第3974話 雷の試練編 ――生物兵器――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうしてカイトは途中幾つかの班に強制的に分離させられ、未来のドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。
そうしてたどり着いた中庭では、戦闘用のドロイド達となにかが争った形跡があり、その形跡を負って見付かったのは異形の生物の腕と大量の血痕であった。
が、血痕を追跡することはせず、当初の目的通り金庫の鍵を回収し、しかし生物兵器の存在を危惧した事からこの日の探索はこれで終了。その後は軽い打ち合わせを経て翌日。再び軍用エリアに戻って金庫を開けて中から権限を変更するための鍵を手に入れるわけだが、それと同時。通路にて大きな音が響き渡る。
「ふぅ……よっしゃ。じゃあ、やりますかね」
ぐっ、ぱっ。カイトは扉を開く直前、呼吸を整えて一度だけ身体の各所をほぐす。今日の本格的な戦闘と言える戦闘はこれが最初だ。少しだけ気合を入れていた。というわけで準備完了と共に、彼は扉のコンソールの上に浮かぶユリィに視線を送る。
「気を付けてね。一応は大丈夫だと思うけど」
「おう……よし。開いてくれ」
「オッケー」
カイトの要請を受けると同時に、ユリィがコンソールのホログラフに触れて扉を開く。と、その直後だ。通路を勢い良く人型ドロイドの半身が飛んでいく。
「え?」
「……おぉ、中々の速度だな。よっしゃ! やるか!」
あまりの速度に何が起きたかさっぱりな様子の浬を尻目に、カイトは楽しげに笑い獰猛に牙を剥き、通路へと突入する。そうして音を頼りに、下士官用居住区の出入り口側を確認する。
「おぉおぉ、こりゃまた」
そこに居たのは数十体は居るだろう人型ドロイドと、それに取り囲まれながらも時に貫手、時に力技で人型ドロイドを解体し、として破壊活動を行う生物兵器だ。
『カイト、どう?』
『まー、マトモな生物じゃないな。こりゃ確実に改造されてる』
一瞬とはいえ一時停止した自身への問いかけに、カイトは苦笑いしながらもまだこちらに気付かれていない事からまずは観察に努める事にする。
『体長は……大体2から3メートル。形状は人型……に近い。どっちかというとゴリラとかオラウータンとかに近いが……手足は細長く、指も同じく細長いが……どうやら鋭利な刃物のように尖っているんだろう。ドロイド達を貫手で貫通してる』
『わぁお。そりゃまた……魔力は?』
『使ってはいるが……こりゃ、魔力をベースとした貫手というよりも固い指先による刺突だな。ドロイドの防御力……いや、魔術的な防御力は素材に依存するものだ。このドロイド達にとっては特攻と言えるかもしれん』
このドロイド達に魔術、というより魔力を使った攻撃の効果が薄いのは、このドロイド達が魔力を良く通す素材を利用して受けた魔力を身体全身で受け流す事により魔力による影響を薄くしていることに起因する。
なので魔力をほとんど使わない攻撃に対しては素材の強度相応の防御力しかなく、この金属を貫けるだけの力を用意出来るのなら、魔力を使わずの撃破は容易だった。それこそ、地球で考えれば攻撃機などに搭載される大口径のガトリング砲なら撃破は不可能ではないかもしれなかった。
『他にはなにかわかりそう?』
『その他……そうだな。口はあって、牙もあるらしい。噛み砕いてらぁ……ただ体毛はない。後は生殖器もなさそうだ。股間に穴も棒も見えないし、隠してる様子はない』
『なに言ってんの!?』
『おいおい……兵器の自己増殖ってコントロール不能になる要因の最たるものの一つだぞ。そして生殖器は生物における最大の特徴の一つでもある。これの有無は即ち、それらを取り除かれたという人為的な痕跡の明確な証拠だ。何より最初に確認するべき点だろう』
『え?』
かなり真面目な話がいきなり飛んできて、浬が思わず目を丸くする。そしてそんな彼女に、ユリィとソレイユも頷いた。
『そ、そうなんだよ。結構重要だよ』
『そ、そうそうー。決してエロエロ目的ー、とかじゃないよ』
『お前らもわかってなかったんかい』
どうやら二人も何故カイトがこんな事を急に口にしているんだろう、と気にはなっていたらしいが、かなり真面目な口調でもあったので突っ込めなかったようだ。とはいえ、おそらくなにかエロいことを目的にしているわけではないとは察していたので、敢えて深く追求しなかった、という所であった。
『まぁ、そんなわけで。間違いなくこいつらは改造されたか、意図的にそういう形として製造……そうだな。この言い方が正しいだろう。製造された生物兵器だ』
おそらく改造ではなく製造の方だろう。カイトは手術痕が一見する限りは見受けられなかった事から、そちらの前提で認識しておく事にする。
『おそらくこの文明に対抗する目的で作られたものだろうな。人型ドロイドに対してかなり優位に立ち回っている……が、決して圧倒的に優位に立ち回れるわけでもないらしい』
手足のリーチはこの生物兵器の方が長いためいか、人型ドロイドの斬撃は届いている様子がない。更には俊敏性や器用さもこの生物兵器が上らしく、刺突やらも器用に絡め取って腕をもぎ取るなどしていた。
だがやはり人型ドロイドには数の有利がある。この有利はやはりかなり強いのか、一体が絡め取られ破壊されている間も魔弾による砲撃を行っており、確かなダメージを蓄積させている様子であった。
『ドロイド側も甚大な被害を被るが、決して生物兵器を撃退出来ないレベルではない……という所かな』
戦力差としてはそういう所になるのだろう。カイトは生物兵器とドロイド達の戦力に対してそう考える。と、そんな事を考えていられるのもここまでだったようだ。
「おっと!」
刺突を絡め取って腕をもぎ取って、明後日の方向に投げただけ。生物兵器としてはそんなだけだったのだろうが、その明後日の方向はカイトの居る方向だったようだ。飛来するドロイドを刀で両断する。そしてそんな音で、生物兵器達がこちらに気が付いたらしい。
「おっとっと……こりゃ気付かれちまったか」
カイトへとドロイドを投げた生物兵器の甲高い金属のこすれ合う音にも似た叫び声にも似た咆哮が響き渡り、他の二体もカイトに気が付いて同じような咆哮を上げる。そしてどうやら、投げた一体はこちらを敵として見定めたらしい。ドロイド達を押し飛ばして、カイトへと一直線に向かってくる。
「おっしゃ、やるか」
ずんずんっ、とこちらへと大股に歩いてくる生物兵器に、カイトは獰猛に笑いながら刀を納刀。そして納刀と同時に表情が消えて、居合斬りの構えで待ち構える。と、そうして待ち構えた次の瞬間、生物兵器が残像を残して消えた。
「おっと! やっるぅ!」
残像が生ずるほどの速度だから何なのだ。カイトは楽しげに、そして獰猛に笑いながらその刺突を刀で弾く。そうして超速度で、生物兵器が彼の後ろへと回り込んだ。
「遅い」
自身の背後に回り込んだ生物兵器に向けて、カイトは身を捩る形で後ろを向いて蹴りを叩き込む。そうして刺突の前に蹴り飛ばされた生物兵器が、通路の先まで吹き飛ばされる。それに、カイトは容赦なく左手で魔銃を取り出して乱射する。
「……ちょっちダメージは薄いか」
どうやらドロイドの魔弾による攻撃に耐えるためか、魔力を弾にして放つ攻撃に対してはある程度耐性があったらしい。魔銃による乱射を物ともせず立ち上がると、再び咆哮を上げてカイトへと迫りくる。
「ま、速度にちょっとは自信があるんだろう? ちょーっと頑張ってみてくれや」
肉薄してくる異形の生物兵器に、カイトは獰猛に刀を構える。そうして、今度は彼の方が床を蹴って生物兵器へと肉薄。先程の刺突の速度と同等から、段々と速度を上げてこの生物兵器の限界を試すかのように斬撃を放っていくのだった。
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