44.書庫にて、活路は自ら開くもの
あくる日。
午後の祈りを終えた私は、ロニーを連れ、侍女たちの案内で王宮の奥へと向かった。
衛兵のいる厳めしい扉の前で、アニヤとラミヤが恭しく告げる。
「チカ様、こちらが王家の方々のための資料室です」
「案内ありがとう、アニヤ、ラミヤ」
王妃として扱われている今も、私にはわからないことがある。
真の聖女に現れる「御印」とは、いったい何か。
それは何をきっかけに発動するのか。
教育係に質問しても明確な返答はないし、毎度はぐらかされてしまう。
大事なことなのにと最初は腹がたったけど、最近は別の可能性を考えるようになった。
そもそも彼らも知らないんじゃないか、と。
誰も教えてくれないのなら、自ら調べるまで。
情報は取りに行くもの、活路は自分で開くもの!
そこで思いついたのが、特別資料室と呼ばれる部屋のことだ。
王族しか立ち入ることができないその場所には、歴代の王や王妃たちの日記が保管されているという。
(ということは、かつての聖女の記録もあったりしない?)
ある、きっとある。
侍女たちの案内でたどりついた資料室は、宮殿の奥深くに位置していた。
「私は中で調べ物をするわ。少し長くなるかもしれないから、扉前にはロニーだけ残って。アニヤとラミヤはお部屋に戻っていていいわよ」
「かしこまりました、聖女様」
「では、お部屋を整えてお待ちしております」
ロニーと侍女たちが頭を下げる。
特別資料室に立ち入ることができるのは王族だけだ。
私は聖女かつ王妃になることが決まっているため、入室を許されていた。
スイちゃんを腕に抱き、人気のない特別資料室に足を踏み入れる。
背後で部屋の扉が閉まった。
部屋の中には私しかいない。
「スイちゃん、動いて大丈夫よ」
声をかけると、お人形のフリで固まっていたスイちゃんが「ハー」と可愛く息を吐く。
『チカー、ココ、ナニスルトコロ?』
「調べものをするところよ。スイちゃんは楽にしてていいからね」
『ウン』
スイちゃんは嬉しそうに頷き、私の肩にちょこんと腰かけた。
特別資料室の広さは図書館クラスだ。
いくつもの部屋の、すべての書架に、本がぎっしりと詰め込まれている。
書架のあいだを移動しながら、すぐに心が折れそうになった。
図書館と違って明確な分類や表示もないから、有益な情報にたどり着ける気がしない。
だめだ。くじけるな、千花。
「昔の日記は……と」
それっぽい棚に当たりをつけて、何冊か開いてみた。
この世界の人たちと会話ができるのと同様に、私はこの世界の文字が読めるようになっていた。
見たこともない文字の羅列なのに、不思議で仕方ない。
だけど、これが異世界召喚に伴う力なのかもしれないな。
「これとか、どうかな?」
なんとか、王族の手記らしきものを見つけた。
でも、ページをめくってみても、聖女召喚や真の聖女についての記述は見当たらない。
そんな中、ある記録書に私は思わず読み入ってしまった。
それは、かつてアスダールが他国とおこなった戦争の記録だった。
アスダールが勝利をおさめた戦い。
その過程で、強大な威力をもつ兵器についての記述が登場するのだ。
(なんだろう……この絵)
空を飛び、火の玉を吐いて敵軍を撃破する巨大な兵器。
本体についての記述はない。
王妃教育でも、そんな凄い兵器の存在は伝えられていない。
(変なの……)
さらに書架に潜り、年表みたいな資料をみつけた。
聖女の異世界召喚の儀式は、過去に複数回行われているはず。
記述がないのは不自然に感じた。
それとも、一部の人間だけが知る秘密の儀式だったんだろうか?
(みんな名前も残らずに、邪竜の花嫁にされたってこと?)
そうだとしたら、酷いとしかいいようがない。
花嫁といっても、実態は生贄なのに。
でも、イオや彼のお父さんが、全員、元の世界に帰らせてあげたはずだ――私と、もうひとりを除いて。
『チカ、ダレカ来ルヨ』
おとなしく肩に乗っていたスイちゃんが、怯えた様子で囁いた。
開いていた本の上にストンと飛び降り、体を硬直させ、お人形のフリに入る。
同時に、背後から声がかかった。
「お勉強ですか、聖女チカ様」
ビクッとして振り向いた先に、若い男性が立っていた。
金髪、榛色の瞳。すらりとした長身に、美しい刺繍が施された絹の上着を纏っている。
王都に来てからの日々で、既に馴染みを覚えはじめていた顔だった。
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「霧の夜に黒馬車は誘う~亡き恋人と話せる石を買った令嬢の話」
N5479LR




