第3975話 雷の試練編 ――生物兵器――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造と、再びとなる地球側の面々との合流であった。
そうして数日の探索を経て軍の下士官用と思われる居住区にて鍵の掛かった金庫を見つけ出すと、その鍵を探索。中庭でマスターキーを見付けて、金庫を解錠。端末の権限のアップデートを行ったものの、そのタイミングで施設を保有する組織とは別の勢力が作ったと思しき生物兵器による襲撃を受けていた。
「ふっ!」
数十度に渡る剣戟の末、カイトの刃が生物兵器の腕を斬り飛ばす。そうして青黒い血が吹き出して、通路の床や壁を汚していく。
「さて……」
これで状況としては中庭で見た生物兵器と同様だ。カイトは斬り裂いた際、敢えて腕を狙って斬撃を放っていた。逃げるのか、それとも交戦を継続するのか。情報収集の一環だった。そうして彼が一歩後ろへ退いたと同時に、悲鳴にも似た甲高い咆哮が生物兵器の口から響き渡る。
「っと、交戦継続か」
血飛沫を上げながらも、雄叫びを上げた生物兵器は引き続きカイトへと肉薄してくる。それに彼は刺突を回避するとそのまますれ違いざまに蹴りを叩き込んで、通路の端まで吹き飛ばす。
「……」
距離は取らせてやったぞ。カイトは逃げられる状況を敢えて構築し、再度様子を見定める。そして彼が追撃をやめている間に生物兵器は立ち上がり、再び生物兵器が甲高い咆哮を放った。
「なるほど。まだやる気、ではあるか」
ずんずんとこちらに歩いてくる生物兵器に、カイトはまだまだ闘気が漲っている事を理解する。
(どうやら片腕が落ちた状態で逃げたのは、単に敵を殲滅したからという所かもしれんな。いや、それともドロイド相手なら逃げるようにセッティングされているか?)
ドロイドが生物兵器にとって、敵の単なるこの施設の職員達を守る防衛兵器に過ぎない事は考えるまでもない。生物兵器の目的が敵の兵士の殺傷であるのなら、ドロイドだけの状況で交戦を継続する意味合いはさほどないと判断されても不思議はなかった。と、そうして一歩ずつ歩み寄る生物兵器だが、その外観が少しだけ肥大化している事にカイトは気が付いた。
「ん? なんだ? お前、ちょっとでかくなったか?」
先程までも自身より大きかった事は大きかったが、それでも元々がゴリラやオラウータンのように前傾姿勢で動いていたので見上げるほどではなかった。それに対して今は前傾姿勢でない事もあるが、少しだけ見上げるような形になっていた。というわけで少しだけ困惑気味に首を傾げるカイトであるが、生物兵器はまるで怒りを露わにするかのように甲高い鳴き声と共に刺突を振り下ろす。
「おっと! ちょっと速くなったか!?」
放たれた刺突は先程までの限界を遥かに超越しており、カイトはちょっとと笑うが決してちょっとの差ではない。亜音速が超音速になる程度には速度が上がっており、そしてそれに伴って破壊力も大幅に上昇していた。
「っと」
金属製の床が大きくめくれ上がり、下の基盤が傷ついたのかバチバチと火花を散らす。そうして着地したカイトに向けて、生物兵器が一瞬で距離を詰めた。
「……」
放たれる刺突を回避して、カイトは身を捩って自らの真横を通り過ぎる腕を再確認する。そうして間近で再確認して、彼ははっきりと巨大化を理解する。
(筋肉の肥大化……リミッターの解除か、外付けの装置類による筋力の増幅という所か)
細長かった腕はやはり細長いままではあるが、先程よりも一回りほど肥大化していた。これがリミッターの解除か、それとも脳内物質の制御等による一時的な筋力の増幅かは定かではないが、少なくとも力は遥かに増大している様子であった。
(自己再生能力も増加している……様子だな)
先程まで血飛沫と上げる、という表現が正しかった損失した左腕だが、今はもう血が少し垂れるという程度だ。ほぼ傷口は塞がり始め、もう数分もすれば完全に断面は癒着すると考えられた。
(流石に自己再生能力はある程度制限させたか……あくまで兵器としての安定性を重要視した量産品か)
先程カイトは浬らに兵器としての安定性として自己増殖機能の重要性を口にしたが、彼はそれと共に自己再生能力についても安定性における重要な指標と考えていたようだ。
(自己増殖と自己再生は共に遺伝子の異常を引き起こし、制御を不可能にしていく一番の要素だ。どれだけ遺伝子治療技術が発展しようと、生物である限りエラーは避けられん以上は必然か)
このドロイドを使う組織もそうだが、この生物兵器を作った組織も地球より数世代以上も上の文明だろう。カイトは先程よりも数割増しの速度と力で自身へと襲いかかる生物兵器の攻撃をいなしながら、その性能に関する情報を可能な限り集めていく。
そうして彼の推測通り、一分と少しで彼が斬り飛ばした左腕の断面は完全に癒着する。そして癒着したと同時だ。失われたはずの左腕の残った部分を、生物兵器が振り上げた。
「っと! そういう事も出来るか!」
機能代償でもあるまいに。脳の損傷を他の部位が補うかのように、魔力が伸びて生物兵器の腕を構築する。自己再生能力を制限している代わりに、そういった器用な芸当が出来るようにセッティングされている様子だった。そうして失われた左腕を模した魔力の腕が振り下ろされて、巨大な傷跡が通路に刻まれる。
「まったく面倒クセェな!」
魔力の腕を回避するや、カイトは再び生物兵器を蹴って吹き飛ばす。とはいえ、今度は彼も逃走させるためにこんな事をしたのではない。故に即座に魔銃を抜き放つと、そのまま一気に引き金を引いて魔弾を放つ。
「……やっぱ効かないか」
最後に知りたかったのは、この状況になった場合に魔力がどの程度通用するか、という点だ。身体能力を増強させる代償、もしくは失った腕に魔力を集中させる代償に全体の防御力が低下する事はないか、と思ったのである。
だが低下どころかどうやら魔力への対抗力は上がっている様子で、先程まで肌には触れられていた魔弾は今は触れる前に弾けとんでいた。
「この性能を持続出来るのなら、凄いもんだが……」
まぁ無理なんだろうな。カイトは起き上がり咆哮を上げてこちらへと肉薄してくる生物兵器に対して、そうジャッジを下す。なぜ無理と判断しているかというと、それが出来るのなら今頃後ろのドロイドと生物兵器の戦闘は生物兵器の圧勝で終わっているはずだからだ。それが出来ないということは、即ち一つの答えを示していた。
(この肥大化か巨大化はこいつにとってリミッター解除ってわけか。つまり自爆めいたもので、ドロイドなんかの使い捨ての兵器相手にするにはいささか使い勝手が悪いってことか)
おそらく何時かは自壊するか、自家中毒のように反動で倒れるのだろう。カイトはそれまで待つべきか、という考えが僅かに頭をよぎったが、それを首を振って追い出す。どれだけ掛かるかわからない物を待つ必要はないし、自壊を待たねば勝てないような相手ではないからだ。
「ふっ、はっ!」
放たれる右腕の刺突をすり抜けるように回避して一閃。右腕を斬り捨てる。更に苦し紛れに左腕を横に振り払う生物兵器の左腕を跳躍して回避して、背後に回り込んで一閃。胴体を背後から完全に両断する。
「ふっ」
再生力は高かろうが、脳を破壊されてはどうしようもないだろう。カイトはずれ落ちる上半身を頭頂部から一刀両断する。そうして、ある程度の情報を手に入れたと判断したカイトはユリィらに合図して、そのままドロイドと生物兵器の殲滅へと取り掛かるのだった。
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