第4020話 雷の試練編 ――外周部へ――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、とある世界を模したらしい宇宙港と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうして数日の探索の後の小休止で行ったミーティングで各班の合流を目指すことになり、イヴの助言を頼りに最外周を目指す事になっていた。
というわけで最外周を目指すカイト達であるが、彼らの前にはイヴの使った重型を更に巨大にした要塞の如き巨大ロボットが立ちふさがるも、これをなんとか突破。
外周部へ続く部屋にたどり着いていたのだが、そこで瞬達が受け持つエリアの外部への通路が隠されている可能性が高いと判断。一旦拠点に戻って小休止を挟む事にしたのだが、そこで色々とあってリーシャとユーディトを連れて戻ってきていた。
「うまっ!? なにこれ!?」
「ありがとうございます」
「お兄ちゃん以上の料理の腕の人、初めて見たかも……」
小器用だからか、それとも元々才能があったのか。はたまたかつて駄目出しを連発した皇太子のおかげか。どれが原因かは定かではないが、カイトの料理の腕は中々のものだ。というわけで早速と出された料理に浬は目を丸くしていた。そしてそんな彼女同様に昼食を食べつつ、カイトも頷いた。
「ユーディトさん、本来は皇室付きのメイドが出来るからなぁ……料理の腕は本格的かつオレ以上だ」
「王侯貴族の相手はお断りしております。ユスティーナ様除く、ですが」
「あははは……あ、そういえばメイドさんって色々と細かく分野が分かれているって聞いた事あるんですけど、ユーディトさん? は何が専門なんですか?」
「全て、です。メイドたるもの、主人のありとあらゆる要望に答えられるようせねばなりません。しかし同時に、主人の行き過ぎた要求を諌める事も出来ねばなりません。優れた教養と実力。それら兼ね備えてこそ、真のメイドと言えるのです」
「お、おぉー……」
凄まじい矜持を感じる。浬はユーディトの返答に思わず気圧される。ある種の神々しささえ漂っていた。後に彼女はそう語る。が、それにカイトは盛大にため息を吐いた。
「確かにそうですね……自分の思う通りに主人を動かそうとしなければ、ユーディトさんは全てが完璧だ」
「時には従者の好きにさせること。それは優れた主人の証でもあります。ユーディトは嬉しゅうございます。カイト様がそうなられ」
「完全にさっき言った通りっすよね」
明らかにカイトを褒めているように見えて、ユーディトは完全に自分の意のままに操ろうとしている。そのあまりのわざとっぽさは、浬でさえこれが演技だと理解出来た。
感涙にむせぶ様子を見せつつ、そして演劇なら見事というしかないにも関わらず、空気とでも言うべき何かが演技である事を物語っていた。というわけで十数秒で満足したのか、けろりとした様子で立ち上がった。
「あはは……あれ? ねぇ、お兄ちゃん」
「んだ?」
「ユーディトさんってメイドさんなんだよね?」
「そうだな。ウチの執事、メイド全員は彼女の教育を受けたか、その教育を受けた者たちの教えを受けている」
メイド服を着て完璧な給仕をしてみせるのだ。これでメイドでなければ何なのだ、という所ではあったし、何より彼女自身がメイドであることこそを自身の根としている。浬の問いかけにカイトは一つはっきりと頷いた。これに浬は今更気付いた疑問を口にする。
「でもさん付けなの? しかも丁寧語だし」
「そーりゃ元々オレの世話役だった人だからな。オレがあっちに渡って爺さんに引き取られた後、オレの面倒を見てくれてたのがユーディトさんなんだよ」
「そうなります。カイト様の朝の朝食のお世話から始まり、夜は湯船の中からベッドの中まで。24時間全ての面倒を見させて頂きました」
「は、はぁ……」
多分お風呂に伽だの何だのは嘘なんだろうな。浬は今までのユーディトから、それをすでに理解していたようだ。とはいえ、どう反応すれば良いかまではわからなかったらしい。生返事だった。
「まぁ、その冗談は置いておいて。とりあえずそういうわけだから、どうしても頭が上がらんのよ。公爵になる、って決めてからはそこらの教育もされたし」
「で、出来るんですか?」
「主人不在の際に一流の貴族となるよう教育するのもまた従者の務めです」
「ほ、本当に何でも出来るんですね……」
「メイドですので」
どうやら絶句にも似た称賛は非常に嬉しかったようだ。無表情で腰を折るユーディトだが、かなり上機嫌である事がカイトには理解出来た。
「マジでなんでも出来るからな、ユーディトさん……いや、マジで出来ないのなんなんっすか」
「そうですね……ああ、カイト様に正直に秘密を明かすこと、でしょうか」
「どうあってもやるつもりないんっすね!」
よりにもよって本当にできていない事を口にしたよ。しばらく考えた後、困ったように笑って答えたユーディトに、カイトは思わず声を荒げるしかできなかった。そうして一度声を荒げた後、彼は盛大にため息を吐いた。
「はぁ……まぁ、腕は超一流のメイドさんだ。てなわけで、ちょっとの間こいつらの世話は任せます。腹減ったら適当に食わせてやってください」
「かしこまりました……ご武運を」
「行ってきます」
ユーディトを連れて来た理由は簡単で、単に外周部に向かう際に一旦は自分一人での移動にしたからだ。まずは外の状況を確認し、その上でイヴの車両で、だった。というわけでカイトは宇宙服を着込むと、改めてテレポーテーションルームから外周部に繋がる部屋に戻るのだった。
さてテレポーテーションルームに入って、外周部に繋がるガレージへと戻ってきたカイト。そんな彼が何をするかというと、まずは通信室で瞬らと連絡を取る事であった。
「先輩。聞こえてるな?」
『ああ……悪いな、手間を掛ける』
「よいさ。それがオレの役目でもあるからな」
瞬の謝罪に対して、カイトは笑いながら首を振る。
「で、これからバイクでそっちに向かうが、どれぐらい掛かるかはわからん。一応敵が居るかいないか、とか色々とあるからな」
『わかっている……一応30分後にはまたここに戻ってくる予定だ』
「それで頼む……そっちはやっぱり何かは見付からないか?」
『ああ……やはり研究施設だと警備が厳重そうだ』
「だろうな」
しかも敵勢力の研究をしていただろう研究所だ。内通者などの存在も考えれば、やはり隠し通路が見付かるとは思えなかった。というわけで瞬の返答であちらに問題がない事を確認すると、カイトは立ち上がって通信室を後にする。
「さて……」
きゅぅん、というなにかが収束するようなかすかな音と共に、遠未来の文明のバイクが起動。僅かに浮かび上がり、全周に青白い光のラインが入る。
(使い方はさほど変わらん。地球のバイクと同じでメーター類も前にあって、両側のハンドルで基本的な操作。ただ足部分のブレーキペダルはないな……他も色々と違いが多い……が、こういう場合……)
おそらくそういう形になっているだろう。カイトは自分が経験してきた地球より遥かに進んだ文明の記憶を呼び起こす。
「音声操作システム起動」
『音声操作システム起動。映像を投影します』
カイトの呼びかけに合わせて、バイクのメーター部分からホログラフが浮かび上がる。そうして浮かび上がった各種の表示の中から、彼は一つのシステムを起動する。
「システムリンク。搭乗者を現在操作中の対象で固定。続けて追従システム起動」
『システムリンク承認。搭乗者の固定……承認。追従システム起動……承認。空間転送機能の指定先を現搭乗者にて固定』
「持ってて良かった身分証」
カイトは自分を主操縦者として認識し、全機能を使えるようになった事にほくそ笑む。単なる操縦だけなら無資格でも出来るらしいのだが、こういった全機能の使用は出来ないようにロックされているらしい。が、幸いな事にカイトは軍の資格を手に入れていたので、使えるのであった。
「運転に必要な全システム起動及び、研究エリアへの移動ルートの最適化を」
『システム展開……承認。オートバランサー起動。研究エリアへの移動ルート最適化……エラー。基地よりの情報提供が途切れています』
「おっと……車両のセンサーをオン。単独での最適化を」
『指示の変更を確認……全システム起動。ルートの最適化を提示します』
「頼んだ……よし。ガレージを開放してくれ」
『ガレージ開放……承認。扉が開きます。近くの作業員は注意してください』
システムからの応答に、カイトはしっかりと両足でバイクを固定する。そうしてそれと共にガレージの扉が開いて、カイトの乗ったバイクが外へと飛び出すのだった。
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