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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第三章

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47.秘密の部屋と竜の鱗

 ジャスティン殿下は頷いた。


「兄は……国王陛下は、黒炎の王子の再来を望んでいます。ですから、あなたとの間に意地でも子供をつくろうと考えているでしょう」


「えっ? あの、何ですか、その発想?」


「聖女の産む子どもには特別な力が宿る。国王陛下は、そう信じているのです」


「でもジャスティン殿下、聖女の子の父親は邪竜だって……」


「私個人の推論ですよ。誰も取り合ってくれません」


 ジャスティン殿下は自嘲的に肩をすくめた。

 すぐに真剣な顔に戻り、続ける。


「強大な魔力の持ち主を意のままに操れたなら、アスダールにとってこの上ない戦力になる。他国を侵略することもできますし、邪竜が暴れるなら森ごと焼いてしまうこともできるのです」


 ぞっと鳥肌が立った。

 ラスティンめ、そんな魂胆があって私をさらってきたのか。気持ち悪い、どこまで身勝手なわけ?


 嫌悪と同時に、怒りと悲しみが湧き上がる。

 いつかのイオの言葉が、頭の中を駆けめぐった。


『人が怖がる姿でいろって言われたんだ』

『それからずっと、ひとりだ』


 生贄のはずが生きて戻り、聖女と呼ばれた女性。

 彼女が生んだ異形の子は炎で敵を焼き払い、アスダールを守った。

 もしも、王子がイオだとしたら――彼は今も、とても苦しんでる。


「……ひどい」


 自分でも驚くほど掠れた声が口をついた。

 いつのまにか、喉がカラカラに乾いている。


「人を何だと思ってるの。ひどい。ひどい」


 ジャスティン殿下は慌てた仕草で私の顔を覗き込んだ。


「そうです、チカ様には申し訳ないことをしている。ですが、私はあなたから邪竜についての話を更に詳しく伺いたいと思っているのです。邪竜は人を喰らうことはないと仰いましたね。我々人間が邪竜と交渉をすることは可能なのでしょうか? それができれば、あなたに無理を強いずともアスダールを守ることが」


「そのためなら何をしてもいいの? 邪竜って……森にいるのは邪悪な竜なんかじゃない。黒炎の王子なんて勝手な名前をつけて、彼は本当は」


 優しいんだから、誰よりも。

 言ってしまいそうになって、飲みこんだ。


(だめだ。それを知られちゃ)


 邪竜の正体が誰なのか、王室の人々には伝わっていない。

 長い歴史の中で真実は隠され続け、忘れられ、誤解だけが残った。

 誤解は恐怖を招くと同時に、イオを守る結界として作用してもいる。

 

 ジャスティン殿下の眉が動いた。


「やはり、あなたはご存知なのですね。教えてください、邪竜の正体を」


「……」


 私は唇を噛んだ。

 いまは何も話すわけにはいかない。

 イオのために、どう振る舞うのが最善かわからない。 

 ひとりぼっちの彼を、ふたたび利用しようとする人間が現れてもおかしくないのだ。


 ジャスティン殿下が、何かを決意したように大きく息をした。


「チカ様。あなたに見ていただきたいものがあります」


 ジャスティン殿下が、おもむろに壁に近づき、書架の横のレリーフに右の掌を当てた。

 重たい音をたてて書架が動き始める。

 やがて、書架に隠されていた部屋の入り口があらわれた。


「何ですか、これ……!?」


「王位継承権を持つ者だけが開錠をゆるされる術をかけた部屋です。異世界から召喚した聖女たちの遺品が収められています。どうぞ」


 遺品、という言葉に背筋が寒くなる。

 ジャスティンに促され、私は秘密の部屋に足を踏み入れた。


 想像より広い部屋には、ドーム型のガラスケースがずらりと並んでいた。


(これ全部、聖女たちが持っていたものなんだ)


入り口に近い場所にあるケースには、見覚えのあるスマホが収められていた。


(五月女さんのスマホ?)


 電源が入らないスマホなんて、この世界の人たちにとっては無用の長物だろう。

 よくわからない品物も多い。でも、柘植の櫛やハイヒールもある。

いちばん奥のガラスケースの前へと、ジャスティン殿下は私を導いた。

「これは……?」


「真の聖女が愛用していたというネックレスです。チカ様のペンダントと似た石が使われています」


 ジャスティン殿下の言うとおりだった。

 ケースの中のネックレスは、親指の爪ほどの石を連ねて首を囲むチョーカーのような形をしている。

 私のペンダントとデザインは全然違うけれど、石たちは濃い紫色に輝いて――私が身につけているものと酷似していた。そう、イオの鱗と。


「チカ様ならご存知でしょうか。これは何の石でしょう。とても美しいですが、我々にはわからないのです」


「……触っても、いいですか」


「もちろん、どうぞ」


 ジャスティン殿下がガラスケースの中からネックレスを取り出し、私の手に載せる。

 顔を近づけて、自分のペンダントの石と比べてみた。

 とても似ている。ううん、たぶんほとんど同じもの。

 これは、竜の鱗だ。


(まさか、イオのお父さんのーー?)


 震える指で、ネックレスの石に触れる。


「……っ!!」


 とたんに眩い光が弾け、はげしい目眩が私を襲った。


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