第3973話 雷の試練編 ――三日目・開始――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうしてカイトは途中幾つかの班に強制的に分離させられ、未来のドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。
そうしてたどり着いた中庭では、戦闘用のドロイド達となにかが争った形跡があり、その形跡を負って見付かったのは異形の生物の腕と大量の血痕であった。
が、血痕を追跡することはせず、当初の目的通り金庫の鍵を回収し、しかし生物兵器の存在を危惧した事からこの日の探索はこれで終了。その後は軽い打ち合わせを経て翌日。再びカイト達はテレポーテーション装置を使って軍用エリアへと戻っていた。
「……なんだろ。この静寂がすっごい嫌な物に思えてきた……」
「音楽でも流す?」
「それはやめとく。周囲の物音に気付けなくなりそうだし……」
テレポーテーション装置で移動した軍用エリアで待っているのは、不気味なまでの静寂だ。特に本来は人の往来があるだろう状態で、不自然に人が消えているのだ。
先の生物兵器の事もあり、謎に人だけが消えた光景が不気味に感じられたようだ。というわけで怯えからくる警戒を滲ませる浬の言葉に、ユリィも同意する。
「それが良いと思うよ。まぁ、邪魔にならない程度に音楽が欲しいならどうにかしてあげるから言ってね」
「出来るの?」
「出来るよ、そのぐらいは余裕で」
「ヴァイオリンとか?」
「ああ、そっち」
どうやら浬は自分が音楽を奏でてくれると思っていたらしい。ユリィは勘違いに気付いて思わず笑う。
「そっちの音楽も出来るよ。でも今回言ってるのは普通に音楽を鳴らす方」
「そんなのも魔術で出来るの?」
「音楽って原初の言葉だからね。気分によって鳴き声が変わるように、感情に合わせた音楽を調律で引き出してあげれば、原初の音楽が再生出来るの」
「ほ、ほぅ」
何を言っているかさっぱりだが、どうやらBGMのように音楽を魔術で再生する事が出来るらしい。浬はそう認識する。そしてユリィも別に完璧な理解は求めていない。なので出来るのだ、ということさえ理解されれば十分だった。
「あはは……まぁ、本当に色々な音楽が出来るよ。アップテンポな曲から、ダウンテンポな曲、悲しげな曲、楽しげな曲とか色々と。そうやって、古代は気分を変えたり整えたりしてたって話」
「へー……」
「ま、そんなだから何か言葉としては意味がわからない唄が乗っていたりするのは御愛嬌だ。本当に気分を変えたい時に使うものと思っておけ」
「ふーん……お兄ちゃんも使うの?」
「時々だがな……こういう状況だと……ない方が雰囲気あるか?」
浬の問いかけに、カイトは楽しげに笑いながら周囲を見回す。高度に発達したドロイド達の動きは静かで、物音は一つ立てない。作業用のドロイドには敵対者への攻撃行動は命ぜられていないのかカイト達は一切無視で、それが尚更人だけが消えた不気味さを強く印象付けていた。
「ま、とりあえず下士官用のエリアに向かうぞ。そこで出るか、それとも帰りに出るか……それは行ってのお楽しみだな」
「途中管理人室で休憩してく?」
「道中次第だな」
ソレイユの問いかけに、カイトは笑いながらそう答える。警戒態勢はおそらく引き継がれているだろうから、道中でドロイドの妨害はあるものと考えて良かった。だがどの程度かは未知数で、後は行ってみてしかなかった。というわけで一同は再び軍の下士官用の居住区を目指して進む事にするのだった。
さてそれから調査の開始から一時間ほど。一同は再び軍の下士官用のエリアへとたどり着いていた。というわけで、このエリアにたどり着いておなじみの光景が待っていた。
「はぁ……この人型ドロイドの迎撃戦だけは毎度毎度面倒くさいな」
「警備システム切れれば良いんだけどね」
「ただ切っちまうと絶対面倒くさそうなんだよな、現状」
「だよねー」
まだ気配はしていないが、どこかに生物兵器が潜んでいる事は間違いないだろう。そしてこのドロイド達にとっても生物兵器が敵である事は間違いない。
となると迂闊に警備システムを解除した瞬間、生物兵器達が大手を振って動き回れるようになるだろう。どちらが面倒かはわからないが、少なくとも何もわからないのに解除するのが得策とは思えなかった。というわけで人型ドロイドの攻撃を面倒に思いながらも、手と足は普通に動いて戦闘行動を継続。あっという間に人型ドロイドは全滅となっていた。
「これで最後、っと! ふぅ」
「はい、おつかれさまー」
「あ、ありがと」
最後の一体を片付けた浬に、ユリィが回復薬を差し出す。とりあえずこの程度のドロイドであればカイト達が居てくれる事もあり、難なく浬も対応は出来たようだ。というわけで対応を完了させた一同は、昨日見付けた鍵の掛かった金庫のある部屋へと向かう。
「ここだな」
とりあえず軍の下士官用の部屋にたどり着くまで問題はなし。カイトは少しの警戒を滲ませながらも、口は軽い様子だ。というわけで中に入ると、すぐに鍵を解錠。中の物を確認する。
「これは……はぁ。鍵か」
「ようやく」
「ああ……鍵を開けるための鍵ってのも変な話だが」
浬のため息混じりの言葉に、カイトは笑いながら金庫の中に入れられていた権限をアップデートするための鍵を取り出す。そうして早速権限のアップデートを行うわけだが、カイトがそれを見てなるほどと頷いた。
「なるほどな。次は専門エリアへの立ち入り権限か。流石に一足飛びに将校の権限が必要なエリアへは入らせてくれんか」
「専門エリア?」
「軍の開発やら修理やらを行うエリアだな。あとあって一つか二つだろう」
かなり地図上で行けるエリアが広がったな。カイトはアップデートされた権限で行けるエリアが広がった事に笑う。と、そんな彼が引き続き他の端末にアップデートを行う一方で、金庫の上に放置されていたマスターキーを覗き込んでいたユリィがふと口を開く。
「あ、そうだ。カイト、これマスターキーならあの押収物保管庫とかの鍵って開けられないかな?」
「お、確かにそうだな」
マスターキーがこの金庫のマスターキーであるだけの可能性もあるが、最初にたどり着いた留置場の横にあった押収物保管庫の鍵の掛かったロッカーを開ける事は一度試してみる価値はありそうだった。というわけでユリィの提案に同意したカイトに、浬が問いかける。
「じゃあ、次は一旦あっちの押収物保管庫?」
「いや、そこは今日は少し早めに上がって、そっちに移動する方が良いだろう。司令室を通って逆側だからな」
「あ、それもそっか」
司令室から伸びる通路は四つ。一つはテレポーテーション装置のあるテレポーテーションルーム。一つは今自分達が居る軍用エリア。一つは中央のエリアに通ずる通路。そして最後の一つが、一時的に不審者達を拘束しておく留置場や押収物を保管しておくための保管庫だった。
というわけで軍用エリアからだと何もなかった場合に再び軍用エリアへ戻る必要があり、移動の手間が生ずる。ドロイド達の妨害も受けるだろう。最後についでに、としたのであった。
「まー、そういうことだから次は……っと!」
「なに!?」
「あー……まぁ、こうなるよねぇ」
唐突に響いたなにかが破壊されるような金属音に浬が仰天し、ユリィはやっぱりそろそろだったか、と何処か納得した様子だ。これにカイトは気楽な様子で口を開く。
「ゲームで言ったらフラグを踏んだってこった。浬、戦闘準備を整えて部屋を出るぞ。外は思った通りの光景だろう」
「思った通りの光景って……」
「お客様のご来店だ。で、ドロイド達がお出迎えってことだろう」
半ば察した様子の浬の問いかけに、カイトは外で繰り広げられているだろう光景について言及する。そうして、一同は準備を整えてドロイドと生物兵器の戦いが繰り広げられる通路へと突入するのだった。
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