第3972話 雷の試練編 ――二日目・終了――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域で待ち受けていたのはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造と、再びとなる地球側の面々との合流であった。そうしてカイトは途中幾つかの班に強制的に分離させられ、未来のドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。
そうしてたどり着いた中庭では、戦闘用のドロイド達となにかが争った形跡があり、その形跡を負って見付かったのは異形の生物の腕と大量の血痕であった。が、血痕を追跡することはせず、当初の目的通り金庫の鍵を回収し、しかし生物兵器の存在を危惧した事からこの日の探索はこれで終了。一旦拠点に戻ってきていた。
「うぃ!? せ、生物兵器!?」
「ああ……こんな腕が落ちてた」
「うぇぇ……?」
いつもの流れではあるが、一日探索を終えた後はその後は情報共有だ。一日の探索を長くとも六時間と定めたのも、その後に情報共有と各方面の対策の相談があったからであった。というわけで仰天した様子のソラに、カイトはモニターへと中庭に落ちていた生物兵器の腕を表示させて共有する。
「こんな腕だな……想定としては生物兵器を使う何かしらの敵対組織の襲撃を受けた、もしくは生物兵器にも近い存在と敵対している、という所か。アイナ、そっちの自然エリアにこういう奴は居たか?」
「まだ見ていませんね。残骸も同じく……ただこちらにも似た痕跡はありましたから、警戒はしている所です」
「ということは、高確率で他のエリアにも居そうだな」
現状生物兵器と思しき存在の痕跡が見付かっているのはカイト達が担当する軍用エリアとアイナディス達が担当する自然エリアの二箇所。ソラの担当する向上エリアと瞬の担当する研究エリアはまだ痕跡は見付かっていなかったようだ。というわけで、そんな推測にソラが問いかける。
「というかこういうのってお決まりは研究エリアから脱走した実験体とかそういうのじゃないっすか?」
「む……そ、そう言われれば確かにそうだな……まぁ、まだ流石にそういう重要エリアにたどり着けていない、という所はあるが……」
まだ生物兵器の痕跡は未発見という瞬だが、他がそうであるようにまだまだ調査は道半ば。生物兵器などを開発していたとしても、それを行っていただろう最重要機密のエリアにはまだまだ遠かった。というわけでそう推測する瞬に、ソラはなるほどと納得を露わにする。
「あー……流石に生物兵器なんて開発は一番重要なエリアっすかね」
「だろう。生命倫理というか、倫理的にというか……生物を弄って兵器に、というのはやはりここまで発達した文明でも忌避されるんじゃないか……と思うぞ」
「どーなんっしょうね。ここまで発達した文明だとそれこそ腕を生やすとか普通に出来そうっすけど」
「出来るは出来るだろう……だが医療分野への応用と軍事分野への応用は話が違う。よほど倫理観を失くした文明ならまだしも……いや、倫理観を失くした文明ってのは基本は内部から崩壊する。それは多分、どの世界でも変わらんよ」
「何故そう言い切れるんだ?」
どこか呆れるように笑うカイトに、瞬が首を傾げる。が、これはどうやら彼以外にもアイナディスも同様の意見だったようだ。
「エネフィアの歴史がそう示しているから、ですよ。皆さんもマルス帝国の末路はご存知でしょう?」
「そういうこと。地球でもハプスブルク家や中華王朝の幾つかを見てれば、末期と呼ばれる国々はどれもこれも似たような末路を辿っている事がわかる。文明が倫理観を失くしちまったら最後、それに耐えられなくなった連中の反乱を招いて王朝の交代を招く……そういう意味であれば、日本は異質だし異常なんだよ」
一つの王朝が数千年も継続するなぞ、地球、エネフィア、更にはセレスティア達の世界のどれを見てもあり得ない特異点とさえ言える国家だ。それを基本として考えているからこそこのおかしさには気付けなかったのかもしれないな。カイトは先程より苦笑いの色を強めながら笑う。
「ま、そういうわけでな。技術の発展により倫理観を失った……いや、それを補えるだけの技術を手に入れたが故に失われた部分はあるだろうが、総体としてそういった部分……生命倫理に関わる部分は秘匿されて然るべきだろう。大っぴらにはされんよ」
「なるほどな……確かにそうだろうな」
それならまだ自分達が遭遇していない事にも筋が通る。カイトの指摘に瞬は道理を見て、納得を露わにする。とはいえ、そんなカイトであったが、同時に納得もあった。
「だがそうか……確かにそっちから逃げたパターンはあり得るな。そうなると当初想定されたこの中央区画での合流以外にも、どこかで裏道のように合流する方法があるのかもしれん」
「どういうことですか?」
「もし、という話だが……この研究エリアから生物兵器が逃げ出して暴れた結果が現状だと想定すると、生物兵器は当然この中央エリアを通過せず移動している事になる。もしくはこの中央エリアをゲート以外から移動しているという可能性だな……こっちよりエリア間を移動しているという可能性の方が高そうだが」
「確かに、あの生物兵器とやらがゲートを上品に通るとは思えませんね」
カイトの指摘にアイナディスは少しだけ面白そうに笑いながらも、その可能性の方が高そうだと納得したようだ。とはいえ、そうなるとそうなるで気になる事があった。
「でもよ、そうなると俺達もその場所を通って合流出来るって事じゃないのか?」
「そうなるな……さて……どうするものか」
「というよりも、そもそもの話として地図にない通路やらもあるんじゃないか?」
「「「ん?」」」
瞬の問いかけに、その他一同が小首を傾げる。これに瞬はそれを見付けているのが自分達だけと理解。彼らが発見した物を報告する。
「いや、今日の探索の際だが、偶然崩れた一角があってな。いや、正確に言えば崩れた一角を迂回していた際に別の崩れた一角を見付けた、というだけなんだが……」
どうやら端末の情報は常にアップデートされる仕組みらしく、通れなくなっているエリアがあればその部分は薄暗く表示されるようになっていたらしい。瞬の表示した研究エリアの地図では一部の通路が崩壊し、通れなくなっている事が示されていた。
「ドロイド達の残骸があったから、それが爆発した事で崩落していたらしい。それで迂回路を探していたんだが、ちょうどこのあたり……か。道がないはずなのに、道があった」
「なるほどな……まぁ、軍事基地も兼ねているからあるかとは思っていたが。やっぱり公表されていない通路はあるか」
おそらく自分達が保有しているのは軍の下士官やらなにも事情を知らない兵士に公開が出来る地図という所で、より重要な区画などについては未表示になっているか、隠されていたらしい。とはいえ、カイトは軍事の側面からあるだろうとは思っていたようで、苦い顔はしていたが、大きく驚いてはいなかった。
「確かにそういう地図に記載されない通路なら、鍵が掛かってない可能性はありそうだな。そういう所を使うのは基本非常時だろう。そんな時に鍵がないと通れない、だと面倒この上ない。それに研究エリアだと特にそういう面倒な所は多いだろうな」
「だろうな……どうする? 探る事も出来るが」
「頼む。危険ではあるから、必要ならすぐに撤退しろ」
「わかった」
カイトの指示に瞬は一つ頷いた。そうして、この後も二時間ほど掛けて各エリアの情報を共有し、次に向けての対策を練っていく事になるのだった。
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