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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3969話 雷の試練編 ――昼休憩――

 瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。

 そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。

 というわけでカイトは途中人型ドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。

 だがそうして中庭を目指す最中、下士官用の居住エリアでの人型ドロイドとの交戦により警戒レベルが上げられたのか、道中で四脚ドロイド達の妨害に遭遇。中継地点として設定した管理人室に到着したのは、予定を大きく超過した時間であった。


「……」

「なに、その顔」

「変なかおー。お腹すいた?」

「うぐぅ……」


 元々予定より遅れている所に、管理人室に入って軽く調べた後だ。ただでさえ遅かった昼食の時間は更に遅くなってしまって、ソレイユが空腹を問いかけても無理はなかった。


「いや……何時見ても兄のエプロン姿が様になっているのがなんとも言えないというか……」

「なんだよ。オレだって料理するってんならエプロンぐらいすらぁな」

「いや、そうじゃなくて……その手際の良さがなんというか……」


 自分の兄とは思えない手際の良さだ。包丁がまな板を叩く音は小気味よいもので、かなり手慣れた感じがしていた。


「うがぁ……やっぱ料理勉強するべきかなぁ……」

「あはは……そりゃ、料理出来るに越したことはない」

「……ふと思ったんだけど。お兄ちゃんここに居るよね」

「居るな」


 何を当たり前な。浬の問いかけにカイトはわずかに苦笑する。そんな彼に、浬が何処か怯えるように問いかけた。


「お兄ちゃん以外の所って……ご飯どうするの?」

「そりゃ、各々が作るだろ。別に料理出来ないわけでもなし」

「……ソラさんと瞬さんも?」

「先輩は出来るな。軽いものだけだが……ソラはまぁ、出来んが……つっても軽い手料理ぐらいなら出来るか。あんま包丁は使いたくないらしいけどな」

「神剣まで使ってるのに?」


 明らかに包丁と神剣なら神剣の方が扱いに困りそうなのだ。それなのに、包丁の方が扱いに困るというソラに、浬は少しだけ面白そうだった。


「神剣と包丁はやっぱり使い勝手が違う。オレも調理用のナイフと包丁は使い勝手が違うと思うしな」

「そうなの?」

「ああ……懐かしいな、今思えば」

「昔はナイフで切ってたねー、そういえば」


 どこか懐かしげに、カイトの言葉にユリィが応ずる。


「昔って……包丁なかったの?」

「旅の道具の中に包丁なんて持ってけないよ……にぃでもなければ。お風呂も普通は入れないからねー……にぃでもなければ」

「なんでお兄ちゃんなの……」

「全体的に冒険者の生活水準というか、旅の最中の水準を向上させたのがカイトって言われてるからねー」

「なにやってんの……」

「普通に考えてもみ? オレみたいな現代っ子が異世界飛ばされたんだぞ? そりゃきっついぞ」


 今思い出しても嫌になる。そんな表情でカイトが肩を落とす。というわけで、しかめっ面で当時の事を口にする。


「風呂に入れないのは当たり前。一着着回しは当然……地獄を見たわ」

「あはは……最初の方愚痴酷かったよねー。皆にはそんなもんだ、って笑われてたけど」

「あはは……はぁ。懐かしい思い出だわ。いや、オレは笑ったら駄目だけどさ」


 迷惑を掛けた側だ。笑って話すべきではないだろうが、もしここにあの当時の皆が居たとしても笑い話としてくれただろう。カイトはそんな事を思えばこそ、どこか懐かしげに笑っていた。


「でも今更だけどあの当時からカイト色々と応用力はすごかったよねー」

「そうなの? 私がにぃ達と出会った時ってもうあの事件の後だったけど」

「そうそう。あの当時から結構綺麗好きだったし」

「いや、あれはあの当時のエネフィアがやばかっただけだぞ。一般家庭にも風呂がないってどうなんよ」

「うへぇ……」


 今から三百年も昔の事だとは聞いているが、私も無理だ。三百年も昔の事を昨日のことのように語るカイト達に、浬は軽くしかめっ面だ。そんな事を話していると、あっという間にカイトの料理が終わったようだ。

 なお、いつもなら手伝うユリィ達も流石に時間がない、かつ戦闘も考えられる、と手早く出来る軽食を作る事にしたので、カイト一人で十分という事で何もしていなかった。


「ほら、出来たぞ。ベーコン・レタス・トマトのサンドイッチ。それと焼いたカリカリに焼いたベーコンオンリーのサンドイッチ。後は変わり種にイギリスの伝統的なサンドイッチことキューカンバーサンド。つっても流石に伝統的な、じゃなくてアレンジしてサワークリームやらで味は整えてるがな」

「「「いただきまーす」」」

「はい、どうぞ……で、後は最後にいちごにみかん、ちょこっとチョコレートソースを加えて生クリームを挟んだデザートだな」

「だからなんでこの兄はこんなおしゃれなの……」


 あむあむあむ。やはり昼を大きく過ぎた時間だったからか、お腹は空いていたらしい。兄のおしゃれさに釈然としない感で文句を言いながらも、浬は勢い良くサンドイッチをがっついていた。というわけで彼も軽くサンドイッチを摘みながら、一緒に淹れた紅茶を口にする。


「あはは……ふぅ」

「……」

「なんだ?」

「なんかすっごい様になってるんだけど」

「そうか? まぁ、紅茶は飲み慣れてはいるが……ほらよ」

「あ、ありがと……い、一応貴族なんだよね?」

「い、一応って……」


 確かに浬の前では『天音 カイト』に戻っている気がしなくもないから、貴族に見えないでも不思議はないかもしれない。カイトは浬の反応に少しだけ嬉しそうな様子があったが、だからこそはっきりと頷いた。


「これでも貴族だよ。だからなんだ?」

「いや、その割には紅茶を淹れる姿が様になってたっていうか……貴族だったらメイドさんとか執事が一緒に居て、その人が淹れてくれない?」

「そりゃな。ハウスメイドは何人も雇ってるし、パーラーもだな」

「雇ってるっていうかなんていうか」

「まー、ウチの最初なんて行く宛が無い奴を雇ってただけだからな!」


 わっはははは。カイトは自分の所のメイド達の前職を思い出して、楽しげに大笑いする。


「最近入ったあのリトスちゃん? あの子も特殊なんだっけ?」

「そーそー。殺し屋ギルドからパクってきた……アルミナさんが、だけど」

「いぃ!? こ、殺し屋!?」

「別に地球にもギルドって名乗ってないだけで殺し屋の組織の一つや二つあるだろ。驚く必要もない」

「え、えぇ……? そ、そんな映画じゃないんだから……」


 そんなの初耳なんですけど。そんな様子で浬が顔を顰める。が、これにカイトは呆れ気味だ。


「そりゃー、マフィアだヤクザだなんだ、っていりゃ殺し屋組織の一つや二つ存在してるだろ。噂ぐらいは聞いてる」

「ふーん……」


 噂ぐらいは聞いている、ということは直接相まみえた事はほとんどないという事かな。浬は特に興味もない様子の兄にそう思う。


「で、でもなんで殺し屋の人がメイドなんて?」

「色々とあったんだよ。まぁ、アルミナさんにたーっぷりわからされた後だったっぽいし。殺し屋ギルドがクソだ、つって転職したわけだけどな」

「多いよね、ウチ。元殺し屋とか……主にカイトが連れ帰ってきて教育してたのが、なんだかんだメイドとか執事になってるわけだけど」

「殺し屋のガキとか面倒くさくてしゃーない。殺したら殺したで飯がマズい。かといって放り出すのも飯がマズい。捕まえて真っ当な道に戻すってのが一番だ。そのために姫さんに孤児院任せてるんだしな」

「……」


 やはり異世界は異世界らしい。兄はおそらく正しい事をしているのは居るのだろうけど、と思いながらも、浬はなんと言えば良いかわからなかった。というわけでこれ以上変な話を聞かされる前に、と話題を変える事にする。


「え、えーっと……あ、ユリィちゃんにも専属のメイドさんとか居るの?」

「あぁ、私? 私にも一応専属っぽいのは居るけど……」

「お前に専属居たの?」

「え? あぁ、ごめん。秘書……メイドも兼任してるって前に言わなかったっけ?」

「あ、あぁ、あの二人か。お前の専属メイドなんて見た事なかったからビビったわ」


 今はソレイユと一緒に居るからかおちゃらけた様子であるが、本来は学園長なのだ。そしてエネフィア最大にして最高の教育機関の一角と言われるマクダウェル家の魔導学園である。その忙しさは言うまでもなく、必然として彼女にも秘書の一人や二人居ても不思議はなかった。


「にぃは……確か椿とユーディトさんだっけ?」

「ユーディトさんをオレの専属にしてくれるな……本当に。あと、あの人はフロイライン家のメイドだ」

「でも確かカイトの世話役じゃなかったっけ? ユーディトさん」

「ほんっとに要らん事思い出させんでくれ……」


 あの人が専属になると本当にこれ幸いと好き勝手にし始めるから。カイトは何時これ幸いと自分の給仕やら何やらに手を出そうとしかねないユーディトを思い出してため息を吐く。


「だ、誰なの、そのユーディトって……」

「オレがフロイラインって家に拾われた事は前に教えたな? そこのメイドさん。オレがこっちに来たばっかりの頃に世話役だったんだよ。一番腕が良いってことでな……実際腕は良いんだよ、腕は。ウチのメイド達も古参は全員あの人に教えられてるからな。ある意味、ウチのメイドの元祖だ」

「じゃあ、凄い人なの?」

「凄い人かと言われれば……」

「まぁ……凄い人だけど」

「……まぁ、ねぇ……」


 ソレイユちゃんさえそれなのか。浬は三人揃って凄い事には同意するが、同時に色々とアクの強い人物でもある事をその反応から理解する。とはいえ、今度はこの話題はこれ以上カイト達が深く話したくなかったらしい。カイトがすぐに話題を切り替えた。


「ま、料理の腕以外の家事全般、あの人はオレ以上だ。居てくれりゃ助かるのも事実ではあるがな。ま、居ない人物の事は気にするな。ほら、スープが冷めちまうし、紅茶も冷める。先に食べちまえ」

「あ、うん」


 強引に話題を切られた事は浬も理解したが、どうせ関わる事もない、と気にするつもりはなかったらしい。というわけで、この後は色々と話しながら軽い昼食を食べて再び中庭を目指す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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