第3970話 雷の試練編 ――中庭――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。
そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。
というわけでカイトは途中人型ドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。
「……なーんかさーっきからずーっといやーな予感しかしないんだけど」
「奇遇だな、オレもそんな予感はしてる」
昼食を食べ終えて、更にその後再び妨害を受けながらも中庭へと進んだ一同であるが、地図によると中庭まで後少しとなった所で呟いた浬に、カイトもまた笑いながら同意する。さて何故そんな事を言うかというと、中庭を見える窓に原因があった。というわけでカイトの肩の上に腰掛けるユリィが、窓を見て笑う。
「明らかに戦闘があったっぽいよねー、これ」
「何があったらガラスにヒビが入ってるのよ」
「さぁなぁ……想定される状況としてはなにかの襲撃を受けたっぽい所はあったが。ここに来て一気にその色合いが強くなってきたな」
ここから先、どこまで地図通りに進めるだろうか。カイトはヒビの入ったガラスらしき窓と、点滅を繰り返す中庭のライトを見て苦笑いだ。明らかに中庭で自分達ではないなにかとの戦闘が繰り広げられた様子。そうとしか思えなかった。
「さて……何が来るか」
どこか舌なめずりでもしそうな雰囲気で獰猛に笑いながらも、カイトは武器を双銃から刀へと切り替える。そうして一歩分だけ歩速を速めて浬らの盾となるべく最前列へと移動。中庭に続く扉の前に着く頃には完全に戦闘モードに入っていた。
「ユリィ。初手、オレが中に突入する。扉を。ソレイユはいつも通り速射で対応を」
「「ん」」
「お兄ちゃん、私は?」
「ん? お前は……まぁ、身を守ってろ。ちょいとお兄様はこれから戦闘に入る」
「えぇ……?」
どこか気楽なように答えているが、身に纏う闘気は十分に浬が気圧される領域だ。故にそれ以上の問いかけが飛ぶ事はなく、浬も言われるがまま身を守る事に徹する事にする。そうして熟練の冒険者達三人はその一方で数秒で隊列と連携を定めると、即座に扉を開いてカイトが中へと突入する。
「っ」
たんっ。ほぼ無音で床を蹴り、中庭へと突入。カイトは息を殺し、耳を澄ませて周囲を確認する。
(周囲は薄暗いが……やはり破壊の痕跡がある。それにこれは……ドロイド達の残骸か。壁も……かなり抉られているな……だが、これは……)
やはり中庭は戦闘行動により荒れ果てており、明らかにドロイド達がなにかが争った形跡があった。そうして壁の痕跡に何かの違和感を感じていた様子のカイトであるが、そこにユリィが念話で問いかけた。
『カイト、どう?』
『明らかに戦闘してるな。ドロイド達の残骸がある……後は面倒な事にこりゃかなり強引な破壊もしているらしい』
『入って大丈夫?』
『大丈夫じゃね? 一応、敵がまだ見受けられるわけではないからな』
ユリィの問いかけに、カイトは半ば肩を竦めるようにして中庭への侵入を許可する。そうして他の一同も中に入ってきて、周囲を確認する。すると見えたのは、見るも無惨な戦闘用ドロイド達の残骸の山であった。
「……なに、これ。無茶苦茶壊れてる……」
「しかもあーんまり良くないねー、この壊れ方」
「どういうこと?」
なにかを見抜いたらしいソレイユの呟きに、浬が小首を傾げる。しかしそんな彼女の言葉に、カイトはため息混じりに同意する。
「お前もそう思うか?」
「うん……これ、多分強引に引き千切った後だよ」
「だろうなぁ……」
ソレイユが近付いて見ていた個体に、カイトも近付いていく。そうして彼は浬にわかるように、ちょうど肩の部分を指さした。
「ここ、わかるか?」
「なに? ただ割れてるっていうか壊されてるっていうか……」
「剛力で握った跡だろう。ここを握って、腕を引き千切ったんだろう……こーんな風にな」
まるでやって見せるかのように、カイトは右手で人型ドロイドの肩を掴んで、喪失している人型ドロイドの右腕を引き千切るようなジェスチャーを行う。
「なにそれ。ゴリラにでも襲われたわけ?」
「ゴリラなら良いけどな」
「想定としては魔物かな?」
「いやぁ……魔物だったら有り難いんだが」
「「「え?」」」
どこか苦笑いにも近い様子で笑うカイトに、どうやらこちらは想像が出来なかったらしいユリィらまで含んで目を丸くする。とはいえ、これにカイトは無理もないと思っていた。
「バイオロジカル・ウェポン……もしくは簡略化してバイオ・ウェポン。生体兵器とも生物兵器とも言われるあれだ」
「えぇ……? そんなのまで居るの?」
「いやぁ、ドロイド……機械の反対となりゃ生物兵器だろう。それにあの壁」
「「「……」」」
盛大に顔を顰める浬に、カイトは論より証拠とばかりに先程確認しようとして、その前にユリィの問いかけがあったので確認せずに終わっていた壁の傷を指し示す。そこに刻まれていたのは、並行に刻まれた大きな四本の筋。それはちょうど、獣かなにかが鋭利な爪かなにかで引き裂いたかのような傷跡であった。
「明らかにこれはドロイド達の傷じゃない。ドロイド達が刻むにしても並行に四本にはならないだろう……となると、答えは一つ。獣かなにかの爪だ」
「でも四本かぁ……なんだろ?」
「知らん……が、どうやらこっからは面倒な事になりそうだな」
今までぬくぬくとさせて貰っていたが、ここからは本格的に襲撃を受けた軍事基地という想定で攻略をしないといけなさそうだな。カイトは少しだけ顔を顰めつつも、改めて周囲の観察に移る。
(……明らかに戦闘した痕跡はある……ただ破壊されたのはドロイド達だけ。さて……)
生きているのならば逃げたのか、それとも更に中庭の奥で死に絶えているのか。カイトは中庭の全貌を確認するかどうか、少しだけ思考する。
(ライトが砕けているから、その暗闇に息をひそめているか……いや、それはないな。オレの探知を逃れられる生物兵器はない……はずだ)
となると、おそらくあるのは死体か、この場からは逃げ延びたか。カイトは生き物の気配は感じられない事から、そう判断する。
「ソレイユ。周囲は?」
「……」
「オーライ」
自身の問いかけに顎で暗闇を指し示すソレイユに、カイトは刀を何時でも鯉口を切れるようにしながらゆっくりと暗闇へと移動する。そうして、彼は盛大に顔を顰める。
「……うえ」
『なにかあった?』
「まぁな……浬、お前は来るなよ。死体はないが……見て気持ちの良いもんじゃない。ユリィ、浬のおもりは頼む」
『……わかった』
『りょうかーい』
死体はないが、見て気持ち良いものではない。つまり、なにかが転がっていた事は間違いないという事なのだろう。というわけで浬をユリィに任せ、ソレイユを自身のサポートとしてカイトは身を屈めて落ちている物を確認する。
「大量の血痕と……腕か。しかもこれは……青い血? いや、青黒いというか、赤と青と黒が入り混じったというか……うあ……キモチワル」
転がっていたのは、見たこともない生物らしいなにかの腕だ。指は非常に細長く、先端は非常に鋭利に尖っている。本数は五本だが、人の手と同じような形状だ。親指以外の四本で壁を斬り裂いた、と考えられた。と、そんな腕の残骸をカイトは持ち上げて、断面を確認する。
「案の定……か。こりゃ生体兵器の類だな」
『何があったの?』
「機械……という所か。色々と強化されてるな、これは。多分コントロールか、モニタリングのためだろう……ん?」
ユリィの問いかけに応じたカイトだが、壁際を見て少し気になったらしい。地図を表示して外を確認する。
「ソレイユ、そっちからあの壁の穴は見えるか?」
『見えてるよー。なにかあった?』
「血痕があっちに続いてる……あっちに逃げたな。外じゃなくて助かった」
『……あ、ホントだ』
カイトの指摘に、ソレイユも腕の落ちていた周辺の血溜まりから血痕が壁の穴に向けて伸びている事に気が付いたらしい。というわけで、そんな彼女がカイトへと問いかける。
『どうする? 行っちゃう?』
「いや、本来の目的の倉庫を探そう。この様子だとどうなってることやら、だが」
『あ、そっか』
そう言えばそもそもここに来たのは、下士官用の居住区にあった鍵の掛かった金庫を開けるためのマスターキーを探しに来たのだ。別に生体兵器を追跡する必要は今の所なかった。というわけで、ソレイユがすぐに教えてくれた。
『そこから斜め左後ろに倉庫っぽい小さな小屋があるよ。壊れてないから、まだ比較的無事っぽいかな。あ、でも扉は結構ひしゃげてるっぽい。駄目かも?』
「あれか……よし。まぁ、小屋なら不意打ちを受ける事もないだろう。とりあえず小屋で合流しよう」
ここから先、ドロイド以外にも生体兵器も居るようだ。そうなると戦力を分けるのはあまり得策ではないだろう。カイトはそう判断して、中庭での別行動は避けて倉庫とやらへと移動する事にするのだった。
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