第3971話 雷の試練編 ――鍵――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。
そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。
というわけでカイトは途中人型ドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。そうしてたどり着いた中庭では、戦闘用のドロイド達となにかが争った形跡があり、その形跡を負って見付かったのは異形の生物の腕と大量の血痕であった。しかしこれを追う事はせず、カイト達はひとまず最初の目的地である倉庫を探していた。
「こっりゃまた、ひどいな……」
「何があったの、これ……」
たどり着いた小屋に対して苦笑いのカイトに対して、浬はかなり怯えた様子を見せていた。とはいえ、彼女の反応が普通だろう。たどり着いた小屋の扉はひしゃげ、壁には大きな引っかき傷が刻まれていた。明らかに、この近辺で生物兵器との大規模な交戦が行われた様子であった。
「ユリィ、これ中見れるか?」
「やってみるねー」
カイトの求めに応じて、ユリィが浬の肩から降りて浮かび上がる。そうして中を確認するべく少し上の方にあった引っかき傷の中でも一際を大きい亀裂から、中を覗き込む。
「おあー……こりゃまた中も無茶苦茶な様子で」
「死体は?」
「いぃ?」
「いや、そりゃこの状況なんだから死体の有無は問いかけるだろ」
「いや、そんな平然としないでよ……」
これが単にそう問いかけている冗談の類ならば良いが、今回はそもそも何者かがこの倉庫をマスターキーで解錠して、倉庫作業をしていたからそれを追いかけてきた形だ。そして戦闘行為の形跡を考えれば死体があるというのは冗談にもならなかった。というわけで盛大にしかめっ面の浬に、カイトは苦笑いだった。そんな二人の一方で、ユリィが首を振る。
「ないねー。幸い誰かさん、ここでは死んでないみたい……まぁ、連れ去られた可能性ってのもあるけどね」
「考えたくない」
「あはは……それで倉庫の中にカードキーか何かはありそうか?」
「あったよ。多分あれっぽい」
「よっしゃ。じゃあ、さっさと中を回収しちまうか……ソレイユ、そのまま周囲の警戒は任せた。オレは中からカードキーだかマスターキーだかを回収しちまう」
「うん……今の所、この近辺になにかが居る形跡はないけど……」
「まー、時間の問題だろ」
ソレイユの返答に、カイトは腰だめになって刀を構える。流石にひしゃげた扉は動く様子がなく、壊さないと出入り出来そうになかった。
「ふっ」
二度、剣閃が翻り扉が幾つかに分断されて、支えを失った部分が崩れ落ちて音を上げた。そうして中が露わになって、カイトが倉庫の中を覗き込む。
「よし……あぁあぁ。外から見ても思ったが。こりゃまた」
「凄いでしょ」
「ああ」
今度はカイトの肩に着地したユリィの問いかけに、カイトは盛大に苦笑いだ。演出だとはいえ、かなり派手に壊されていたようだ。中にはおそらく肥料だと思われる土が散乱し、メタルラックやスチールラックの類も倒壊。掃除道具なども多くが壊れ果てて散乱していた。
「この壊され方だと、やっぱり中からやられてるな、これは」
「ほら、あっちの逆側の壁。中からやられてるっぽいから確実だと思うよ」
「あー」
先程ユリィが覗き込んだ正面側の壁に入っていた亀裂は内側に向けて壁が広がっていたが、それとは逆側。倉庫の奥の方に刻まれていた亀裂は逆に外側に広がるような形で刻まれていた。他にも何個かの亀裂は外側に向かって広がっており、中で交戦が行われた事が如実に示されていた。
「こりゃ、某は助かったのかね」
「んー……まぁ、とりあえず血はないからここでは、大丈夫だったんじゃない?」
「ここでは、か」
確かに見たところ大量の血痕は見当たらず、戦闘したにしてもとりあえず無事だった事は間違いないだろう。というわけで、カイトはひとまず生物兵器も生き残りもいないと判断して、倉庫へと一歩踏み入れる。
「……うん。こりゃ探すのは無理そうだ。で、ユリィ。マスターキーと思しきものは?」
「あれ」
「ああ、あれか」
ユリィの指さした方向は、何も倒れていない一角だ。そちらにぽつんと裏向きの小型端末が置かれていた。まぁ、置かれていたというよりも落ちてそのまま拾う暇がなかった、と言われた方がしっくり来る様子ではあった。というわけで、カイトがそれを拾い上げる。
「どう? リンク出来そう?」
「……こいつは端末のリンク出来ないみたいだな。マスターキーの権限は付与できません、ってエラーが表示された」
「あ、駄目なんだ……でも正解は正解と」
「だな……とりあえずこいつを持って下士官用の居住区に戻りたい所ではあるが……」
「きっついんじゃないかなぁ」
カイトのボヤキに対して、ユリィが苦笑い混じりに笑いながらそう答える。そしてそんな彼女に、カイトもまた似たような顔で同意した。
「だーろうな。帰り道、変な仕掛けがされてないと良いんだが」
「どういうこと?」
「帰りは怖い、ってこった」
「童謡かなにか?」
「そんなところだ」
流石にユリィに日本の童謡をすぐに思い出せ、と言った所で無理がある。まぁ、そういってもこれが日本の童謡やらそういう所なのだろうとは思い至った様子ではあったので、やはり地頭は賢い様子だった。というわけで長々と調査していて生物兵器が戻ってきても困る、と二人は目的を達した時点ですぐに倉庫から外に出る。そんな彼らに、浬が問いかけた。
「あったの?」
「ああ……こっちは何もないな?」
「今の所は、だけど」
「そうか……よし。とりあえず今日の所はこれで完了だ。次は明日だな」
「あの下士官? の所には戻らないの?」
「あのドロイド達の妨害は間違いないし、さっきの生物兵器の類も何処かに潜んでいる事は間違いなくなった。となると、ここから金庫を開けたら次にまたフェーズが進むんだろう。ゲームっぽいが、ゲームっぽいならお前はこの状況でまずどうする?」
「セーブ」
「だろ? 明らかこれからなにかが起きますよ、つってんのにセーブもせずに突っ込むかって話。で、今は時間としちゃ夜中の12時。夜中11時には終わろうって決めてたのに時間が伸びちまってるって状況だ。ならもうセーブして寝て、また明日やろうってなるだろ」
「なるほど」
即答する浬に、カイトはだから戻るという事を語る。そしてこう言われると浬も全く反論が出来なかったようだ。まるで目から鱗と言わんばかりの様子で驚きながらも納得していた。
「ってわけで、今日はもう戻って明日朝から金庫を解錠。良いな?」
「うん……でもそれだったら明日は来るかもかぁ……」
「そこはしゃーない。諦めろ」
おそらく今日生物兵器の残骸があったのは完全にこれから来るぞ、という見せるためのものだろう。カイトも浬もそう理解していた。というわけで、一同はこの日の探索を切り上げて、そのまま拠点へと帰還するのだった。
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