第3968話 雷の試練編 ――管理人室――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。
そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。
というわけでカイトは途中人型ドロイドに阻まれながらも、なんとか下士官エリアにて鍵の掛かった金庫を発見。謎解きゲームのように隠されていたメモを頼りに、居住エリアから少し逸れた所にある中庭を目指す事になっていた。
「さぁーて、楽しくなってまいりました!」
「楽しかないわ!」
「楽しいと思うひとー!」
「「はーい!」」
「えぇ……?」
本当に楽しげなカイトの問いかけに応ずるユリィとソレイユの声に、浬は思わず愕然となる。さて、何が起きているかなのであるが、それは至極簡単であった。
「あ、浬! 頭下げて!」
「っ!」
ユリィの言葉に、浬はただ言われるがまま身を屈める。そしてその瞬間、彼女の頭上を魔弾が通り過ぎる。
「にぃ! 弾くよ!」
「あいよ!」
T字路の逆側へ移動する瞬間、T字路の向こう側へとソレイユが一撃だけ巨大な魔力の風を纏う矢を放つ。そうして放たれた矢は一直線に直進し、進行を妨害するように配置されていた何体もの四脚ドロイドを弾き飛ばす。そしてそこに、カイトがT字路のドロイド達がひしめく通路へと身を乗り出す。
「おらよ!」
身を乗り出すと共に、弾き飛ばされて宙を舞う四脚ドロイドを魔銃で撃ち貫く。そうして数体撃破した瞬間、まるで返礼とばかりにマシンガンの如き勢いで魔弾が雨あられと放たれる。
「おっとぉ! 浬!」
「わかってる! カード!」
カイトの言葉に応じて、浬が三枚のカードを通路へと投げる。そうして三枚のカードが共鳴して生み出されるのは、カイトの腰の高さほどの岩の壁だ。それは通路を真横に封鎖するように生じて、しかし魔弾の雨により毎秒単位で削られていくが、そこにすぐにユリィがフォローに入る。
「はいよ! カイト!」
「あいよ!」
浬により生み出された岩壁を更にユリィが補強して、そうして出来た簡易の防壁を盾にカイトがスライディングをしながら通路へと進撃。岩壁に背を着けると、一瞬だけ深呼吸。魔弾が岩壁に激突する音と魔力の流れから、刹那に生ずる魔弾の止む瞬間を見定める。
「さって……これが通用するかどうか」
いくら高度に発展した文明が作ったドロイドだとて、魔弾を常に撃てる事はない。刻まれた刻印やそれを刻む素材に蓄積する負荷。魔力を貯めておける容量。そういったものからどうしてもわずかなタイミングだけ攻撃が停止してしまう。その間隔を見定めていたのである。
というわけでその停止のタイミング、もしくは薄まるタイミングを見定める彼だが、その手には一つの粗悪な魔石が握られていた。と、そんな彼にソレイユが声を掛ける。
「にぃ!」
「あいよ!」
どうやらソレイユはカイトの意図を読み抜いたらしい。そんな彼女の呼びかけに、カイトは楽しげに魔石を放物線状に後ろへと投げる。そうしてふわりと浮かんだ魔石に、直後ソレイユの放つ矢が命中。一気に通路の先へと押し出した。
「っぅ! 爆弾!?」
「うぅん! 単に魔石に限界まで魔力を込めただけ! カイトの得意技の一つ!」
「こんなん得意技にしてくれんな! さて、効果の程は……」
ユリィの茶化すような言葉に笑うカイトが、そろりと爆炎が晴れた通路の先を覗き込む。するとどうやら、先程の爆発で大半のドロイド達が吹き飛ばされたようだ。まだかすかに動く個体も大半が動作不良を起こしているのか、ガクガクと震えるように動くだけであった。
「ま、これで問題ないか」
後は魔銃で一体一体処理していく程度で大丈夫だろう。カイトは岩壁から身を乗り出すと、まだかすかに動きを見せているドロイド達に向けて双銃の引き金を引いていく。そうして十数秒もすれば、全ての個体が動きを止めていた。
「こんなもんだな。とりあえず……ふぅ。まー、戦闘しちまったらこうなるか」
「やっぱり考えた通りだったねー」
「まぁなぁ……普通に侵入者が撃退された事が確認されない限り警戒態勢が解除、なんてありえんしなぁ」
あの下士官用の居住エリアでの交戦は避けようがなかったが、その結果案の定と言うべきか各エリアでも警戒態勢が上げられてしまったようだ。
通路の各所には今のようにドロイドが配置され、侵入者の迎撃も行われるようになってしまっていた。というわけでドロイドを撃退しつつ移動をしていく事になるのだが、やはりそうなると想定よりかなり遅い時間に管理人室に到着となっていた。
「なんとかたどり着けたわけだが」
「つ、疲れた……」
「あはは……とはいえ、思った以上に時間が掛かっちまったか」
やはり試練。一筋縄ではいかないとは思っていたが、攻撃の苛烈さであれば風の試練以上とは言えただろう。もちろん、あちらはあちらで不可思議な試練が色々とあったので一概に比較出来るわけではないが、浬らにとっては未経験の内容も多く戸惑いも多かったらしい。というわけで、管理人室に入るなり一呼吸、とした浬がボヤく。
「はぁ……試練っていうからいつもみたいになんか良くわかんない部屋が幾つもあって、みたいな感じになるのか、とか思ってたのに……なんなの、この試練……」
「まぁ、こういう試練は珍しいとは思うな。オレもこういうなにかどこかの施設を模した、というのは初めて経験する」
「こういうのってありなの?」
「ありはありだろ。闇の試練だったらメンタルに来る試練を課される事もあるらしいしな。結構えっぐいらしいぞ? ルナの試練は」
どこか冗談めかした様子で、カイトは浬らに残る二つの試練の内の片方について言及する。
「怖いんだけど……お兄ちゃんの時もそうだったの?」
「オレ? オレの時は微妙だったが……まぁ、痛い目に遭ったってのは事実だな」
どうやらこの兄が苦い顔になる程度には、痛い目に遭った事は事実らしい。とはいえ、そんな彼はそれを振り払うように首を振る。
「まぁ、それは良いとして。お前らの試練はどちらかといえば戦闘メインに構築されているから、メンタルを抉るような試練はあまりないだろう。ただやはり全部が同じだと慣れが出るから、時々無茶苦茶独特な試練が出る事はある」
「へー……お兄ちゃんだとどんな?」
「ああ、いや。オレは完全例外だ。試練を訓練として使ってるぐらいだから、そういう珍しいパターンが多くなる」
そもそもカイトはエネフィアというより全世界で唯一、試練をまるで訓練のように使うと言われている。なので彼が様々な独特な試練を受けていても不思議はなかったどころか、大精霊達曰くそういった独特な試練を彼で試して、それを実際の試練に応用する事もあったとの事であった。
「良いの、それ……」
「さぁな。ま、お互い楽しいから良いだろ……っと、それはそれとしてだ。とりあえず管理人室の調査を行いたいが……」
「まずは順当にキーボックスだね」
「だな」
ユリィの言葉に、カイトは入口のすぐ近くの壁に掛けられていた四角い箱を見る。が、こちらもやはりいつもの端末を置ける台座があり、ロックが掛かっている様子であった。というわけで、カイトは試しにキーボックスの台座に自分の端末を置いてみる。
「ま、そうなるでしょうよ」
ぶぶー、という解錠の失敗を知らせる音に、カイトは肩を竦める。
「それなんなの?」
「キーボックス。鍵を保管しておくための箱だな。よく映画とかで色々と鍵が釣ってあるものを見るだろ? あれだよ」
「鍵掛かるの? というか映画だとただ釣ってるだけとかじゃない?」
「いや、普通は鍵が掛かるし、壊せないようになってんだよ。ここに入れるなら鍵が取りたい放題。セキュリティなんてあったもんじゃない。ま、ゲームにせよなんにせよ、鍵を取るための鍵なんてやらされてたら面倒でしゃーない。だから無施錠とか不用心に置きっぱなし、とかになってるんだろうよ」
「たしかに」
カイトの指摘に、浬は多分自分が見てきた色々は演出の都合や攻略の都合に過ぎないのだろうと納得する。とはいえ、現実としてはそうなのだろうが、それをやらされると手間にもほどがある。というわけで、カイトは今回は、と口にした。
「まー、とはいえ。そのためにマスターキーを外に出してるんだろうな……鍵探してキーボックスから出す、とか手間だしな」
「そ、そう言われると今回の試練、なんかゲームっぽいというかなんというか……」
「あはは。デジタルゲームってのは雷華の権能になるからな……ま、ここは今回は中継地点という所か、そのまま休憩所という役割なんだろう。軽く調べて何もなかったら、隣の休憩室で休んで中庭を目指すぞ」
「はーい」
そもそもこの管理人室には休憩を兼ねて立ち寄っただけで、本来の目的地は中庭だ。なのでここで長居している事は出来ないし、ただでさえ通路での妨害も始まっているのだ。駄弁っていられる時間はなかった。というわけで、一同は少しだけ小休止を挟んで、休憩室での大休止の前に管理人室の探索を開始するのだった。
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