第3963話 雷の試練編 ――移動――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして再び地球組と共に行動を開始するカイト達であったが、その最中に強制的に四隊に分けられる形となっていた。というわけでカイトは四つのエリアの内の一つとなる軍用エリアの攻略を目指す事になり、ひとまずは一般兵向けの居住区へと足を運んでいた。
「……ここを逆側に向かえば良いのか」
「ここをこっち?」
「そっち」
「あっちは?」
「あっちは関係ない」
あっちこっちそっち、やカイトにしては説明不足が多いのはやはり兄妹だからなのだろう。そして浬も詳しい説明を求める女の子ではない。更にはソレイユもユリィもカイトに乗って移動するだけで、行き先にも興味はないのかカイトを挟んでおしゃべりに夢中だ。というわけで言葉数こそ多いが、ほぼ中身のない会話が大半という所であった。
「てかさ、お兄ちゃん。その状態で戦えるの?」
「まぁ……この状態でも戦えるかと言われりゃ……どうとでもなるが?」
「私もどうにでも出来るよー。もちろん、流石にこれで本気で戦えるか、っていうとそんなことまでは無理だけど」
「私は出来るよ?」
「お前はある意味オレに乗ってるだけだからな」
相変わらずというべきかは定かではないが、カイトの今の状態はというとソレイユが背に乗って、それをおんぶしている状態だ。慣れているのか、それともソレイユが軽いからか、それともソレイユがしっかりと掴まっているかは定かではないが、一応片手で支えている様子だが、その空いた片手でスマホ型の端末を操っている。両手が完全に塞がっていた。
「まー、そういっても。カイトの本当のフル装備ってこれに頭に日向が乗っかるからねー。まだまだ軽いんじゃない?」
「自動迎撃システムだねー」
「その分重量が重くなるから速度は落ちるけどねー」
「はぁ……まぁ、こんな塩梅でな。これで悲しいかな、こいつらはエネフィアでも上位層の猛者だし、日向も魔物のランクに当てはめればランクSも最上位の竜だ。並大抵の相手ならこいつらが好き勝手してるだけで殲滅されちまう」
「……そか」
どうやらこれで普通に戦えてしまう程度には、この一見すると自分よりはるか年下にしか見えない少女らも強いらしい。
「……というか、ソレイユちゃんってそこから矢を射れるの?」
「出来るよー。にぃにぴたーって張り付くと結構引っ張れるし」
「いや、全然引っ張れてないじゃん……」
弓矢を放つ時の姿勢、というものは浬もテレビやアニメで見た事がある。なので身体全体を使って弓を引き絞る姿をイメージ出来るし、ここまでも何度かソレイユの射撃の姿勢は見てきた。
彼女がその例に漏れていない事は知っていたのだが、流石にカイトの背に乗った状態で弓を引き絞る動作に無理がある事はわかりきっていた。というわけで全力に比べれば全く引き絞れておらず、これで飛ばせられるのか、と思う程度でしかなかった。
だが、だ。ソレイユはエネフィア最強格の一角。常識なぞそこにはなかった。そしてその瞬間。一筋の風が浬の頬を撫ぜる。
「……はい?」
「今の速度ぐらいならにぃの上からでも毎秒20か30発ぐらいで連射出来るよ?」
「……いやいやいやいや!? やらなくて良いから!?」
自身の頬を風が撫ぜた感触で、浬はソレイユが超音速かつソニックブームさえ生じさせず矢を放った事を理解。続けざまに次の矢をすでに番えていた彼女に大慌てで首を振って制止を掛ける。
「はぁ……なんで出来るの?」
「そんなの当たり前じゃん。弓を引き絞っただけで矢が音より速く飛ぶわけないんだから、魔術や魔力で底上げしてるの。弓を引き絞る、っていう動作に意味がないわけじゃないけど、それは重要じゃないんだよ。あと、いつもより小ぶりの弓使ってもいるし」
「そ、そうなの……」
どうやら頂点の猛者達に自分の地球の常識なぞ意味のないものだったらしい。浬はソレイユの真面目な返答に頬を引き攣らせる。
「言ったろ? 弓ならこいつはオレ以上だって。オレが暑苦しい以外じゃ問題ない」
「ぴとー」
「暑苦しいからやめれ」
楽しげに効果音まで口で言いながらひっつくな。カイトは自身の頬に自分の頬を擦り付けるソレイユにため息混じりだ。これに、ソレイユは楽しげに笑いながら口では不満を口にする。
「えー……じゃあ、ふー」
「うひゃあ! もっとやめろ!」
「……なんだろう、この絶妙に羨ましくないのって……」
一応見ている限りでは美少女から耳に吐息を吐きかけられているのだが、どうにも子供がじゃれついているようにしか見えない。とはいえ、これは完全に数多の冒険を経て、多少の危険ならば慣れているからこその余裕の現れだった。
「おら、行くぞ。次ふー、ってしたら振り落とすからな」
「ふー」
「うひゃあ! 降りろ、お前!」
「うわっ! ちょっと! 私も居るんだけど!?」
「わーい!」
「え?」
カイトが身を捩ってソレイユを吹き飛ばしたわけだが、そんなソレイユはまるで投げ飛ばされたかのように楽しげに、浬へと一直線だ。
「うぎゃ!」
「よいしょぉ!」
「な、なんで私……」
ソレイユは器用に浬の首に抱き付くや、そのままくるりと浬を中心に半回転。彼女の背に回り込む。
「にぃとの感覚差チェックでーす」
「あ、それはちょっと私も気になるかもー」
「えぇ!?」
今度は私なの。カイトの肩から飛び立ったユリィに、浬が思わず目を見開いた。というわけで仕方がないとソレイユを背負う形で姿勢を整える浬であったが、そこでふと目を丸くする。
「……ん?」
「どしたの?」
「お兄ちゃん……」
「んだ?」
なんでそんな睨まれる。自身を若干睨みつける浬に、カイトは意味が理解出来ず小首を傾げる。というわけで何がなんだか本気で理解していない様子の兄に、浬は念話を繋げた。
『あの、お兄ちゃん……ソレイユちゃん。きちんとあるんだけど』
『あるって……何が? いや、別に股間には何もついてないだろうが』
『皐月ちゃんじゃあるまいし、ついてたらびっくりよ!?』
『いや、だからまぁ、そういうパターン想定してたのかな、と』
浬の怒声に、カイトは楽しげに笑う。ちなみに、一応口には出来ないと念話を選択している浬であるが、この場に居るのは全員彼女以上の猛者。当然念話は聞かれていた。
『さ、流石に私も男の子に間違えられた事はないよ』
『だよな。てか、ソレイユが男に見えたら驚きだよ』
『うぇ!? なんで!?』
『なんでって……念話が盗聴されないとでも思ってるの?』
「えぇ……?」
どうやら念話で気を遣うのは無駄だったらしい。ソレイユの言葉に浬は思わず声に出して肩を落とす。
「あの、ソレイユちゃん? 一応女の子なんだから、あんまりお兄ちゃんにそんなベタベタしちゃ駄目だと思うよ」
「なんで?」
「なんでって……いや、女の子なんだし……」
「別に一緒に何度もお風呂にも入ってるし。三人というか日向も入れて四人でよく一緒のベッドでも寝てるし」
「……」
「……」
一気に温度が低下した視線に、カイトは無言で目をそらす。というわけで視線を逸らして、彼は口を開いた。
「しゃーねーだろ。勝手に潜り込んでくるし、こいつらの場合って鍵が意味を成さないし」
「そういうことじゃないでしょ! というか、お風呂は防げるでしょ!? どういうつもり!?」
一応種族的に見た目が見た目、という事は浬もわかってはいるのだが、そういうことではないだろうと言いたくなったらしい。カイトのどこか諦めさえ滲んだ返答に声を荒げる。
「え? でも浬もカイトと一緒にお風呂に入った事ぐらいあるよね?」
「そ、そりゃ大昔はね!?」
「じゃあ良いじゃん。あ、それだったら今日帰ったら皆でお風呂はいろー!?」
「「「それは駄目」」」
「えー!?」
あ、ユリィちゃんも流石にそれは止めに入るのね。浬はまるでさも名案と提案するソレイユに即座に制止を入れた彼女にそう思う。
「いや、てか流石にオレもこの年になって浬と一緒に風呂に入れと言われりゃどう反応すりゃ良いかわかんねぇよ」
「流石に私も合意ありなら別だけど、なし崩しは止めるわ」
「むぅー」
駄目かー、そんな様子で異口同音に却下を口にされたソレイユが頬を膨らませる。そんな彼女に、身軽になったカイトが苦笑いを浮かべながら先導役を浬から引き継いだ。
「ほら、とりあえずこっちだ。行くぞ」
「はいはい……っ」
一同が分かれ道を進んで下士官用のエリアへと足を進めた瞬間。なにかが変わった事を浬は理解する。そしてそれはかすかに感ずるだけの彼女と違って、カイト達は更に明確に認識していた。
「ソレイユ、ユリィも。そのままで良い。浬のフォローを頼む」
「りょーかい。ソレイユ、障壁はこっちで展開するから、ソレイユは全方位に攻撃よろ」
「任されましたー」
口調こそ先程までと同じだが、声音が明らかに違う。浬は改めてカイト達三人が俗に言う猛者と呼ばれる者たちで、ひけらかした技術も単に実力を思い知らせるためだけのものに過ぎないのだと理解する。そうしてわずかに楽しげに、そして獰猛にカイトが笑う。
「どうやら、一般兵の権限で許可なく下士官用のエリアに入ろうものなら即座に監視が入るってわけか。そりゃそうだ。簡単に入れようものなら、好き放題出来るんだからな。一応は今は警告って所なんだろうな」
明らかに見ているぞ、という視線にも似た感覚を感じる。カイトは笑いながらも、周囲に視線を巡らせる。とはいえ、流石は遠未来の文明。技術力は段違いらしく、どこから見られているかはわからなかった。というわけで楽しげな彼が更に一歩を踏み出すや、小さな警告音が鳴り響いてホログラフィの映像が浮かび上がる。
「……悪いな、何書いてるかわかんねぇよ」
「ほんとー? にぃがー?」
「ほんとほんと。なんの事だかわかりませーん」
浮かび上がるホログラフは赤色と黒がベースとなっており、警告している事が明白だ。だがそんな警告に、カイトもソレイユも楽しげでしかなかった。そして警告を無視して、一同は更に進んでいく事にするのだった。
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