第3966話 雷の試練編 ――下士官エリア――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。
そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。
というわけでカイトはユリィ、ソレイユに妹の浬と共に軍用エリアを割り当てられる事になり、その調査を進めていたのだが、下士官向けエリアへとたどり着いた一同はそこでついに完全に戦闘を目的としたドロイドによる妨害を受けつつもなんとか下士官用のエリアへと到達。一般兵用のエリア同様に調査を開始する。
「……なんていうか、びみょーに釈然としない感が……」
「何が?」
「なんか広くない?」
「なんか、っていうか広いでしょ。明らか」
浬の指摘に対して、ユリィはふわりと舞うように浮かび上がって周囲を確認する。昨日たどり着いた一般兵向けのエリアは出入り口はすれ違うのが精一杯。クローゼットもかなり手狭で、机や椅子は折りたたまないと使えないという有り様だ。
それでも高度な技術に支えられて全てを片付けた後にはそこそこの広さを有していたのだが、それに比べて下士官用の部屋は普通のマンションのワンルーム並の広さがあった。
というわけで流石にここまで広くなると半分に部隊を割る必要もなかったし、現状を考えれば何時また人型ドロイドが襲ってくるかわからない。多少時間が掛かってでも四人で一つずつ調べる事にしていた。
「5……いや、最低でも6か7畳ほどはあるだろうな」
「倍かそれぐらい……はありそう……」
確かに一般兵と階級が異なれば扱いが異なるのは無理もないのだろうけど。浬は目測で大体の広さを口にした兄に、少しだけ顔を顰めていた。
「そんなもんだよ、扱いなんて」
「私達でさえにぃとは扱い違うもんねー」
「そうそう。カイトなんて言わなくても女の子が出てくるぐらいだし。それも何人も」
「え゛?」
「やめてくれ、その風評被害……出てくる立場だし出されて不思議のない立場ではあるんだけどさ」
思わず盛大にドン引きした様子で妹から視線を向けられたカイトであるが、そんな彼女の視線にカイトは盛大にため息混じりだ。というわけでエネフィアの一般的な貴族として考えれば何ら不思議のない対応を取られているのに、これに嘆きさえ滲ませるカイトにユリィが少しだけ苦笑いだ。
「なんだよねー。カイト、それやられるとテンションだだ下がりになっちゃうんだよねー。女の子、よりどりみどりなのに」
「お前な……だからオレはヤりまくりとか嫌いなんだって。なんかもう、あれは単に種馬扱いにしか思えんのよ」
まるでさも据え膳食わぬは男の恥とでも言わんばかりのユリィに、カイトはがっくりと肩を落とす。とはいえ、こんな物が単なる演技であるぐらい、カイトもわかっていた。というわけでユリィが笑う。
「あはは。冗談冗談……ま、実際種馬扱いというか種馬扱いなんだけどね。とはいえ、カイトはそういう事をしないで良い、って言われている立場だし」
「本当は、一杯子供仕込まないと駄目だけどねー」
「そんなに仕込んで欲しけりゃ、お前らに仕込むぞ」
「にぃの赤ちゃんなら……良いよ? あ、でも……優しくしてね?」
「電気消すね?」
「……」
楽しそうだなぁ。まるで初心な乙女のような恥ずかしげな表情を浮かべる――しかもわざわざベッドに移動してまで――ソレイユとそれに楽しげに乗っかってくるユリィに、浬はそう思う。これにカイトは盛大に肩を落としてため息を吐いた。
「はぁ……本当に仕込むぞ、おい……はぁ……ほら、さっさと部屋の調査だ。無駄な時間使わせやがってからに」
「「はーい」」
ぴょんっ。どこか疲れた様子のカイトの言葉に、ソレイユもユリィも今までの物がまるで演技のように、二人がベッドから飛び降りる。というより正しく演技なので、そもそもここでなにかをするというつもりはまったくなかった。というわけで、一同は改めて気を取り直して部屋の調査を開始する。
「とりあえずベッドは一般兵用と同じ折りたたみ型か?」
「うーん……どうだろ。こっちは割としっかりとした作りっぽいけど」
「確かにこのぐらいの広さがあれば、ベッドは備え付けでもよいのかもしれんが……それでも手狭に感じるが……」
確かに部屋の広さとしてはビジネスホテルのシングルルーム並にはあるので、寝泊まりする分には問題ないだろう。流石にアイロンを掛けたりする分には少し手狭だが、そこれは技術でなんとか出来る問題だ。だが同時にベッドがなければ更に広く使えるので、ベッドを出したままにしている理由を少し探りたい所ではあった。というわけでベッドを調べていたユリィだが、しばらくして首を振った。
「うーん……駄目だね。なにか金属かとは思うんだけど……」
どうやらこの部屋のベッドはしっかりとした作りになっているらしい。ユリィが何度かベッドを下から持ち上げようとしてみたものの、何度か試してみて無理だったようだ。
「となると、相対位置の固定か、ボルトかなにかで固定してるかか」
「流石にボルトで止めちゃうと面倒だから相対位置の固定じゃない?」
「どーだろ……ボルトがない所を見るに、足を磁力かなにかで吸着させてる可能性もあるな。それか足の下には穴があって、なにかでロックが掛けられるようになっているか……」
ベッドの下を覗き込んでみて、カイトはそこに足がある事を把握。同じように持ち上げようとしても、なにかが引っかかっているかのように上手く持ち上がらない事を理解する。
「……まぁ、壊せば持ち上げられるだろうけど」
「無駄に壊す必要もない……かな」
「だな」
ユリィの言葉にカイトは強引に持ち上げる事を諦める。確かに必要なら全て壊して洗いざらい確認するのも選択肢に入れられるが、それをする必要があるとは思えなかった。
「……で、そっちの机は……」
「ん」
ベッドはとりあえず良いだろうし、下も覗き込んだ限りなにかが落ちている様子はなかった。というわけでカイトは続けて逆側に備え付けられていた小型の机を見て、その横に備え付けられていた金庫を見る。が、そんな彼の視線に浬が小型の金庫を開いて見せる。もちろん、中には何もなかった。
「ロックも掛かってなかったよ。これ」
「ってことは、ここに金庫があるぞ、って感じの見せかけか……」
「まぁ、順当に考えると金庫の中に重要な物が収められてる、って所なんだろうね」
「だろうなぁ……」
おそらくこの下士官用のエリアで探すべきはこの金庫なのだろう。カイトは下士官用の居住区に備え付けられていた金庫を見てそう思う。というわけで、カイトは改めて小型の金庫を確認する。
「端末認証型の金庫か。重さは……まぁ、持てはするぐらいか」
金庫の蓋を閉じて表面を見てみると、そこには端末を乗せられるような傾斜が付いたガラス板のようななにかがあった。それをカイトはこの端末を鍵としているのだと認識した様子である。
「てなると、おそらく何処かにロックが掛かった金庫があるんだろうな。この様子は」
「ねぇ、にぃー。これ斬れる?」
「どうだろうなぁ……そんな力技が通用するようになっているとは、思わないけどな」
元々大精霊達はカイトが下手になにかを置くとそれを利用して攻略する事を知っている。なのでこういった金庫にただしまい込むだけ、というのがどれだけ悪手かは彼女らが一番知っているだろう。
それこそ、果ては普通に鍵開けもしてしまえるかもしれないのだ。そんな無駄はしないと考えられた。が、ものは試し。何事もやってみるのが重要である。というわけで、彼は全員に少しだけ離れるように指示。一応金庫のロックを掛けると刀を腰に帯びて、一瞬だけ呼吸を整える。
「ふっ」
「……うそぉ」
達人は斬るもの、斬らないものを選べるとは聞いた事があるけど。浬は兄がその領域に到達している事に思わず目を見開いて驚きを露わにする。そうしてカイトの斬撃で金庫が真っ二つに割れて、しかし次の瞬間。カイトの声が響いた。
「あ、これ駄目だ」
「え? きゃあ!」
なにかが爆ぜるような音が鳴り響き、衝撃波が金庫から放たれる。が、衝撃波は同じように退避していたユリィが展開した障壁で包みこまれ、完全に無力化していた。
「閉じた瞬間、内部が異空間化するパターンだな。ロックを解除しない限り、破壊は内部に収められたものの破壊を意味するんだろう」
「やっぱり対策はしてきてるよねー」
「だろうなー……まぁ、そうじゃないとこうなるのは目に見えた話だったし」
ユリィの呑気な言葉にカイトも呑気なものだ。とはいえ、先にも言われている通りこんな物はカイト達に課す上での当たり前でしかなかった。なので彼らも気にする事なく、正攻法を決めるだけであった。
「でもどうするの? この端末って持ち替えてもその人のアカウントになるでしょ?」
「おそらく何処かにマスターキーはあるだろう。一応は軍の備品だから、万が一なにかがあった場合に開けられないと困るからな。ってなわけで、第一目標はマスターキー。第二目標はロックされた金庫。オーケー?」
「「オーケー!」」
「あ、うん……」
流石に元気に子供っぽく返事をする事は浬には出来なかったらしい。どこか冗談めかした様子の兄の言葉に応ずるユリィとソレイユに僅かに気圧されながらも、方針としては同意していたので頷くだけであった。というわけで、一同は目標を定めると、とりあえず再び一つ一つ下士官用の部屋を調べていく事にするのだった。
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