第3965話 雷の試練編 ――ドロイド――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。
そうして風の試練同様に自分の妹を筆頭にした地球側の面々と再合流を果たす事になったわけだが、そんなこんなで一同は四つの部隊に分けられて、それぞれが割り当てられたエリアの攻略へと臨むことになる。
というわけでカイトはユリィ、ソレイユに妹の浬と共に軍用エリアを割り当てられる事になり、その調査を進めていたのだが、下士官向けエリアへとたどり着いた一同はそこでついに完全に戦闘を目的としたドロイドによる妨害を受ける事になっていた。
「……」
ちんっ。カイトは立ちふさがった人型ドロイドを袈裟懸けに斬り裂いて、残心のように一瞬だけ呼吸を整える。そうして僅かな一瞬、思考を巡らせる。
(ゴーレムを相手に何度も<<転>>はやって来たが……なるほど。これは……)
感覚がゴーレムと戦った時のそれとはかなり異なっている。カイトは高度に発展したドロイドと交戦してみて、そんな事を思う。
(こいつも魔力で動くが、可能な限り意思が宿る可能性を排除した機械に近い。ゴーレムよりもマシン……面白いな)
エネフィアに存在するゴーレムの大半が魔石や設備内であれば魔導炉からの補給をエネルギー源として魔力で動くわけだし、このドロイド達も確かに魔力を動力源として動いている。だがやはり技術力には明らかな差があったようだ。
(感覚としては岩や木々を切り裂く感覚に近い。自然物に近い感覚だ。方向性の差か……それともそれ故にこそのこの方向か……)
この文明は気が付いているのかもしれない。カイトは二体、三体と人型ドロイドを斬り裂いて、その都度自身の感覚を理論的に分析する。
(読めはする)
背後から迫りくるドロイドの一体が、両手を振り上げてまるで前に突き出すかのような姿勢で停止。そのまま横にスライドするかのように、カイトに向けて突進を繰り出す。
「ふっ」
両手代わりに人型ドロイドの手に設けられたのは魔石だ。それに必要に応じて魔力を通して、その時々に必要な形状へと変化させていた。手はないが、魔力を手とすることが出来たのだ。
そしてその応用で、貫手のように魔力の手を槍の穂先のようにしてカイトへと突進してきていた。だが、そんな物が問題になるカイトではない。故に彼は迫りくる人型ドロイドをまるで見る事もなく、振り向きざまに一刀両断。そのまま返す刀で、射掛けられる無数の魔弾を全て斬り捨てる。
「……」
いくら高度に発達したドロイド達だろうと、無音での行動は不可能だ。故にカイトは自身が背を向けた人型ドロイドが即座に同様に腕を振り上げたのを理解する。
「遅い」
腕を振り上げた一体の両腕を一息に切断。がら空きとなった胴体を蹴っ飛ばして、また別の一体を巻き添えに吹き飛ばす。そうして二体の人型ドロイドが重なったと同時に、カイトが一瞬で通路を駆け抜けて串刺しにしてしまう。
(人形に魔力を残してはならない、か)
こう言ったのは、何時の世の誰だったか。カイトはもはや記憶の彼方に消え去った某の言葉を思い出す。
『下手な人形遣いほど注いだ魔力が漏れちまう。そして、注いだ魔力の残滓を人形に残しちまう。こりゃ駄目なんだ。長いこと一つの人形を使って、そいつに魔力を残しちまうと、そのうち人形そのものに魔力が宿っちまうのさ。そうなると、こいつみたいに半分自律型の人形が生まれちまう……付喪神のなり損ないみたいなもんさ。見るも哀れなもんだろう? これがまだ付喪神になれる可能性がありゃ良いんだけどさ。ないと、もう哀れで仕方がない』
だから上手い人形遣いは魔力の残滓を人形に残さない。どこかの世界、どこかの時代で人形遣いと呼ばれた誰かの説明が脳裏に響く。
(相当高度な素材と技術を使っているな……魔力を残さない……魔力を良く通す素材だ)
左右から迫りくる魔弾の嵐を身を屈めて回避して、身体全体をバネにして跳躍するように右の一体へと肉薄。袈裟懸けに斬り捨てる。
(やはり魔力の通りが良い……斬りにくいな)
魔力が良く通るのだから斬りやすいのではないか。そう思うかもしれないが、魔力が良く通る、という事はとどのつまり魔力による攻撃を吸収してしまう、という事だ。
そして吸収力は必然、物体の体積に比例する。剣戟に、刺突に魔力を利用している場合、その分だけ多く魔力を使わねば魔力の補助なしで攻撃すると同じ事になってしまうのであった。というわけで相手の戦闘力にしては強めに斬撃を放つカイトは、更に背後の一体を切り捨てつつ、更にソレイユに視線を向ける。
(流石ってところか)
ソレイユもどうやらこのドロイド達が自分達では理解出来ない素材を使っている事を理解したようだ。矢の先端に強固にした魔力を鏃のように生成して、先に吸収。命中した部分の許容量を超えてドロイド全体に魔力が波及する前に本体となる矢の鏃が命中し、貫通させるという二重構造を構築していた。
これが出来るのは間違いなく凄腕の証だった。というわけで、普通なら問題になる相手も特に問題にならないまま更に数分。気付けば周囲には人型ドロイドの残骸の山が出来上がっていた。
「これで終わりかな?」
「終わり、であってくれれば良いんだがな」
アラートは鳴り止まないが、ひとまず人型ドロイドの増援は停止していた。というわけでカイトは刀を納刀し、ソレイユは顕現させていた弓を消して浬の背から降りる。そうしてソレイユが離れたのを受けて、浬がため息を吐いた。
「なんだか無茶苦茶疲れたんだけど……」
「ま、お疲れ様」
「これでにぃだったら自分で近接戦闘しながら動き回ってくれるんだけどねー」
「えぇ……? ていうか、ソレイユちゃんもそれで大丈夫なの……?」
「そっちの方がもっと敵を倒せるよー」
「うそぉ……」
やはりどうやら、まだまだ兄達には遠く及びそうにないらしい。浬は楽しげなソレイユに信じられないものでも見るかのように顔を顰める。とはいえ、そうしかめっ面を浮かべてばかりもいられない。
「二人とも、それは良いけどさっさとしないとまたゴーレムが来ちゃうよ」
「おっと……お兄ちゃん」
「そうだな。さっさと調査を開始するか」
一旦増援が終わったのか、それともこれで在庫切れなのかは誰にもわからない。ならば一時的とはいえ敵が来なくなったタイミングで進むしかなかった。というわけで、一同は戦いの最中に下りていたシャッターをカイトの斬撃で強引に突破して、下士官用のエリアの調査を開始するのだった。
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