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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第三章

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59.憎しみの果ての景色

 ものすごいスピードで、イオが地上に向かって滑空していく。

 ぎゃあっという悲鳴が束になって空気を揺らした。

 人々は目を見開き、悲鳴を上げ、逃げ走る。彼らにとっての「本物の怪物」を前に、恐怖に慄いて。

 違うのに。

 彼はバケモノじゃない、怪物じゃない。


「イオ……!!」


 イオか放った言葉が脳裏を駆け抜けていく。


『人間と仲良くなんて無理なんだよ』

『あいつら、俺が憎いんだ』

『本当の俺なんて、お前が知っててくれればいい』


 苦くて辛い過去が、イオにあんなことを言わせているんだ。

 でも、この状況は間違ってる。

 イオは戦いたくないはず。

 かつて戦争の手伝いをしてしまったと、やりたくなかったと、あんなに苦しそうに話していたんだから。

 

 止めなきゃ。

 やりたくないことを、やらないでほしい。

 イオには、もう誰も傷つけないでほしい。傷つかないで生きてほしい。

 ユズハさんは命がけでイオを守った。

 イオもまた私を守るために戦おうとしている。

 だったら……私も!


 よろめきながら立ち上がった私を、ロニーが驚いた顔で見つめた。

 

「チカ……?」


「私、行くわ」


「ど、どこへ?」


「戦闘をやめさせる。私がイオを守る」


「正気!? いくらなんでも無理だよ!」


「無理でもやるの! ロニーはここにいて!」


「ほんとに無理だってば! 危ないよ! 死んじゃうよ、チカ―!!」


 ロニーの叫びを背中で聞いて、地上へ続く螺旋階段を駆け下りた。

 

 舞い上がる土埃で視界が曇る。

 半狂乱で逃げ出す人、隠れる場所を探して右往左往する人、竜を迎撃に向かう騎士や兵士たち、だれもが口々に叫びながら駆けずりまわっている。


「チカ様!」


 外へ出ようとしたところで、名前を呼ばれて振り向いた。

 小さな人影がふたつ、壁際に蹲っている。

 

「アニヤ、ラミヤ!」


 私のお世話係をしてくれていた侍女たち、アニヤとラミヤだった。


「チカ様、ご無事でー!」

「邪竜に食べられちゃったかと思いましたあぁ」

「怖いですー」

「私たちも食べられて死んじゃいますー」


 恐怖で泣きながら抱きついてくる二人。


「大丈夫よ。彼は人間を食べたりしない。優しいドラゴンなの」


 少女たちが驚いた表情になった。


「ほ、ほんとうですか?」


 つぶらな瞳で見上げるアニヤとラミヤ。

 二人とも何も悪いことなんかしてない。この子たちのことも守りたい。


「本当よ。安全な場所にいてね」


 アニヤとラミヤに笑いかけ、宮殿の外へと走り出た。

 まさに阿鼻叫喚の光景が広がっていた。

 暗雲の垂れこめる空を、ドラゴン変化へんげしたイオが飛ぶ。

 逃げようと走る貴族たちの悲鳴、殺気に満ちた兵士の怒号。

 土埃と風に体が持っていかれそうになる。


「イオ!」


 声を限りに呼んでみたけど、イオは私に気づかないみたいだ。


「撃て! 撃て!!」


 口々に叫びながら、鎧を着た兵士たちが次々と矢を放つ。

 イオの目が赤く光った。

 彼に向かっていた矢が瞬時に焼き尽くされる。

 炎に追われて後退する兵士たちの後ろで、


「誰か、誰か火を消せ!」


 マントに火がついたラスティン国王が、必死の形相で叫んでいるのが見えた。


「竜に矢は効かないのか……!」

「もうだめだ、喰われる……」


 絶望の声を漏らす射手たち。

 地上へ首を向けたイオの目の色がギラリと光る。その色が、紫から暗い赤へと変化した。


(イオ、怒ってる……)


 炎を吐こうとしてる。

 今度は本気で、敵を焼くための大きな炎を。


「イオ! もうやめて!」


 ドレスの長い裾に足をもつれさせながら、夢中で叫んだ。

 私に気づいたラスティン国王が目を剥き、火のついたマントを投げ捨て、怒りもあらわに向かってきた。


「なまくら聖女め! 貴様が邪竜を呼んだのか! 兵士たちよ、あの女を狙え!」


 走る私の左右に急に高い壁が出現した。

 聳り立つ壁がラスティンとの間を遮り、流れ矢から私を守る。


『チカ、何してる!?』


 空中のイオが怒鳴った。

 私に気づいて守ってくれたのだ。


『ここは今から火の海だ。お前を巻き込みたくない、どけ!』


「どかない!」


 負けじと私も叫ぶ。

 苛立ちと怒りに燃える目で、イオが私を見下ろした。


『何で邪魔するんだ、いい加減にしろ!』


「お願い、戦わないで。イオが人を傷つけるところなんて見たくない!」


『綺麗ごとはよせ。お前だって殺されかけたくせに、まだそんな……』


 イオの言葉は途中で途切れた。続けられなかったのだ。


 ドン!!

 大きな破裂音とともに、足元が揺れた。

 上空を飛ぶイオの片方の翼に、穴が空いた。

 黒い巨躯が空中でグラリと揺れる。


「!?」


 ふたたび鈍い音が響いた。今度は連続して二発。

 イオの翼にもうひとつ穴が穿たれ、バランスを失った体が落下を始めた。

 赤い血が花びらのように空中に散る。

 雨のように降り注いで、私の頬を濡らす。


「イオ!!」


 その一瞬の私は、本当にどうかしてた。

 落ちてくるイオを――ドラゴンの姿の彼を受け止めようって、思ったんだから。本気で。

 空に向かって両手を広げた私の耳を、また爆発音が打った。

 壁の片側がはじけ飛び、爆風が私の行く手を阻む。


「きゃあっ」


 破壊された壁の間から見えた光景。

 離れた場所に、兵士と、大きな鉄色の塊がずらりと居並んでいる。


(大砲……!?)


 認識できたと同時に、ふたたび発射音が響いた。

 砲弾が私めがけて向かってくるのが、はっきり見えた。

 まるでスローモーションだけど。

 そんなわけない。

 だって動けないもの。でも、これ、直撃コースだ――


 そのとき、大きな黒い影が視界を覆った。

 轟音と衝撃が足元を揺らす。

 たまらず尻餅をつくと、どうと地響きをたてて黒い影も倒れた。


 衝撃で巻き起こった風が土埃のベールを引き裂き、視界が開ける。


(なにが起きたの……?)


 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 瓦礫が散らばる地面の上に、イオが横たわっていた。

 大きな翼の部分以外は、もう、ほとんど人間の姿で、血まみれになって。


お読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークしてくださった方、重ねて御礼申し上げます。

完結までお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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