクで情報が見えるかも、ってのもある」
『なるほどな……分かった。一度そこに一番近い通信室まで移動する。少し待っていてくれ』
「了解……敵はまだ居ない様子だから、気楽に待ってるよ」
『居ないのか?』
「オレ一人だけだったら、だろうな」
やはり最初に自分一人にしたのは正解だろうな。カイトは瞬の言葉を聞きながら、最終的なジャッジを下す。そうして彼はしばらくの間、少しだけ物憂げな様子で周囲を見ながら瞬らが通信室へたどり着くのを待つ事にするのだった。
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