表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/64

57.凍える王都に現れたもの

 鉄格子の向こうに立っていたのは、騎士たちを従えた国王ラスティンだった。

 王弟ジャスティン殿下の姿もある。


「立て、聖女よ」


 ラスティンが冷たい声で命じる。

 松明の火に照らされた彼の顔は、あきらかに引き攣っている。


 騎士たちの中から特に屈強な二人が牢の中まで入ってきた。

 両側から腕を掴まれ、無理やり立たされる。

 そのままボロボロのマントを着せられた。

 頭から被せられたフードには、大きく「罪人」という文字の刺繍が施されている。


「え、ちょっと、何?」


 私の抗議に耳を貸すことなく、ラスティンが今度は騎士たちの方を見遣って顎を上げた。

 合図を受けた騎士たちに引き摺られ、檻の外へと出る。

 プロレスラーみたいな男二人に両側からガッチリ抱えられ、足がほとんど宙に浮いた状態で暗い階段を上った。


 地上に着き、塔の外へ出る。

 昼間のようだった。でも太陽は見えず、あたりは暗い。

 数日ぶりに見上げる空は低く、強い風が唸りをあげていた。

 頭上には濃い灰色の雲が幾重にも渦を巻いている。

 あきらかに異様な光景だった。

 そのうえ、気温が以上に低い。吐く息の白さが、さっきまでより濃くなっている。


「私が牢に入ってる間に、冬になってたの……?」


 一瞬、本気でそう思って、ジャスティン殿下に話しかけた。

 牢で過ごして十日くらいかと思ってたけど、もっと経ってた? 季節が変わっちゃうくらい?


「そんなわけがあるか!」


 怒鳴ったのは国王ラスティンのほうだった。

 ジャスティン殿下は泣きそうな顔で黙り込んでいる。


 庭園に設けられた東屋の周りに、大勢の騎士や衛兵が集まっていた。

 神官らしきローブ姿の男性たちもいる。

 その真ん中へ連れてこられたところで、両脇を抱えていた男たちが急に手を離した。


「痛たっ……」

 支えを失い、その場にへたりこんだ私の目の前で、庭園の植物が見る間に枯れていく。

 それどころか、地面の色が白く変わりはじめた。

 ……氷だ。


 薄氷が大地を覆っている。


(なにこれ……いったい、どういうこと?)


 花々が枯れ、緑色の葉が茶色く朽ちていく。白く凍る大地。

 ……この光景、前にも見たことがある。


「いつから、この状態なの」


 尋ねる私を、ラスティンは忌々しそうに見下ろした。


「今朝からだ、なまくら聖女。白々しい、貴様が知らぬはずはないだろう。祈れ! いや、呪いを解け!」


 今さら何を言ってるんだろう? 私のこと偽聖女って思ってるくせに。

 言い返す前に、ラスティンが震える声で続ける。


「この嵐も凍る大地も、貴様の仕業だな。余を恨んで呪いをかけたのだ。いますぐやめろ! 聖なる力を悪用する恐ろしい女め!」


「陛下、冷静に! これ以上、聖女様を怒らせては……!」


 傍らで王弟ジャスティンが進言する。

 額に青筋を浮かべ、ラスティンは喚き続けた。


「うるさい! このままでは全ての作物が枯れる。それどころか皆、氷に閉ざされて死ぬぞ。この女が余に向かって呪いの言葉を吐いたせいだ、国が滅ぶと!」


「何なのよ、さっきから呪い、呪いって。そんなの……」


 言いがかりです! と続けようとして、思い出した。


(あ、そうか。確かに言ったわ、私)


 あんたみたいなのが国王じゃ、アスダールは滅ぶ。

 私、ラスティンに、そう言ったんだっけ。

 でもアレは売り言葉に買い言葉っていうか、効力なんてあるわけない。

 そもそも、


「私、聖女じゃありません」


「まだ言うか!」


 激昂したラスティンが、いきなり腰の剣を抜いた。


「では死ね! 聖女ではなく魔女として、余が成敗してくれる!」


「きゃあっ」


 逃げる間もなく髪を掴まれ、地面にねじ伏せられる。 


「あ、兄上、それだけは! 取り返しのつかないことが起こります!」


「引っ込んでおれ、意気地なしが!」


 止めようとした弟ジャスティンを蹴り飛ばし、ラスティンが剣を振り上げる。


「地獄へ行け、魔女め!」


 もう殺される、と、思ったときだ。

 轟音がとどろき、大地が揺れた。

 ラスティンが怯えたようにハッと顔を上げる。

 どよめきがあがった。


「なんだ、あれは?」

「空に……空に裂け目が……!」


 私の周りを取り囲む男たちがどよめく。

 つられて見上げた彼方の空の一部に、亀裂が走っていた。

 まるで、ガラスにヒビが入るように。

 空のヒビが蜘蛛の巣状に広がる。

 

 バリバリと音をたてて、亀裂のむこうから真っ黒な雲が吹き込んできた。

 稲妻が走り、ふたたび雷が大気を揺さぶる。


「うわ!」


 風が強く吹きつけ、バランスを崩したラスティンが勢いよく地面に倒れた。


「ひゃ……!?」


 私も吹き飛ばされそうになって、東屋の柱につかまった。

 宮殿の上空に渦巻く黒雲。

 その中心に、ひときわ暗く、巨大な影がある。

 翼を広げた鳥のようなシルエットの中に、ギラリとふたつ、紫色の光が輝いた。


(あれは……!)


 地上の人々から悲鳴があがる。


「か……怪物だ!!」


 地鳴りのような咆哮が響いた。

 黒雲の渦を割って、影の主が姿を現す。

 それは――巨大な黒いドラゴンだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ